男同士じゃ子供も作れないのよ! と、某天女さんが必死な顔で云ってきた。
 まぁ確かに、その通りなんだけどさ。


「僕は子孫残す必要ありませんからねぇ」
「おれの家も兄ちゃんと姉ちゃんがいるから、別にいいって云われてるしー」


 ついこの前、姉ちゃんに待望の第一子が生まれたばかりだし。
 兄ちゃんはようやっと嫁さん貰えたし。
 父ちゃんと母ちゃんからは、「勘は自由にしていいよ」って云われてるし。

 晴次なんて、子供産ませちゃ不味いモンなぁ。またお家騒動の引き金になってしまう。

「だから日本の少子化が進むのよー!」

 むきぃと、天女さんが叫ぶ。しょうしかって何だろう。


 最近よくこうやって、意味の分からない事を云いながら花都はおれ達に絡んで来る。
 最初から今まで適切に適当に相手にしてるんだけど、諦める気配がない。
 むしろしつこくなってる。
 まぁ頑張り屋さんと云う評価も出来なくはないのだけど、絡まれてるおれ達としては迷惑極まりな
かったりする。
 恋人同士の時間をこうも何度も邪魔されちゃぁ、苛立つってもんだろ?


 そりゃ確かに、少し前までおれは晴次が怖かったよ?
 出来る事なら誰かに助けて貰いたかったし、別れたいとも思ってた。
 けど、それはもう前の話。
 今は不器用に間違った方向へ行きながらも、おれに愛情を注ぎ続けた晴次に応えている。
 添い遂げても良いよ、と云えるくらい愛しているんだ。

 だからこの人の行動は、本当に鬱陶しいんだけど。
 下手に邪険な扱いすると、花都を好いてる奴らが五月蠅いし、「女性には敬意を持って接するべ
き」と云ってる晴次も厭がるから中々出来ない。

 と云うか、晴次。
 お前はおれと一緒になって怒って良い立場だぞ。
 どんだけ女に優しいんだ。

「じゃ、そう云う事で。ばいばい花都」
「おや」
「あ、ちょっとー?!」

 晴次の腕を取り、木の上から屋根の上へと飛び移り、おれ達は逃げた。
「待ちなさーい!」と花都は叫んでいるが、知った事じゃない。
 あいつはどうやら忍者に類する存在ではなく、ただの一般人らしいので、こうやって逃げれば追い
かけて来れないのだ。
 天女様、なんて呼ばれてるから空でも飛べるのかと思ってたけど、そうでもないらしい。
 だからおれの中で、あいつは一般人。
 天女様と云う高貴な存在じゃないんだ。

「勘右衛門、今のは流石に失礼なのでは?」
「失礼なのはあっちだろ。いくら云っても聞かないなら、逃げる方がいいじゃないか」

 世の中には、相手と分かり合えるまでとことん討論すると云う人もいるらしいけど、生憎と、おれ
達はそこまで暇じゃないんだ。
 そう云う事は、やりたい人だけがやってればいい。
 おれ達はあいつの言葉に同意する気も、あいつを説き伏せる気もないのだから、逃げるのが一
番良いんだ。
 どうせ追いかけてこれないしさ、あいつ。

「晴次。木下先生から外出許可貰ってさ、このまま街に行こうよ」
「えぇ? 今からですか?」

 腕を引いて屋根の上を駆けながら云えば、晴次は少し困った顔。
 確かに外出するには遅い時間だけどさ。


「明日、休みだろ?」


 云えば晴次は、合点の行った顔になり、次いで少し照れくさそうな顔になった。

「御誘いとは嬉しいですね」
「だって、最近ご無沙汰なんだもん」

 拗ねた風に云えば、晴次は何でか「すみません」なんて謝って来た。
 別に晴次が謝る事じゃないと思うけど、そう云う所がこいつの良い所。

「では何処が宜しいでしょうか?」
「この前行ったお茶屋さんがいいな。ご飯美味しかった」
「では、そう致しましょう」
「ふふん。今夜は寝かせないぞー」
「お手柔らかにお願いします」



 − 足を絡めても、生殖出来ない。



 外出届を貰いに行けば、木下先生は呆れたような、諦めたような顔をしていた。

「……ほどほどにな」

 うん、なるべくそうします。先生。

(あの女(ひと)は全く分かっちゃいない。生殖出来なくとも、愛はあるのだと云う事を)



 了


 天女さん空回り。
 晴次編前篇は晴次・勘ちゃん・金吾の三視点で話が進みます。いやぁ、晴次オンリー視点だと上
手く行かなそうだなぁと思いまして。

 天女さん、あらゆる意味で空回り。
 ですが雲麻の性格上、このまま平穏に進む訳がありません。
 損な役回りですが、天女さんには頑張っていただきましょう! すいません!(謝るの早い)

 お分かりとは思いますが。
 勘ちゃん関係の設定は全て 俺 設 定 であります。公式とはなんら関係ありませぬ!(当然)


 配布元:Abandon