041.ソイルの木
その話を聞いた時ルークが思い付いた言葉はただ一言。
「こいつら、死ねばいいのに」だった。
人が死ぬのは怖い。殺すのも厭だ。何より、自分より幼い信彦やお人よしのシグナルに人の「死」を
見せるなど真っ平御免なのだが、それでもルークは力強く、「死ねばいいのに」と思った。
「おい、お前、タルタロス盗られて、兵士もいなくて、どうする気だ」
イオンを守る≪導師守護役≫は、何やら意味不明な手紙を何故かルークに残してどこぞへと行って
しまい――その手紙は即刻ガイが「ファブレ家子息に下劣な手紙をよこした証拠」としてバチカルに送っ
ていた――、戦闘員は封印術を食らった役立たず大佐と、回復術がちょろっと使える程度のエセ軍人
のみ。
だと云うのにこの男、セントビナー駐屯軍に対して何の要請もしていないと来たもんだ。
やれやれ、と、役立たず大佐がため息をつく。
「大人数で目立ってしまっては元も子もないでしょう?」
「……お前、まさか、自分とそこの女だけでやって行く気か」
それとも、まさか少数精鋭だとでも思っている訳ではないだろうな。何度も云うが、封印術を食らった
役立たず大佐と、初歩の回復術しか使えないエセ軍人の二人組だぞ。
「何を云うと思えば……。貴方がたの腰の剣は飾りですか?」
今の言葉を、訳してみよう。
「貴方がたの腰の剣は飾りですか?」イコール「お前らも戦えるんだから手を貸せ」
おい、誰か今すぐこいつ殺せ、とルークは思った。
だが、口に出したが最後。本気でガイが殺しにかかるだろうと予測出来たので、じっとりと重いため
息をついた後、大きく息を吸い込み――
「アホぬかせこの無能軍人があああああああああ! 俺らは別パーティーだって何回云った?! 何
回云ったよオイ! 戦闘も手を貸さねぇ、金もアイテムも共有しねぇ、俺らが導師守るなんざ論外だ!
俺の剣は兄弟を守るため! ガイの剣は俺ら兄弟を守るため! てめぇらにくれてやるもんなんざなぁ、
ビタ一銭ねぇんだよ糞ボケ! てめぇらの事はてめぇらでやりやがれ! 俺らを巻き込むな、勝手に
関係者にすんな、頼るな当てにするなあッッ! 他国の民間人に頼るたぁ、てめぇそれでも軍人かあ
ああああああああああッッ!」
あまりのどでかい声に、周囲の人間ほとんどが耳を塞いでいた。塞いでいないのは、ルークの言葉
は一言一句聞き逃しはしないガイと、塞ぎ損ねたエセ軍人二名と導師様だけだ。
くらくらしているらしいエセ軍人二名と導師に、念のためにと告げる。
「……云っておくが、俺らはもう馬車の手配は済ませてる。フーブラス川を渡る為の舟もな。俺達の資
金で俺達がやった事だ。てめぇらは乗せねぇからな」
「……おやおや、貴族のお坊ちゃまの癖に、随分とケチで……」
「お前今の俺の話理解してたか? 何で無関係の他人を自分らで手配した馬車と舟に乗せる必要が
ある? 俺らは慈善家でも投資家でもてめぇらの財布でもねぇんだよ! てめぇの事はてめぇでやりや
がれ!」
そう云いきって、ルークは信彦の肩を抱くと、行くぞ、と身内に声をかけた。「話終わったの?」ときょ
とりとしているシグナルに、頷く事で応え歩き出せば、ティアが声を荒げた。
「ちょっと、どこに行く気なの?! 勝手な行動は……!」
「だから人の話理解する気あんのか馬鹿女あああああああああ! 別パーティーだろうが無関係だろ
うが俺らが何しようと俺らの勝手だろうが! そもそも街についたなら宿確保して休むに決まってんだ
ろが! 脳みそ死んでるの? 何なの? 馬鹿なの? 死ぬの?!」
