やる事やって、さぁ寝るかと云う時に小平太と長次が乱入して来た。
 何だ何だ、これから寝るってぇのに。何か用か。
 そう思い問いかければ、小平太がぶくっと両頬を膨らませた。

 ……げっ歯類の真似か?

 とりあえず、その小動物染みた動きに同室の馬鹿が悶絶しててキメェから、即刻やめろ。

「ずるいぞちーちゃん!」
「何が」
「最近夢さんがちーちゃんの話しばっかりだ! ちーちゃんも夢さんにかまってばっかりだし! い
つの間に仲良くなったんだ! ずるいぞ! ひどいぞ! うらぎりだ!」
「はぁー?」

 床に転がってじたばたしながら、妙な事を小平太が叫ぶ。
 何だそれ。
 何で俺が罵倒されんだ?

「お前……! 小平太と長次のみならず、夢さんにまで手ぇ出すとか信じられん……! なんと云う
阿婆擦がはぁっ?!

 馬鹿な事を云い出した同室の馬鹿の腹に、気合い一発。

 誰が阿婆擦れだ誰が!
 阿婆擦れっつーんならあの女の方だろが!

 死ぬ死ぬ云いながら悶絶してるが、叫べる元気があるなら平気だ。
 ほっといても死なん。

「ちーちゃんのばかばかばーか! もういっしょに遊んでやんないんだからなー!」
「なんだそりゃ。おい、長次。小平太の奴幼児返りしてねぇ?」
「……拗ねてるだけだ……」
「はぁー?」

 ますます分からん。
 何で拗ねる?

「……お前が、夢さんにばかり、構うし……夢さんは、お前の話、ばかりだ……」
「それが分からん。俺がいつ花都に構った?」
「……朝、よく一緒に、いるだろ……」
「早朝だけな。仕方ねぇだろ、俺だって食堂の手伝いしてんだから」

 会うのは云わば必然だ。
 あの女が厭だからって、おばちゃんへの手伝いを放棄したくねぇし。

 つーか、構ってねぇし、マジで。
 付き纏われてるの間違いだ、訂正させろ!

「夢さん、最近口を開けばちーちゃんの事ばっかりだ! カッコいいだの素敵だの男らしいだの旦那
さんにしたいだの!」
「げ」

 ちょっと待て。最後の待て。
 何勝手な事ほざいてんだあの糞女(あま)!
 俺にだって選ぶ権利あんだぞオイこらあああああああ!

「何だよちーちゃんのばか! ばか! ばかあああああ!」
「おいコラ小平太。いい加減にしろよ……」

 いくら俺だってなぁ、そんな理由で罵倒されたら腹ぁ立つんだよ!

「だってちーちゃんが悪いんだもん! 夢さんの事ばっかりかまって! 私達が遊べないじゃないか!」
「……ちっ、あぁそうかよ」

 そーかいそーかい。
 お前らはあの女ん事好いてんだもんなぁ。
 俺の事なんざ目障りだってか。
 好きであの女に関わってる訳じゃねぇってのに。
 長々と一緒に居た俺よか、ぽっと出女の方がいいってか。

 あぁ、そう。


「出てけ」


 低い低い、声が出た。
 怒りとか、悔しさとか、そう云う物が混ざり合った、どうしようもない声だった。

 小平太と長次が、目を見開いて硬直している。
 その面に向かって、もう一度繰り返した。

「不愉快だから出てけっつってんだよ」
「ちーちゃん」「ちぐさ」

 呆けたように名を呼ばれて、怒りの温度が一気に沸点に達した。


 悔しい。あぁ、悔しいとも。
 俺らの六年間はそんな薄っぺらだったのかとか、そう云う事より。

 あの、頭軽い、仕事も適当、男に媚売る阿婆擦れ女に、この俺が負けたって事実がなぁッッ!
 何だこの敗北感。悔しさで死ねるぞ。


 だから、その苛立ちをぶつけるように、声が出たのだ。


「出てけっつーのが聞こえねぇのか糞ボケ共がッッ!」


 怒声を一発。
 小平太の肩が跳ね上がり、ついで俯いて小刻みに震えたかと思うと、ばたばたと忍たまらしからぬ
足音を立てて出て行った。
 長次もまた、何か云いたげな顔でこちらをちらりと見たが、無音で出て行った。

 ……。
 はぁ……。
 何だってんだよ、ホントによぉ……。
 あの女来てから碌な事ねぇよ。

「千草……お前、なんか勘違いしてね?」
「あ゛?」

 今まで悶絶してた同室の馬鹿が、床に突っ伏したまま云う。
 いつまでそうしてるつもりだ。
 さっさと起きろよ。

「……。ま、別にいーけどねぇ。お前が小平太達と仲違いしてくれりゃぁ、俺的に恩の字だし」
「だから、何だよ。俺が何勘違いしてんだ?」
「ふふーん。教えないもんねー」

 ざまぁーなどと云いながら、同室者は布団に入ってしまった。

 ……勘違いって何だよ。
 あいつらは、俺が花都と一緒に居る事が気に喰わないんだろ? 花都の事が好きだから、他の男に
取られるのが厭なんだろ?
 俺より、花都の方がいいんだろ? だから、俺を罵倒してったんだろ。違うのか?


 首を傾げ考えたが答えは出ず、気付けば空が白んでいた。
 ……やべぇ、一睡もしてねぇ。



 4.バランス良くお食べ



 その日は寝不足で散々だった。

(とりあえず、散々な俺を見て腹抱えて笑いやがった同室の馬鹿はぶん殴っておいた)



 了


 小平太がどっちに嫉妬してるか……。分かりづらいけど、分かるかな? 程度の表現にしてみたん
ですけど。千草編の小平太と長次は補整弱め設定ですからねー。ははは。
 次あたり、一は出したい……何だろう本当に千草って、同級生とが書き易くていかん……孫は後半
かな……うん、多分……←

 千草の同室者は、拍手れすでちょろっと語られたあの子。寝汚いフツメン無自覚どM。追加属性
で小平太ファンが加わりました。←
 二人揃って、あくまでお互い同室者、友達ではないと思っています。心の底から。どちらか片方でも
友情を感じられたら友達になれたのにねー。残念。