今日は喜三太とナメクジの散歩だ。
 最近ごたごたしていたせいで、随分と久しく感じる。
 ナメクジと戯れる喜三太は、とても愛らしい。

「あー、ねぇ大ちゃん、あのね、ぼく大ちゃんに聞きたい事があったの!」
「なんだ?」

 頭にナメクジを乗せたまま、喜三太が云う。
 よしよし、何でも聞け。お前の疑問には何だって答えてやるぞ。

「なんかね、夢さんが大ちゃんにきょーみしんしんなんだって。どうしてか知ってる?」
「うん?」

 喜三太の言葉に首を傾げる。
 夢さん?
 ここ最近、頻繁に聞いているような気がするが……誰だったか。

「大ちゃん、また忘れてるの?」
「む、すまん……」
「あはは、別にいいよ〜。ほらぁ、この前裏裏山で見つけてくれた、天女のおねーさんのことぉ」
「あー……」

 思わず、間延びした声が出た。
 そう云えばあの女はそう云う名前の生き物だった。
 すっかり忘れていた。どうでもよすぎて。


「俺を嗅ぎ回っているのか、あの女」


 俺の存在は、忍術学園に置いて極秘事項の扱いとなっている。
 出生とか、そう云った諸々の事情により、だ。
 その俺に興味を持つとは……あの女、天女ではなく敵方のくの一だったのか?

「うん。好きな食べ物とか、趣味とか、好みの人とか、好きな色とか、そう云うの知りたいみたい」
「……」

 どれもこれも、役に立たない情報ばかりに思うが。
 そんな事を知ってどうする気なのだろう。
 いや待て、俺にとってはどうでもいい情報でも、敵にとっては有益かも知れない。
 馬鹿げた質問の影に真意を隠し、周りに問いただしているのやも……。

「師範は何と仰っている?」
「とくに気にしなくていい、って云ってたよ。でも、ぼく気になったから……」

 そう云って、喜三太は少し暗い顔になった。
 おのれ天女。俺の喜三太から笑顔を奪うとは、なんたる悪行をするのか。
 こきゃっと絞めて来るか、こきゃっと。

「……あのね、大ちゃん」
「何だ?」

 天女への憎悪を滾らせている所に、喜三太の声。
 当然、奴への思考など放棄して、喜三太の言葉へ一点集中。
 今は喜三太以外の事はどうでもいい!

「大ちゃんは、夢さんの事、どう思ってるの?」
「別に何とも」

 今はお前の笑顔を奪った事に対して憎悪を滾らせているが、それを告げるのは憚られるしな。
 事実、今の今まで存在さえ忘れていた女だ。

 本当に、心底、どうでもいい。

 ……俺の大事な物に、手さえ出さなければ。

「そっかぁ……。そっか、えへへ……良かった……」

 ぽふりと軽い音を立てて、喜三太が俺の胸部に顔を押し付けて来た。
 喜三太はいつも、甘えん坊だ。

 よし、ナメ太。
 今いい所なんだ。
 すまんがちょっと離れてくれ。

 心の中で謝罪しつつ、喜三太の頭部を這いまわっていたナメ太を地面に降ろす。
 それからよしよしと、小さな頭を撫でてやった。

「あのね、ちょっと不安だったんだぁ。夢さんきれいだし、かわいいし、大ちゃんが好きになっちゃっ
たらどーしよーって」
「俺はきさ以外愛さないぞ」
「うん、知ってるよ。でもね、信じててもね、不安になることってあるんだよ」

 ごめんね、とくぐもった声で謝罪された。
 お前が謝る必要など、一つも無いのに。
 そんな可愛い疑心、むしろ愛しいだけだ。

 俺は気にするなと云って、小さな体をひしと抱きしめた。



 − 無関心なヤツとレッテルを貼られた。



 その後二人揃って食堂に行って、飯を食べた。
 天女とやらがそこに居たらしいのだが、やはり見過ごしてしまった。
 失敗だ。顔を覚えようと思っていたのに。

(今度こきゃっとやりたくなった時、顔付きで想像するために必要だったのだ)



 了


 うん、犯罪だってわかってる。でも六年×一年に萌え滾る訳で、大きさが大好きな訳でして!
 大治郎が無関心過ぎて、当の天女さんとの絡みが少なすぎますね!
 でもぶっちゃけ大きさ書いてる方が楽しいですよ!(何のための傍観夢ww)

 ちなみに。
 当然天女さんは「これはチャンス!」と必死になって大治郎に話しかけたのですが、喜三太が腹
を鳴らし「おなかすいた」の一言で、大治郎がばしんと台を叩き、「いいから、飯」と云って強制終
了されました。
 天女さん可哀想過ぎる。惚れた相手が悪すぎる。



配布元:Abandon