今日は日々恒例の補習授業。
 僕は受けなくても良かったんだけど、一人で遊んでてもつまらないし、皆と一緒に教室に居た。
 僕は一応、は組の中だと頭が良い方だから、こう云う時、土井先生も皆も僕を頼ってくれる。
 分からない事があったら、先生達か僕、くらいには。

 それはとっても嬉しい事だ。
 重責? 感じた事ないや。だって僕は皆が好きで、皆に頼られるのが好きだから。

 皆がうんうん唸ってる最中、ふと窓の外へ目を向けると、校庭の隅っこに大治郎先輩がいるのに
気づいた。
 大治郎先輩、僕たちと遊びたいんだな。そう気づいて、小さく笑う。
 いつもは焔硝蔵に引きこもってるのに、喜三太や僕らと遊びたくなるとひょっこり校庭まで出てくる
んだ。
 それをいつぞやか、喜三太が「かわいいよねぇ〜」なんて云ってた。喜三太って大物だ。


 こっちに気付かないから〜なんて眺めていたら、視界の端に不穏な影。

 ……夢さんだ。

 この前、大治郎先輩に完膚なきまでに存在を流されてたのに、まだ懲りてないのかな。
 うぅ、ご丁寧に上級生の先輩方を侍らせてる。
 どうしよう、土井先生に云った方がいいかな。
 でも、大治郎先輩だって六年生なんだし、あんまり過保護にするのもよくないかも。
 この前だって、一年は組総出で先輩方へ説教大会を開いてしまった訳だし。
 あの後からしばらく、三郎先輩がびくびくしてて対応に困ったんだ。
 お鶴先輩は笑ってばかりだったし、彦四郎は「何したのお前」なんて怯えてたし。

 そんな事を考えながら、とりあえず様子見をしていたら。
 夢さんの手が、大治郎先輩の手に触れた。


 ――あ、まずい。


 そう思った時すでに、大治郎先輩の平手が夢さんの頬を引っ叩いていた。

 ざっと、頭から血の気が引く。
 僕は大きく口を開いて、叫んでいた。

「一年は組! 今すぐ校庭へ出動!」
「ふえ?!」「な、何?!」「え?!」「はにゃぁ?」「庄ちゃん?!」
「庄左ヱ門? 一体どうした!」
「大治郎先輩が夢さんの頬を引っ叩きました!」

 どよめきが起き、土井先生の顔色が青くなった。

 夢さんは、教師陣に監視され、くの一教室に敵視され、僕ら一年は組から警戒されているけど、
大多数の忍たまは彼女を愛していると云うのが現状。(幻術に掛かったんだろうな。可哀想に)
 そんな、大勢の生徒が居る中で、大治郎先輩は彼女の頬を引っ叩いたんだ!

 大変だ。
 この前は少数だったから良かったけど、これだけの大人数を敵に回したら、いくら大治郎先輩と
は云え危ない。

「庄左ヱ門、私が出る! お前たちは教室に待機――」
「ダメです、先生。こう云う場合、教師が出たらややこしい事になります。此処は僕らの出番です!」

 教師って云う職業の人は、公正で無くてはいけない。平等でなくてはいけない。
 土井先生は依怙贔屓をするような人ではないけれど(生徒が悪い事をしたら叱り、良い事をした
ら褒めるなんて当たり前の事を、ちゃんと平等にする人だ)、大治郎先輩には甘いって云うのは学
園周知の事実。
 その土井先生が出て行っても、事態は好転しないだろうし、何より僕らが黙っていたくない。


 だって大治郎先輩は、僕らにとっても”身内”なんだから!


「先生は万が一の場合、ご助力願います! ――皆、行くぞ!」

 僕の声に、十人分の「おー!」が返って来る。
 土井先生の「頼んだぞ!」と云う必死な声を背中に、僕らは転がるように校庭へと走った。


 辿りついた校庭は、やっぱり不穏な雰囲気。
 大勢の人が、大治郎先輩を怒りの目で睨みつけてる。
 何人か、夢から覚めたような顔をした人たちがいるけど、そんなの関係ない。

 今気にしなければいけないのは、大治郎先輩の事。
 一人で戦ってる大治郎先輩を、僕らが守らなきゃいけないって事だ!

「皆、行くよ!」

 小声で、だけれどしっかりと声を掛ければ、皆が揃って頷いた。
 人ごみを掻き分け、一目散に大治郎先輩の所へ。

 振り返る大治郎先輩。
 いつもの無表情。
 でもどこか、安心したような顔で。



 大丈夫ですよと云って、抱きしめてあげたかった。

 庄二郎してあげるみたいに、頭をよしよしって撫でて、頬ずりをしてあげたかった。



 でもその役目は僕じゃない。
 喜三太と伊助が、二人がかりでやってあげて。

 僕の役目は、は組を代表して、天女――いいや、幻術使い花都夢さんに、


「我ら一年は組、大治郎先輩にお味方します!」


 喧嘩を売る事だ!



 5:私達は仲間である(黒木庄左ヱ門)



 貴女だけは、許せない。

(優しい皆を返して。大治郎先輩の仲間を返して。……僕らの学園を、今すぐ返せ!)



 了


 逆ハー主にも色々種類があると思うんですけど、この天女さんの場合、本当に学園にとって異物
に過ぎなかったのです。
 だから一はも過剰拒絶。「あんたのせいで!」的な部分が大いにある。

 ですが、仮に天女さんが正しくて、大治郎が悪くっても、一はは大治郎側に付きます。
 親しい人間が間違っていたら正す事も大事でしょうが、何がなんでも味方であり続ける事もまた大
事な事だと思うのです。(一はって”身内”で自滅しそうな気がするんですよね。しかもそれを後悔し
なさそうって云うか。あ、これ怒られるかな^^;)

 とりあえず、自分で書いてて庄ちゃんカッコいいと身悶えておりました。(そりゃキメェ)
 庄ちゃん大好き!


 執筆 〜2009/12/05