縁側にてのんびりと勘右衛門と御茶をしばいておりましたら。


「男同士で付き合ってるなんて間違ってるわ! 私が更生してあげる!」


 突然、そう断言されました。
 びしりと鼻先に指を突き付けられつつ。

「……は?」「……は?」

 僕と勘右衛門は茫然です。
 突然上記のような事を云われて反応出来るほど、僕らは気合入ってません。
 むしろ、そう云う突拍子もない行動をしたり、突然漫才を始める方々を眺めている存在です。

 ですが、話掛けられた以上、茫然と眺め続けている訳には参りません。
 此処は指を突き付けられた僕がお応えするべきでしょうか。


「えぇっと、突然どうされたのです? 花都さん」


 一週間ほど前に学園へ降って来た”天女様”。それが彼女、花都夢さんです。

 艶艶の長い黒髪と、きらきら光る大きな瞳。愛らしい顔立ちに可愛らしい言動で、あっと云う間
に学園に溶け込み、忍たまの皆さんの憧れの的となったお方です。

 僕が親しくさせていただいているくのたまの皆様からは、手酷い評価を受けてる方でもあります。
 曰く。
「言動が態とらしい」「馬鹿っぽい」「品性の欠片も無い」「男漁ってる阿婆擦れ」「別世界から来
たとか云ってる痛い女」「盛りのついた雌犬」……などなど。
 思わず止めてしまうほど、辛口の評価ばかりでした。

 そう……悪い方には見えませんけどねぇ。
 確かに少々、思い込みが激しく、人の領域へ気付かずずかずかと入り込んでしまう方で
すが。
悪気は無いようですし……そう、目の敵にされなくとも、と思っておりましたが。

「晴次君と勘右衛門君って、付き合ってるんでしょ?」
「えぇ、交際しております。ねぇ、勘右衛門?」
「うん、晴次」

 にこりと、いつものように愛らしく勘右衛門が笑います。
 あんまり可愛いので額と額をくっ付けてうりうりすれば、頬を赤くして照れ臭そうな笑みを浮か
べてくれました。
 こう云う所が可愛いのです。

 もっと堪能していたかったのですが、


「はいアウトオオオオオオ!」


 べりと、引き剥がされてしまいました。
 ……結構、力強いのですね、花都さん。
 勘右衛門も驚いた顔で花都さんを凝視してらっしゃいます。


「男同士でイチャつかない! 不健全よ!」
「そう、でしょうか?」

 初めて云われました。
 僕ら、今はものすごく健全な関係なのですが。


 お互いを想い合い、尊重し、背中を預けられる理想的な関係です。
 確かに肉体の関係もありますが、情を抱き合う者同士、当然の事ですし。
 搾取している訳でも、押さえ付けている訳でも、支配している訳でもありませんから……。
 不健全、と云われるのは、少々業腹ですね。


「気持ちは分かるわ。此処は男の園、女は怖いくの一ばかり。身近に居た存在に倒錯しちゃうな
んて、男子校じゃありがちよね!」


 どこか陶酔したような表情で、花都さんが仰います。
 いえ、くの一教室の皆さんは怖くなどありませんが……。
 お優しいですし、可愛らしいですし。それにとてもお美しいですし。

「……ねぇ、晴次。この人何云ってるの?」

 ぽそりと、小声で勘右衛門が問いかけて来ます。
 えぇっと、……多分、僕らの関係が間違ってると仰りたいのでしょうけれど……。

 何が間違っているのか、とんと分かりません。


「でも大丈夫。私がまともに戻してあげる!」


 そう云って花都さんは、湯呑ごと僕の手を両手で握りしめられました。

 あああああ、視界の端で勘右衛門が顔をしかめていますううう。
 落ち着いて下さい勘右衛門。相手は女性です……!


「晴次君、私とお付き合いしましょ?」


 にっこりと愛らしい笑みを浮かべて、花都さんが仰いました。

 恋人をお持ちでなかったり、花都さんに好意を抱いている方でしたら、すぐさまはいと頷いてい
たでしょう、そんな魅力的な笑顔でした。


 ですが僕には勘右衛門と云う、唯一無二の愛しい恋人がおりますので。



「え、厭です



 思わず、えぇ、思わず。
 素に戻ってしまい、僕としては有り得ないくらい酷い言葉を、女性に投げつけてしまったのです。



 − 同じ性別は本能に逆らってる?



「絶対ぜええええったい! 私がまともにしてあげるんだからね!」
 そう叫びながら、花都さんは走り去ってしまわれました。
 ……嵐のような方ですね、認識を改めなくては。

「一体何だったの?」
「さて? あぁ、お茶が冷めてしまいましたね。淹れなおしましょう」
「おねがーい」

(さてさて。間違えているのは、どちらで御座いましょう?)



 了


 晴次編始まりはじまり〜。
 今度の天女さんは猪突猛進系みたいです。
 頑張れ晴次、頑張れ勘ちゃん。

 この事がくの一教室に知られたら、天女さんジ・エンドになっちゃうから!

 くのたまvs忍たまの全面戦争を避けるために、頑張れ五年生カップル!←


 ……シリアス予定だったのに、ギャグにしかならねぇな此れ。(おい)


 執筆 2010/02/10〜


 配布元:Abandon