「ルーク兄ちゃん落ち着いて。周りの人たちどん引きだから」
「おっと、悪ぃ」
信彦に云われ、そっと口を押さえる。
怒りに我を忘れるなど、ファブレの子として見っとも無い限りだ。それに、周りに居る無関係で善良な
人々の迷惑になるなど、そんな事あってはならない。
お騒がせしてすいませんと軽く頭を下げれば、どこか同情に満ちた目で見られ、気にしないでと微笑
まれた。
どうやら周りから見れば、「裕福なお坊ちゃまの物見遊山のおこぼれにあやかろうと、変な連中が付
き纏ってる」になるのだろう。
それはそうだ。ルーク達とエセ軍人達とでは雰囲気が違いすぎる。誰も同じパーティーの仲間割れ、
とは見なさないだろう。そもそも、エセ軍人達を軍人とは思わないだろう。言動がアレすぎる。
「迷惑だから此れ以上付き纏うんじゃねぇぞ、ストーカー共!」
「なっ……! 何て云い草なの?! 貴方って人は本当に……!」
「無関係の他人に付き纏う事をストーカー行為って云うんだよ! 二度と話かけんな!」
そう云い切って、今度こそ歩き出した。後ろで女の金切り声と男の胡散臭いため息が聞こえて来るが、
最早どうでもいい事。
多くはない荷物を宿屋に置いて、とっとと観光に出てしまおう。
「とりあえず、ソイルの木には登っておきてぇな」
「あ、あの大きい木?! 僕も登ってみたい!」
「俺も俺も!」
「だ、大丈夫ですかルーク様……、もし落ちたりしたら……」
「ガイが受け止めてくれるよな?」
「勿論ですこのガイ全力でルーク様を受け止め死ぬ覚悟で御座います!」
「いや、死ぬ覚悟はしなくていいよ……」
「俺様は昼寝するからな」
「えー、コードも行こうよぉ」
「そうだよ師匠! 一緒にいい景色見ようぜ!」
傍から聞けば、全く持って、お気楽な、物見遊山なルーク様ご一行だった。
了
ジェイド達がルーク達に付き纏うのは、「世間知らずの連中を保護してやってる」と思っているから。
でも戦う力はあるのだからこちらに手を貸すのは当然だと思っています。
うん、池波大先生も人間って生き物は矛盾の生き物だと仰っていますし、私も人間の持つ矛盾に魅
力を感じる訳ですが、許容できる矛盾と出来ない矛盾があります、よ、ね……!
シグナルが来てからますますお兄ちゃん根性が強くなってしまったルークお兄ちゃん。頑張ってます。^^^
042.六神将集結
信頼する部下――元はヴァンに付けられた監視役だったが、今や忠実な手足だ――からの報告に、
アッシュは開いた口が塞がらなかった。
「おい、今の話、マジ、なのか……?」
「マジ、であります、アッシュ師団長」
部下の顔色も大分悪い。真実だと悟ったアッシュは、両手で頭を抱えてのけ反った。
人が、人が特殊任務で国を空けている間に、何て事をしてくれたのか。
「……何なのあいつら! マルクト軍籍のタルタロス襲って乗船員皆殺しにして強奪って何考えてんの?!
そんな事したらマルクトの賢帝が黙ってる訳ないじゃん! ダアト潰されるに決まってんじゃん! 本当
に何なの?! 馬鹿なの?! 死ぬのおおおおおおおお?!」
「師団長落ち着いて! キャラが間違ってます!」
「キャラの一つも間違うっつーんだよおおおおおおお! やべぇ、マジやべぇ、此処に居たら俺の身まで
やばい!」
何のために今まで洗脳されたフリ、良い子ちゃんのフリをして来たと思っているのか。少なくとも、護身
のため、そして愛する祖国のためである。
間違っても、自分の身を危険にさらす為ではない!
