あぁもう、まったく、やんなっちゃう。
 そもそも今日の山菜採りは補習の一環だったのに。
 何で花都さんが付いて来ちゃったのかなぁ。
 あの人、どしろーとじゃないか。僕ら以上に全然駄目な人なのに。
 案の定、ちょっと目を離した途端にいなくなっちゃって。
 何が「私も皆と一緒に頑張るね!」だよ。足引っ張っただけじゃないか!
 だからやめた方がいいって、危ないですよって、庄ちゃんや伊助も止めたのに!

 純粋系の皆なんて、本気で泣いてるし。
 庄ちゃんと団蔵と虎ちゃんは責任感じて暗い顔してるし。
 僕と兵ちゃんは性格悪いから、周りから来る「お前らのせいで」的な視線を緩める為に泣き真似
してるけどさぁ。


 て云うか、本当に何、この空気。


 何で僕らが悪者になりかけてるの。
 あの人が勝手に付いて来て勝手に行方不明になったのに!
 花都さん、もういい大人じゃないか。自己責任でしょこう云うの。
 ちょっと過保護なんじゃないの、先輩達って。

 いや、先輩達の中には僕らを心配してくれてる人もいるけどさ。
 特にタカ丸さんなんて、「大丈夫だよ、大ちゃんが絶対見つけて来てくれるよ」って必死になって
慰めてくれてるし。確かに大治郎先輩ならやってくれる気がする。

 でもほとんどの先輩は、僕らにいやーな目を向けて来てた。
 なんかもう、ホント厭。
 あの人来てから、学園が変で、本当に厭。

 普段なら、先輩達は皆僕らに優しいのに。
 泣いてたら皆皆、慰めてくれるのに。
「やれやれ」なんて顔しながら、結局優しいのに。

 今は先輩達の優しさ全部、花都さんに盗られちゃった。持って行かれちゃった。
 酷いよ。
 僕ら何にもしてないのに。


 もうこのまま、ずっと帰って来なければいいのに!


 そんな僕の悪い心がいけなかったのか、花都さんは無傷で帰ってきてしまった。
 思わず舌を打った僕と兵ちゃんは悪くない。
 悪くないったら悪くない。

 見つけたのは大治郎先輩らしい。
 タカ丸さんがはしゃいで「ほら、大ちゃんに任せれば大丈夫だったでしょ?!」なんて云ってる。
 うん、それはそうだけど。
 本当に無傷で見つけてきちゃうなんてなぁ。


 もしかして、大治郎先輩も花都さんの事……。


 ううん、それはない。絶対ない。断じてない! 有り得ない!
 大治郎先輩は喜三太がすごくすごーく好きなんだもん。
 喜三太以外に興味なんてないんじゃないかってくらい、好きなんだもん。
 現に喜三太も、「大ちゃんって夢さんにぜんぜんきょーみないんだってー」って云ってたし!

 そんな事を考えていたら、大治郎先輩がこっちを見た。
 思わず、どきりと心臓が跳ねる。

 その側に寄り添うように立ってる花都さん。
 少し泥で汚れているけれど、やっぱり綺麗で可愛らしい。


 どうしよう。
 大治郎先輩は一年は組にとっても優しいけど、僕が酷い事を考えてるのがばれたら、嫌いになっ
てしまうかも知れない。
 汚い事を考えている僕より、綺麗で可愛い、花都さんの方を、好きになってしまうかも知れない。

 そんなの、やだ。
 どうしよう。

 どうし――


「一年は組!」


 びくり、と肩が震えた。
 普段なら決して聞けない、大治郎先輩の大声。
 先輩が、普段の無表情で――でも、どこか嬉しそうに――僕らへ向かって駆けて来る。

「ちゃんと見つけて来た。もう大丈夫だ。泣かなくていいぞ」

 泣くんじゃないと云って、喜三太と伊助をむぎゅと抱きしめた。


 その一言で、分かる。


 大治郎先輩は、花都さんの為じゃなくて、僕らの為に捜しに行ってくれたんだって。
 僕らが泣いてたから、捜して来てくれたんだ。見つけてくれたんだ。

 は組の皆が泣きながら、大治郎先輩に縋りつく。
 ほとんどの人間を拒絶する大治郎先輩に、許可なしでくっ付けるのは、僕らの自慢。


 大治郎先輩は、僕らを拒絶しない。
 僕らを傷付けない。
 僕らを嫌悪しない。
 僕らを怒らない。

 僕たちを、とっても、大切にして、くれるんだ。


 ぽろ、と涙が出て来た。
 嘘じゃない、本当の涙。
 兵ちゃんが僕の肩を叩く。
 大治郎先輩が、小さく手招きをした。

 僕と兵ちゃんは頷き合って、泣き笑いで大治郎先輩に抱き付いた。



 2:私達は振り向かない(夢前三治郎)



 この人だけ、なんて云わない。
 でも今この瞬間、僕を助けてくれたのは、大治郎先輩だから。
(他は切り捨ててしまってもいいんじゃないかって、思ったんだ)



 了


 あれ、黒い?(おい)
 いえ、傍観夢見るにつけ、一番愛情取られちゃってるのって一はじゃね? とか思ったので、こ
う云う出来に……。本当に一はが傍観主だなー此れ。←
 あ、三ちゃんが云う「他」ってのは、自分たちを慰めてくれなかった先輩方ですので! 全てじゃ
ないっすよ全てじゃ! 大治郎限定って訳じゃないんで! 他にも良い先輩いますよ!

 ちなみに、他の捏造生徒も「一はが泣いとる! あの女を見つけなければ!」と云う天女さんへ
の心配皆無で捜しに行ってました。←(晴次は良い子なのでちゃんと心配もしてましたが、基本は
他と同じで一は>>>(越えられない壁)>>>天女さんです)
 帰って来てみたら大治郎に美味しい所持っていかれてたので、すっげぇ悔しがったとさ。(笑)