「あの、大治郎さん……」


 今日は良い天気すぎるな。
 あまりカンカンと照らされてはナメクジ達が困る。少し曇ってくれないものか。


「あの、私、私、あの日から、ずっと……」


 しかし俺の希望を無視して、空は快晴。雲一つない。
 おのれ、空の神はナメクジの敵だな。


「だ、大治郎さんの事が、好き、なんです……!」


 ナメクジに湿気は必要だが、水気は微妙な所だ。
 桶に落としたら間違いなく死ぬよな。
 試した事はないが。
 それで死んでしまったら悲しいし、喜三太も泣いてしまう。


「あの、私と、付き合って下さい……! お願いします……!」


 今日はまだ喜三太と会えない。
 一年は組は今日も補習授業。乱きりしんに続き補習受講率の高いのが喜三太なのだ。
 教えてやりたいところだが、俺は人に物を教えるのがアホなくらい下手だ。
 残念過ぎる。


「お願い、します……!」


 ところで。

 さっきから俺の横で喋っているこの女は、何なのだろうか?

「……」
「あの、大治郎さん……?」

 あぁ、思い出した。
 夢とか云う名前の、食堂で働く天女だ。
 まだ学園に居たのか。
 てっきりもう、件の城へ送られているかと思っていたが。

 しかし、こんな只の女を欲しがるほど、余裕のある城だったかあそこは。
 何に使うかは知らないが、物好きなものだ。

「……おい、大治郎!」
「うん?」

 突然、咎めるような声で立花が俺を呼んだ。
 先程から気配はしていたが、いきなり何だ。

 立花の後ろには加藤、備前を除いた六年生が勢ぞろい。
 よく見れば、五年の姿もあるな。えーっと、中在家の所のと、備前の所のと、加藤の所のか。
 どうせなら兵助がいればいいのに。

「お前、夢さんの話を聞いていたのか?! ここまで健気にお前を想う言葉を紡いでいたと云うのに!」
「や、やだ、仙蔵君ったら聞いてたの?! まさか、皆で……?」
「う、」「いや、その」「えっと……」
「や、やだもぉ! みんな酷いよ! 恥ずかしいじゃないのぉ!」
「す、すみません!」「俺達、夢さんが心配で……!」

 わやわやと、女と六年五年が喋繰る。
 何なんだ一体。鬱陶しい。
 騒がしいのは嫌いだ。場所を移すか。

 ……待てよ。
 そう云えば立花が、俺に女の話を聞いていたかと問うていたな。
 答えていかないと、追いかけられるかも知れん。
 変な所で頑固だからな、こいつら。

「すまん」

 一声上げれば、全員の目が俺を向いた。
 立花に視線を合わせ、云う。


「全く聞いてなかった。何か云っていたのか、この女は」


 云った途端、女の顔がくしゃりと歪んだ。
 そして両手で顔を押さえ、わっと泣き出したのだった。



 − 集中力の問題、らしい?



 女は泣くし、連中は何故か俺を怒るし、何なんだ一体。
 うるさいな、こいつら、爆破してもいいだろうか。

(とりあえず、遠くで爆笑してる加藤と備前、なんかムカツクから後で殴らせろ)



 了


 大治郎が主役なので、他の捏造生徒はちょい役以下です。(酷い)でも天女に対しての感情は基本
設定通り。それゆえの爆笑。
 兵助、勘右衛門、晴次がいないのは、兵助:愛する人が敬愛する人へ告白する様を見たくない乙女
心(どっちに対し嫉妬すればいいの! 的な)、勘右衛門:晴次が放してくれない、晴次:天女さんに関
わると碌な事にならない=勘右衛門も行っては駄目です!、と云う感じ。とりあえず勘ちゃんは晴次
に厭らしい事されてればいいんじゃない?!
(この話に全く関係ない)

 しかし大治郎酷い。本当に酷い。お前無関心すぎるww
 女の子の一大決心を何だと思っているのか。
 ……まぁ天女さんの場合、自分に補整があるのはご存じですから、「自分が想いを告げれば、通じる
に決まっている」と思っていた節もありますが。



配布元:Abandon