はにゃぁ、と、喜三太が愛らしい声を上げた。

「大ちゃん、いったいどうしたの? 保健室、やせんびょういんみたいだったよ
「うむ。今大いに反省してる所だ。後輩の仕事を増やしてはいかんな」
「はんせーしてるの? じゃぁいいこいいこしてあげるね〜」
「うん」

 素直に頭を出せば、いいこいいこと云いながら、喜三太が頭を撫でてくれた。
 小さい手で頭を撫でられるのは、実に良い。
 伊助の手も好きだが、喜三太のは格別だ。


 これが同組の馬鹿二人だったら骨を折りに掛かるが。


「でも、本当にどうしたの? 五年生と六年生のせんぱいをばくはするなんて」
「うむ……」

 それが変な話なんだ、聞いてくれないか。

 先程あった出来事を要点のみまとめて話すと、喜三太がまたはにゃぁと愛らしい声を上げた。

「そっかー。大ちゃん、夢さんのこくはくムシしちゃったんだね」
「告白?」
「うん。夢さんね、食堂で云ってたんだー。今日、大ちゃんにこくはくするって」
「告白って、……一体何を自白するつもりだったんだ、あの女は」

 しまった、奴の自白を聞き逃すとは何たる失態。
 一体何を自白していたのだ、奴は。

「大ちゃん、何かかんちがいしてない?」
「うん?」
「夢さんはね、大ちゃんに好きですって伝えようとしてたんだよ。愛のこくはくだよー」
「なん、だと」

 そんな事を云っていたのか、あの女。
 うん? では連中が怒っていたのは何故なんだ?
 あの女が俺を好いていようが、関係ないと思うのだが。

 と云うか、俺自身にも関係ない。

 俺が愛しているのは喜三太だけだ。他の人間に靡く事など有り得ない。

「……うれしくないのぉ?」
「まったく」
「あはは、大ちゃんらしい〜。……でも、うれしいや」

 ぽふりと、また喜三太が俺の胸に頭を預けて来た。
 こうも立て続けに甘えてくれるとは……!
 俺を喜びで殺す気か。

「大ちゃんは、ぼくのだもんね」
「うん」
「ぼくも大ちゃんのだよ?」
「うん、知ってる」

 えへへ、と、喜三太が嬉しそうに笑う。
 愛らしい笑みに、心が温かくなった。

 可愛くて、愛しい、俺の大事な喜三太。
 お前を悲しませる奴を、俺は絶対に許さないだろう。


 そこまで考えて、ふと気が付いた。

 そうか、あいつら、あの夢と云う女を好いているのか。
 もしかしたら俺が喜三太を愛するように、大切に慈しんでいたのかも知れない。
 だから、あの女を泣かせた俺を怒ったのか。


 理解は出来る、が、納得はせん。
 俺には喜三太と云う立派な恋人がいると云うのに、何故他の女からの愛の告白を真面目に聞かなけ
ればならないのか。
 喜三太を裏切れと云うのか、あいつらは。

 それに、怒ったからと云って、何故あの大人数に一斉に責め立てられねばならない?
 何を云ってるのか、全くと云っていいほど分からなかったぞ。
 俺は師範じゃないのだから、あの大人数の台詞を聞き分けるなど不可能だしな。

 だが、まぁ、特製の焙烙火矢を持って爆破したのはやり過ぎだったかも知れん。
 後で一応謝っておくか。


 とりあえず今は。
 喜三太の体温と香りに甘えておこう。



 − 関心を向ければ一直線なのに。



 一応謝りにと、喜三太と一緒に保健室へ訪れてみれば。
 ぼろぼろの五、六年が、それぞれの委員会の一年は組に正座で叱られていた。
 叱る相手のいなかった伊助に茶をもてなされ、それを飲んで帰った。
 あれ、謝り損ねたよな、俺。……まぁいいか。

(後でうちの組の馬鹿二人に、「何で大治郎ばっかり!」と泣かれた。意味がわからん)



 了


 大きさが好きで(分かってる)
 大治郎は一年は組に「頼りになるお兄ちゃん」と思われると同時に、「でっかい弟」だと思われてる
といいなー、と、ちょっと夢見ました。←

 一はは先輩達の事を、「話を聞いてなかった大治郎先輩も悪いけど、それを大人数で責め立てるの
は私刑(リンチ)や虐めと同じです。もういい年なのに、そんな事して恥ずかしくないんですか? そもそ
も大治郎先輩はうちの喜三太と付き合ってる訳ですが、それについてはどうお考えで? まさか喜三
太を棄てて夢さんに走れとでも云うおつもりですか? 酷くないですか? うちの喜三太を何だと思って
るんです?」と怒っていました(怖すぎる。私なら一はにそんな事云われたら泣く)。
 一はに大事にされる大治郎可愛い。(親ばか)

 ちなみに天女さんは、六年生が全力で庇ったので無傷です。良かったね!



配布元:Abandon