「大変だよぉ大ちゃん! 夢さんが居ないんだってー!」

 そう叫びながら俺の元へ飛び込んで来たのは、タカだった。
 夢さん?
 えーっと、……誰だったか。

「夢さんって誰だ?」
「もー! 何で忘れちゃうの?! 天女様だよ天女様ー!」
「あぁ……」

 がっくんがっくん揺さぶられながら云われ、ようやく思い出す。
 そうだ、食堂に居た女の事だ。
 黒い髪と黒い目をしたどこにでも居る女だったから、云われるまで忘れていた。
 俺の生活に密着した存在でないしな。

「さっき一年生と裏裏山に山菜とりに行ったらしいんだけど、突然姿が見えなくなっちゃったって!」
「天に帰ったんじゃないのか」
「ええええええ?! そんなのヤダ! もっといっぱいお話ししたいのに!」

 そんな事云われても、天女と云うからには元は天に住んでいたのだろうし。
 帰ったのならばそれでいいのではないだろうか?

「ねぇ、大ちゃん、一緒に探してよぉ。このままじゃ、は組の子達も可哀想だよぉ!」
「は組……? ……一年は組がどうした」

 喜三太が所属し、尚且つ俺と個人的に親しい組が関わっているとあれば、棄て置けない。

「あのね、一緒に山菜とりに行ったの、は組の子達なんだ。皆すごい責任感じてるんだよぉ」

 少し涙ぐみながらタカが告げた言葉に、俺の頭の中でカチリと何かが切り替わった。

 どうやら、天女とやらは大勢の人間から好かれているようだ。
 その天女が一年は組と山に行き、行方不明になった。
 そのまま行方不明ならばまだしも、仮に死んでいたとなれば、は組を逆恨みする馬鹿が出ないとも
限らない。
 ……それは、断固阻止すべき事だ!

「任せろ。俺が必ず見つけ出してやる」
「本当大ちゃん?! 良かった、相談しに来て良かったぁ……」
「うむ。だからお前は、は組の側に付いていてやれ。……心配ないと、伝えろ」
「うん、分かった! いってらっしゃい、大ちゃん!」

 笑顔のタカに見送られ、俺は焔硝蔵から飛び出した。
 目指すは裏裏山。目標は天女(と呼ばれる生き物)。



 − 非協力的ではないのです。



 さて、万が一を考えて、俺が一番に見つけなければな。
(死んでいたら、証拠隠滅をせねばなるまい。あの子らの為に、天へ帰った事にしなければ)



 了


 大治郎は自分の大事な人たち以外どうでもいい。の典型。
 天女が死んでようが生きてようが、どっちでもいい。が、死んでたら面倒だとは思ってる。
 か弱い女の子は守らなきゃ、的な男の本能がない。何と云う残念仕様www だからくのいちにも
嫌われる。←



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