僕にとって幸いだったのは、”被害者”が委員長で、”加害者”に委員会の先輩がいなかった事
かなぁ、と、お茶を淹れながらのんびり思った。
 まぁ、久々知先輩は「それって恋じゃないですか?」ってくらい大治郎先輩を尊敬してるし、タカ
丸さんは平和主義だったからなんだけど。
 良かった。うち、地味で平和な委員会で。(実際は割と物騒だけどね)

 きり丸は大変だもんなぁ。
 他の皆はほとんど一対一なのに、一人で二人と戦わないといけないんだから。絶対損だ。
 あ、此れ云ったら泣くよね、云わないでおこう。お口ぬいぬい。
 可哀想なのは竹谷先輩かな。後輩二人から挑まれて、顔面蒼白だもん。

 ばしんと、床を叩く音がした。
 短気な団蔵の仕業だ。
 前に正座している潮江先輩が、目を見開いて硬直してる。

「潮江先輩、おれ、そんな話してるわけじゃねぇんですけど」
「いや、その、だからな、団蔵」
「大治郎先輩がどうの、じゃなくって、潮江先輩の無礼はどうなんすか」
「た、確かに、盗み聞きしたのは悪かったと思ってるがな、そもそも下関が」

 どん、と、鈍い音。
 拳で床を殴ったみたい。怖いなぁ。

「何度云えばわかるんですか。大治郎先輩の事は今関係ないすよ。おれは、潮江先輩が、人さま
の告白を盗み聞きして、乱入までかました上に、寄ってたかって一人の人を責め立てた卑怯さに
ついて話してるんすけど。いい加減ごまかすのやめてくれませんか。小さい子供じゃあるまいし。い
い年してはずかしくないんですか、そう云う事して」
「あの、ほんとう、その……すいません……」

 団蔵対潮江先輩―――団蔵の勝ちだねこれは。
 さすが馬借の若旦那。年上の男の人を叱るのになれてるなぁ。
 潮江先輩ったら、可哀想なくらい両肩落としちゃってるよ。

「伊作先輩、人として最低だと思います」
「仰る通りです……!」

 うわ、乱太郎が伊作先輩土下座させてる。怖い。

「伊作先輩は大治郎先輩がどう云う人かよくご存じのはずですよね? それこそ、この中で食満先
輩と同じくいっとう長いお付き合いなんですから。基本的に女の人に興味なくって、喜三太以外に恋
愛感情を向けないって分かってらっしゃいましたよね? なのに何ですか、大治郎先輩を責めたっ
てどう云う事ですか。まさか大治郎先輩に喜三太を棄てて夢さんに走れとでも?」
「滅相も御座いません……!」

 ひたすら平謝りの伊作先輩。
 うん、乱太郎対伊作先輩も、乱太郎の勝ちって云うか、圧勝って云うか。
 普段温厚なだけに、乱太郎って本気で怒るともんのすごーく怖いんだよねぇ。
 伊作先輩ったら不運だ。

「大治郎せんぱいをいじめる留三郎せんぱいなんて、大きらいですっ」
「俺が悪かったあああああああッッ! もうしない! もう二度としないから許してくれしんべえええ
えええええええッッ!」

 嫌いになっちゃいやー! と云う、涙交じりの絶叫。
 あぁうん。見るまでも無く、しんべヱ対食満先輩はしんべヱの勝ち。
 食満先輩って、本っっ当に後輩に弱いなぁ。
 なのにあんな事やらかすなんて、恋って怖い。

「まぁ気持ちはわかるんすけどねぇ。そりゃ自分の好きな人がないがしろにされたら怒りますよね、
普通。俺だって乱太郎やしんべヱやは組の皆が、人を好きになって、その人から邪険にされたら
キレますよ。分かりますよ、分かります。凄く気持ちわかるっすけど、そこで何で兄(あに)さんを標
的にしちまうんすかね」
「だって夢さんが、好きになった相手が……」
「……大治郎だった……」
「うん、そうっすね。分かります。でも、兄さんに手ぇ出したら俺らが動くって事、先輩方忘れちゃっ
たんすか? 学園の常識でしたよね、それはもう俺ら兄さんの全面的な味方っすから」

 にんまり、きり丸が笑う。
 わぁ、悪い顔。

「先輩方、一年は組全員敵に回す覚悟おありっすか?」
「ごめんなさい」「……ごめんなさい……」
「俺ら兄さんの敵にゃぁ徹底抗戦しますよ。学園のトラブルメイカーの力、お見せしましょうか?
「本当にごめんなさい……!」「……許して下さい……!」

 二対一でもきり丸の勝ち。
 なんて云うか、きり丸って好意の使い方が上手いよねぇ。
 中在家先輩はことさらきり丸の事可愛がってるし、雷蔵先輩は僕ら一年は組を好きーって云っ
てくれてるからこその強気発言だよね。
 うん、それにしたって、僕もきり丸は敵に回したくない。


 他の皆も順調に戦果をあげてるみたい。

 うわぁ、七松先輩泣いてるんだけど、金吾何云ったんだろう。
 庄ちゃん、土下座してる三郎先輩のつむじ(髢(かもじ)だろうけど、あるのかな?)、指一本で
ぐりぐり押すの、やめたげようよ。(凄い楽しそうな顔してるから、口に出しては止めないけど)
 兵太夫、その物騒な紐から手を離そうか。立花先輩顔面蒼白しすぎてて可哀想だ。
 虎若の真面目一本な叱責と三治郎の黒い言葉に、竹谷先輩なんて魂抜けてるし。あ、三治郎
魂掴み上げた。うん、そのままぶんぶん振るのは流石に酷いと思う。止めないけど。

 うーん、何だかんだ云って、やっぱり僕らって愛されてるんだよなぁ、と思う。
 夢さんが来てから怪しかったけどね。
 こうやって一年生に責められても、上級生が大人しくしてるって事は、愛されてるって事なんだ
と思う。
 本気で夢さんに狂ってたら、きっと僕らの話なんて聞かないで怒ってただろうし。
 そう思うと、”天女様”の幻術も、まだ甘いのかなぁ。


 良かった。
 付け入る隙はありそうだ。


 お茶を一口飲む。
 うーん……、鶴ノ丞さんと同じように淹れたつもりなんだけど、あんなに美味しくならないなぁ。

 とりあえず、お茶が冷める前に皆決着つけてね。
 このお茶、冷めると不味いんだ。



 4:私達は戦う(二郭伊助)



 僕らの大事な「お兄ちゃん」であり、手の掛かる「でっかい弟」に手を出したんですから。
 これくらいの事は、まぁ、覚悟の上だったんでしょう? ねぇ、先輩方。

(我ら一年は組。”身内”のためなら、一致団結、この絆を持ってして、全力で挑む覚悟です)



 了


 傍観者伊助ちゃん。この後大治郎と喜三太が来て、茶をしばいて帰って行きます。何しに来たん
だ大治郎。←

 一年は組は仲間って云うより、身内って云い方の方がしっくり来るかなーと思いまして。まぁ全校
生徒に云える事でしょうけど、実の家族とよりクラスメイトと担任の先生との方が一緒に居る時間
長いですしね。
 特に一はなんて、色んな事件に巻き込まれてる訳ですし。絆はいっとう強いんじゃ、と私なんぞは
思う訳でして。
 その中に土井先生と山田先生の”身内”って事で、大治郎も含まれてたら萌えるじゃねぇの! と
まぁ、そう云う訳でして。
 大治郎は一はの「お兄ちゃん」であると同時に、「でっかい弟」であればいい。←