あげないよ。
 そう思いながら、ぼくは笑顔をうかべる。

 あげないもん。
 大ちゃんはぼくのだから。
 あなたなんかに、あげないよ。


 夢さんが大ちゃんの事を知りたがってる。

 ぼく、分かってるよ。
 夢さん、大ちゃんが好きになったんでしょ。
 そうなんしてて助けられたから、恋したんでしょ。
 助けにきた大ちゃんがカッコよかったから、恋しちゃったんだね。

 わかるよ、だって本当に、大ちゃんはカッコいいんだもん。
 なんでみんな恋しないのかな、って思っちゃうくらい。(本当にされたらこまるけど)

 あぁ、また、留三郎せんぱいと伊作せんぱいをつかまえて、話をねだってる。

「ねぇ、大治郎さんってどんな女の子が好きなの?」
「ねぇ、大治郎さんってどんな食べ物が好きなの?」
「ねぇ、大治郎さんの好きな色って何?」
「ねぇ、大治郎さんの趣味ってなぁに?」
「ねぇ、大治郎さんって私の事どう思ってるかなぁ?」


「ねぇ、大治郎さんって、付き合ってる人、いるの?」


 あぁ大声で笑ってあげたい!

 でもしないよ、そんなことしない。
 だってばれちゃうもん。


 ぼくと大ちゃんが恋人どうしだってバレちゃうもん。


 知ってるよ、ぼく、知ってるの。
 せんぱい達が必死になって、ぼくと大ちゃんの仲をかくしてること。
 夢さんの好きな大ちゃんが、年下のおとこの子と付き合ってることが夢さんにばれたら、かわい
い夢さんが泣いちゃうから、せんぱいたちは必死になってかくしてるの。

 目かくししたって、世界は消えないのにね。
 本当はなくならないのにね。
 せんぱい達って、ときどきおばかさんだよねぇ。
 なんかかわいそうだから、ぼくもせんぱいたちのお手伝いしてあげてるの。
 よけいなことは云わないで、だまってるよい子なの。


 そうだ。
 あのね、夢さん、ぼくね、あなたのしつもんに、ぜんぶ答えることができるよ。

 大ちゃんが「良いな」って云う女の子は、れいせいでものしずかできれいなサラストの女の子。
 山田先生の奥さんみたいな女の子。

 大ちゃんの好きなたべものは甘いもの。
 それもすっごく甘くって、ぼくらが食べたらむせちゃうような甘いものが好きなの。
 でもいつもたべたいわけじゃなくって、たまーにむしょーにたべたくなっちゃうだけなんだって。

 大ちゃんの好きな色は紺色、こい青色。
 町にでて布屋さんをのぞくと、いつもその二色しか手にとらないからすごく分かりやすいんだよ。
 だからね、たまに二年生と五年生の制服の色を、うらやましそーに見てるんだ。

 大ちゃんのしゅみは火薬のちょうごうだよ。
 土井先生に教えてもらってから、すごくがんばっていろいろ出来るようになったんだって。
 今は火花にたくさんの色がつくようにならないかって、けんきゅうしてるんだって、この前うれし
そうに話してくれたんだよ。

 大ちゃんはね、夢さんにぜんぜんきょーみないんだよ。
 どうでもいいって云ってたよ。
 かわいそうだね夢さん。
 かたおもいなんだね。


 だって大ちゃんはぼくのなんだから。


 留三郎せんぱいも伊作せんぱいも、云ってあげればいいのに。
 ぼくがここにいること、気づいてるんだもん。
 あそこにいる喜三太と付き合ってるよ、って云ってあげればいいのに。
 そしたら、あきらめてくれるかなぁ、夢さん。
 もう大ちゃんのこと、なれなれしく「大治郎さん」なんて呼ばないかなぁ。
 大ちゃんの名前を呼びまくって、大ちゃんのこと知りたがったりしなくなるかなぁ。

 そうだったらいいけど。
 なんだかあの人、あきらめなさそうなんだよねぇ。
 なんかね、夢さんって、世の中ぜ〜んぶ自分の思うとおりになるってかんがえてるっぽいから。
 自分のねがいは、ぜんぶかなうって、”知ってる”ようなお顔してるもん。

 そんなこと、ないのにね。
 あるはず、ないのにね。

 だからぼくね、夢さんのこと、あんまり好きなじゃないの。
 見てるのは好き。
 きれいでかわいいから、見てるのは好き。
 かだんのお花を見てる時とおんなじきもちで、見てるのはよいの。

 でもね、おしゃべりするのはいやなの。
 だってすけて見えるもの。
 うすっぺらい夢さんのかんがえが。おもいが。きもちが。


 それがとっても、ふゆかいなの。


 ちいさくちいさく、笑顔をうかべて、ぼくは夢さんたちのそばからはなれた。
 ナメさんたちをのぞきこんで、にっこり笑顔。
 ほら、ぼく、かわいく笑えてる。
 大ちゃんの好きって云う、ぼくの笑顔。
 どんな笑顔も、大ちゃんは好きって云ってくれるの。
 大ちゃんはぼくのぜんぶが、大好きだから。


 だいじょうぶ、ぼく、大ちゃんしんじてるもん。
 ぼくがこんなばっちぃきもちになっても、大ちゃんはぼくのこと大好きだもん。
 わかってるもん。
 大ちゃんはどんなぼくでも、あいしてくれるって。
 ぼく、”知ってる”から。



 3:私達は裏切らない(山村喜三太)



 おまえなんかに、あげないよ。
 このせかいのもの、ひとかけらだって、くれてやらないから。

(大ちゃんがおまえになびくなんてあるわけないんだから、とっととあきらめて、消えてよ)



 了


 喜三太は風魔の子なんだからこれくらい余裕だと思う!←
 大治郎が割と人間として健全に喜三太を愛しているのに対し(割と性的な意味も含めて←)、喜三
太は少しだけ怖い感じ。ヤンデレとか狂気とかそんなんじゃなくて、単純に怖い。純粋に怖い。
 そんな訳でひらがな乱発。いやー、喜三太とひらがな喋りにって似合いますねほんと! 舌っ足ら
ずに喋るきちゃんたカワユイ^^^^^^^←