朝早くの食堂。まだ俺以外の生徒はおらず、おばちゃんと二人きり。
 そんな俺の前に、てんこ盛りになった芋の山。

「……これ、昨日届けた奴ですよね?」
「えぇ、そうなんだけど……、夢ちゃんが剥き忘れたみたいなのよ」


 またあの女かッッ!


 拳を握りしめ、ぶるぶる震える俺は悪くねぇ。
 花都が食堂の手伝いをしてるのは知っている。
 俺は朝早く台所に来て手伝いをし、あいつが来る前に出て、あいつが居なくなった後飯を食いに
来てるから顔は合わせちゃいねぇが。
 やれ働き者だ天女様は笑顔できびきび動くともてはやされているが、裏を見れば何の事はない。

 人から見える所だけ立派にやってるだけだ。
 下拵えの手の抜きようと云ったらねぇ。

 現にこの芋の山とて、あの女が昨日の夜剥いておくよう云い付けられていた物だ。
 この時期だ。剥いた芋は水につけて外に出しとけば変色しねぇし、翌朝使うなら充分持つ。
 だからこそ、おばちゃんは夜のうちに剥いておくように云っていたのに、あのくそ女(あま)ぁ!

「仕方ないわよ、まだ慣れてないんだし」
「おばちゃん、その言葉一週間前も云ってたよ」

 云いながら、女のケツを拭う為に芋を剥き始める俺。
 おばちゃんは、「慣れない環境なんだし、可哀想じゃない」と云っているが、可哀想云々云うなら
女の仕事を代行してやってる俺の方が可哀想だ。
 この後畑に行かなきゃなんねぇのに、時間が無くなっちまった。
 仕方ねぇ、一時限目後の休憩時間、小平太と長次引っ張ってこう。
 果樹園の果物辺りで釣れるだろ、多分。

 つーか、行く場所が無いってーから学園の好意で雇われてるくせに、俺より遅く出て来るってど
う云う神経してんだあの女(あま)。
 普通、日の出前かそれと同時に台所に来るもんじゃねぇの?
 おばちゃん来るまでやる事ねぇなら、掃除するとかあんだろ。
 芋だって夜に剥き忘れたなら、朝早く来て剥いておくとかすんじゃねぇの?


 何なんだ本当に、あの馬鹿女。
 周りが優しいからって調子こきすぎだろ。


 苛々しながら芋を剥き続け、残すところ五分の一までなった所で、ばたばたと走って来る音がした。
 ……とんだ重役出勤じゃねぇか。

「お、おはようございます! おばちゃん、ごめんなさい! 私、お芋剥き忘れて……!」
「あらぁ、いいのよぉ。千草君がやってくれてるから」

 よくねぇよッッ!

 そう怒鳴れたらいいのだが、おばちゃん相手に云えるわけもねぇ。
 何なんだおばちゃんまで。
 その女は甘やかさないと死ぬのか?
 真綿でくるむように優しくしねぇといけねぇのかよ?
 どんだけ面倒臭ぇ生き物だ!

「え……? ご、ごめんね、ごめんね千草君! 私の仕事なのに……!」
「別に……」

 謝るくらいなら俺が来る前にやっておけよ、と思うが、口には出さん。
 おばちゃんはこの女贔屓のようだしな。
 余計な事云って怒られたくはない。

「あれ……? でも、どうして千草君が食堂のお手伝いしてるの? お当番?」
「あっはは、違うのよぉ。千草君はねぇ、好意であたしの手伝いしてくれてんのよぉ」
「そうなんですか?! わぁ……、千草君って優しいねぇ!」
「野菜の皮むきも洗い物もしてくれるし、お米も炊いてくれるから、あたしも助かっててねぇ」
「すっごーい! 流石千草君! 何でもそつなくこなしちゃうんだね!」

 女は三人揃うと姦しいと云うが、二人でも十分喧しい。
 と云うか、流石って何だ、流石って。
 そんな云われ方するほど、お前と親しい覚えはねぇぞ!


 苛々しながらも、極力顔には出さないようにして、芋を剥き終えた。
 結局夢都の奴、朝のうちは洗い物しかしてねぇし。
 これで衣食住保障されるって、どんだけ甘い対応だ学園長!

 腹立ったから、明日からしばらく果物の差し入れ無しにしてやる。



 3.昨日の内に用意していないからです



 翌日から何故か、花都が早く出て来るようになった。
 それはいいが……何で俺に教えを請う? おばちゃんに教えて貰えようざってぇ!
 俺だって暇じゃねぇんだよ!

(ところで。最近周りの目がキツイ気がすんだけど。……俺の気のせいか?)



 了


 不穏フラグ立ちました。(早ー!)
 天女さんが早く来るようになったのは、当然、千草に会うためです。健気ですね。←

 おばちゃんは教師じゃないので補整が効いてる状態です。神様曰く、「彼女が健やかな生活を送
れるように」との事らしいですよ。なんて過保護な神様ちょっと殴らせろ^^^ってあ、私だ^^^^

 千草が女に甘いのは、半分加藤村で育まれ、半分は実のお父さんの血と云う設定。
 千草の実のお父さんは女に大層弱く、奥さんにも尻にしかれておりました。でも乳より尻派だった
ので
本人的に悪くはなかったって云う。(すげぇ勢いで無駄設定!)そんなだから千草も女には一歩
引いてしまうのでした。(笑)