空から降って来た天女様。
 わたしも目撃者の一人。
 でもわたしは疑っています。信じてないのです。

 何故って、わたしやきり丸、しんべヱは、すごい幻術使いをたくさん知っています。
 その人達は空を飛ぶ、大量の水をあやつる、道具を生き物のように動かす、なんてすごい事を平気
でするんです。

 勿論、幻術なのですから現実ではないんですけど。

 だから彼女が空から降って来るのを見た時、わたし達はそろって幻術使いだ! と思ったのです。
 綺麗な女の人でしたが、それは否定の理由になりません。

 他の一年は組の皆は、わたし達ほど幻術使いと関わりがないので、少し信じそうになっていました。
 だからわたし達は必死になって説明したのです。
 そしたら皆は納得してくれて、「幻術使いってすごいねぇ」と云う話になりました。

 一年生のわたし達でさえ分かったのです。
 だから、彼女を連れて行った六年生を含め、先輩方は皆同じ結論になっただろうと思っていました。
 大げさな云い方ならば、信じていたんです。


 ところがなぜか、気付いたら。
 彼女は天女様と祭り上げられ、学園に居座っていたのです。


 あれれ、と皆で首を傾げました。
 だってそんな、天女様だなんて。
 わたし達は確かに、妖怪に遭遇したり、幽霊を目撃しちゃったりしてますが、忍術は科学だと云うじゃ
ありませんか。
 天女様だなんて、非科学的です。
 先輩方は百も承知でしょうに、何故でしょう?

 賢い庄左ヱ門が、こう云いました。

「先輩達はあの人が幻術使いだって分かってて、天女様だって云ってるんだよ。騙されてると見せか
けて、いい気分にさせて情報を得る、これぞ喜車の術だ!」
「さすが庄ちゃん!」「あったまいー!」

 なるほどー、それならわたしも納得できます。
 だって先輩たちはわたし達よりずっと長く忍たまをやってるんですから。
 わたし達でさえ見破ってる事実を見誤るなんてそんな事、ないに決まってます。


 ところがところが。
 驚いた事に、先輩達は本当に彼女を天女様だと思っていたのでした。


 それに気付いたのは、兵太夫からもたらされた言葉のお陰です。

「今日、立花先輩に叱られた」

 へこんだ様子で、兵太夫が云いました。
 わたし達はちょっとびっくり。
 だって立花先輩は兵太夫の事をすごくすごーく気に入っていて、それはもう目を見張るような依怙
贔屓っぷりだったと云うのに。
 叱られるなんて、一体何をしたの兵太夫? と皆びっくりしたのです。

「先輩にさ、「どうして一年は組は夢さんを警戒するんだ」って聞かれてさぁ、「だってあの人、幻術使
いじゃないですか。ぼくらはまだ本音を隠して近寄るなんて出来ないですから、先輩方のお邪魔にな
らないように近づかないんです」って云ったら、「なんて事を云うんだ! 夢さんが幻術使いな訳があ
るか!」って怒鳴られた。その後でいっぱい叱られた。綾部先輩も藤内先輩も庇ってくれなかった」

 そう云って兵太夫は、ぺそぺそと泣き出したのです。
 あの強情っぱりで、意地っ張りで、気の強い兵太夫が。


 何て事でしょう。
 由々しき事態です。

 先輩達は幻術使いの幻術に惑わされてしまったんです!


 慌てて土井先生へ相談に行くと、先生は全てわかっていると云う顔をして、わたし達の頭を一つ一
つ撫でてくれました。
 それから苦笑して、

「お前らは本当に実戦経験豊富だよなぁ。こーゆー時にしみじみと実感するよ」

 と仰って、お前たちは何も心配しなくていいんだよ、ただ本当の事は黙っておきなさい、お前たちが
知ってるだけでいいんだよ、と云って話を終わらせました。

 顔を見合わせて悩んだわたし達ですが、土井先生がそう云うなら大丈夫だろうと思いました。
 だって土井先生は、わたし達の話を否定しなかったのです。
 きっとわたし達子供には分からない、裏があるに違いないのです。


 わたし達は、ただ、自分たちの身を守っていれば良いのです。



 1:私達は知っている(猪名寺乱太郎)



 だから貴女に懐かないんですよ、夢さん。
(こびるような笑顔で、おやつを持って近づかないで。しんべヱだって、怖がってるでしょう?)



 了


 これは黒一はに入らない、と思います! ふつー、ちょうふつー、実戦経験とーふなは組として超
普通の対応ですYes!←
 天女さんは「一はって超可愛い! 仲良くなりたいな〜」と云う極普通な好意でしたが、初登場の
仕方と周りの対応が悪かった。
 大治郎編の天女さんは不運だなこれ。

 乱太郎はこれくらシビアな視点で物が見れるんじゃないかなーと思います。だてに主人公張ってま
せん、様々な事件に巻き込まれていません! その癖懲りずにお人よしスキルを発動させる彼が好
きなのですが(笑)、この話ではこうなりました。ごねんなたい。←