恐れていた事態が、現実になりました。


「聞いたわよぉ、晴(はる)くぅん」

 ふわふわの茶色い髪が舞い、愛らしい丸い目とお顔が凄味を持つ。

「あんた、あの天女様に云い寄られてんですって?」

 切り揃えた美しい黒髪が揺れ、切れ長の瞳が探るようにこちらを射抜く。

「水臭いですわね。わたくし達に話して下さらないだなんて」

 上品に小首を傾げ、二本のお下げが柔らかく動き、睫毛に彩られた目が細くなる。

「……隠し事は、いけない事よねぇ?」

 ざんばらの黒髪は凛々しさを醸し出し、赤い唇が吊り上がる。


 ……上から順に、三春さん、千夏さん、秋桐さん、冬菊さんで御座います。
 くのたま六年生の実力者、通称四季皇の皆様方です。
 皆さんのお名前に四つの季節が入っていらっしゃいますので、それを文字っての通称ですね。
 そして、その強さを表すために皇と云う字が使われている訳に御座います。

 くのたま教室の中で、僕と特別親しい方々でもあります。


「えぇと……穏便に参りましょうか、お姉様方」

 とりあえず、各々の手に握っていらっしゃる武器を降ろして下さいませ。
 貴方がたの得物は、一般人へ容易に致命傷を与えますので。


「あのね、晴次。勘違いしないで欲しいの」


 冬菊さんが、少し困った表情になって仰います。
 えぇと、勘違いと申しますと?

「私達はね、貴方が好きになった相手なら受け入れるわ。例えどんな醜女でも、性格がカスでも、傾
国の美女でも、年端も行かない幼女であってもね?」
「あの、いくら僕でも幼い女の子には……」
「分かってるわ。例え話よ」

 その割にお顔が本気です。

「貴方が愛した者は私達も愛せる。嘘でも冗談でも無いわ。此れは本気よ」
「よく存じております」


 人と云う物は好きな相手が出来ると、心に余裕が無くなるそうです。
 一人占めにしたいとか、自分だけを見て欲しいとか、他の人間に愛を囁くなど許せないとか、それ
が普通なのだそうです。

 ですが、まぁ、僕たちはその普通の枠組みの中に入っていないようなのです。


「私達は晴次、貴方を愛しているの。愛しているから、何をしても許すわ」
「晴君が私達を私利私欲で殺しても騙しても裏切っても利用しても貢がせてもポイしても許しちゃう」
「貴方を閉じ込めもしませんわ。晴次は空の下で笑っている姿が一番ですもの。自由に人を愛し、
人に触れ、生きて欲しいのです」
「貴方なら許すの。貴方だから許すのよ。愛しているから。愛してるの。本当よ? 信じてくれる?」
「はい、勿論です。僕もお姉様に対して、同じ気持ちですよ」


 在り得ないとは存じておりますが。
 僕もお姉様方から裏切られてもぼろ雑巾のように棄てられても殺されたとしても、憎みもしなけれ
ば恨みもしないでしょう。
 だって、愛しておりますから。


 お姉様方がはにかむように、愛らしい笑みを浮かべて下さいます。
 しかしその笑みもすぐに消え失せて、凄味の効いた――くの一のお顔になりました。

「そう。許すの。貴方だから――”貴方しか”許さないの」
「他の奴は駄目よ。許さない。許さない。絶対、何があっても、何をしても――許さない」
「貴方が愛するのはいいのよ。貴方からはいいの。でもね――」

 ぞわりと、背筋を怖気が通り抜け、首筋に鳥肌が立ちます。

 お姉様方はそれぞれ違った顔立ちの、違った美をお持ちの方々、ですのに。
 うっそりと微笑んだそのお顔は、



「晴次の許可なく晴次を愛する奴は―――許さないわ」



 まるで、血の繋がったご姉妹のように、そっくり、でした。



 − 普通の恋じゃないなんて誰が決めた。



 その後説得するのに一日かかりました。
 いえ、本当、今回ばかりは、どうか……とついには土下座までして。
 嗚呼、これで納得していただけたならば――と、願わずには、いられません……。

(お姉様方の目に冷気どころか殺気まで宿り始めたのは、見間違いだと、信じたく思います……)



 了


 晴次の恋人くのたま四人のビジュアルってもう決まってるんですけど、そう云えば絵にした事な
いですね。サイトでは。今度絵日記で描こう……←

 関係あるようで関係ない話。
 よく少女漫画とかで、「貴方のそれは恋じゃない!」とか「貴方より私の方が彼を愛してる」とか
「そんなやりかた……間違ってるよ」なんて主人公やキャラが云うシーンがあったりしますよね。
 あれ、すっげぇイラつくんですけど、私だけですか!←
 何お前勝手に人さまの気持ち決めつけて糾弾してんだよ! 神か! 神様気取りか! 本
人が愛だって云えば愛だし、恋なら恋なんだよ! と叫びつつ雑誌ぱーん投げつけたくなります。←
 いや、その愛し方が「嫌い」とか「同調できない」ならいいんですよ。個人の自由ですもん。人間
ですから受け入れられない事もあるでしょう。当然です。
 でもさも自分の言葉が一般論で絶対正義で間違いない完全に正しい事でお前は悪だ! 的に
仰りやがるもんですから、平手打ちの一つ二つ喰らわせたい気分になりますな!←
 後彼氏がちょっと別の女と仲良さげに喋ってただけで(別に腕組んでたとか手を繋いでたとかも
なく、ただの立ち話程度で)浮気だー! って喚くとか本当に殴りたくなります。おめーだって彼
氏以外の男キャラと喋ってんじゃねぇか! 見慣れない女とちょっと喋っただけで浮気って糾弾し
て被害者面か! ちね! って気持ちになります。どんだけ心狭いねん。←


 配布元:Abandon