「襲撃そのものには関わっていないので、責任逃れは出来るかと……」
「駄目だ。俺も六神将って一括りにされちまってんだよ。何かしらの余波は絶対ある!」
だから二つ名がつくような寒い集団に入れられるのは御免だったと云うのに。あの髭、真剣に許すま
じ。髭どころか頭髪も剃りあげなきゃ気が済まない!
「と、とりあえず、此処は知恵を借りよう。そうしよう。俺らじゃ無理だ! 畑違いすぎる!」
「そ、そうですね。すぐ連絡を取りましょう。花人(かじん)様、いえ、聖歌様にお手紙を!」
「そうだな、聖歌の兄上なら良い知恵を貸してくれるに違いない! 多少の叱責は覚悟の上。無駄死に
するよかマシだ!」
ばたばたと部下が出て行き、自分は執務用の机から羊皮紙を取り出し、慌てて文章を綴る。
確かにヴァンはあまり頭がよくないと思っていた。計画だって運に任せた部分があって杜撰だし、自分
以外の人間を見下しているから足元掬われそうになっているし、子供だと侮っていたのかアッシュに施
した洗脳は無効化しているし、こちらの演技にも気付いていない。
その事に気づいていないなら馬鹿だし、気付いていて放置しているなら大馬鹿だと思っていた。だが、
まさか、本当に此処まで、馬鹿だったとは。
ヴァンだけではない、タルタロスを襲撃した六神将どももそうだ。いくらダアトが生活の大半を支配して
いる預言を詠む唯一の機関とは云え、結局大多数の人間は預言より自分の命の方が大切なのだ。だ
から教団も命に関わる預言は詠まない。だと云うのにやらかしたのは、無意味な大量虐殺。
もし仮に「此れも預言です」などと云った所で、納得する人間など預言にどっぷり浸かってる頭悪い極
少数。残りのまともな人間は「ふざけるな」と一蹴して報復するに決まっている。
「大局の前には些細な事だってか……。ふざけんなっつーの!」
そもそも、連中は壮大な計画、人間の自由を勝ち取る星との聖戦などと酔っているが、やってる事と
云えば犯罪のそれだ。
御大層なお題目唱えていれば、全て赦されるとでも思っているのか!
そんなもん、「愛しているから」とか云う理由で恋人を刺し殺す気狂いと何が違う!
眉間に盛大に皺が寄る。あぁまた、あの幼い弟君から「あ、アッシュ兄ちゃん怖い顔してる。笑って笑っ
て〜」なんて愛くるしい笑顔で云われてしまいそうだ。
「……それも、いい……!」
うっかり想像してしまい、頬を赤くしつつ、椅子の上で悶えてしまった。
ちょっと現実逃避しつつ、アッシュは手紙を書き終える。
七年の苦労、全てが水の泡になってしまうかも知れないが、犬死よりはマシだ、と云う思いの元。
祖国バチカルにおわす、聖なる歌の名を持つ兄上へ、嘆願の手紙を出したのだった。
了
お客様からの御要望で、このネタでは味方のアッシュ君です。
六神将集結してねぇwwwww まぁ、六神将が集結したせいでこうなった! 的な。(こじつけ)
いやぁ、最初は敵でも良かったんですけど、ゲームのアッシュ君のやる事成す事許せない事ばかり
ですので、ならいっそ最初から味方陣営の方がいいかなーっと。
そんな訳で、ルークと似た所ありまくりの兄弟馬鹿アッス君であります。やべぇ、このアッシュ新鮮過
ぎて書くの滅茶苦茶楽しい^^^^^^
ちなみにアッシュはバチカルの外に居る際、兄弟+αの事を隠語で呼びます。
花人=ラヴェンダー 聖歌=オラトリオ 紅玉=パルス 天狼=シグナル 神子=信彦 御大=コード
アッシュ君たらロマンチスト\(^O^)/←お前が考えたんだろ
043.フーブラス川
「ガイ、落ちつけ頼む、シグナルと信彦の前じゃ不味い!」
「分かっておりますルーク様。分かっておりますとも。このガイ、ルーク様のご命令に背くなど有り得ま
せん、えぇ有り得ませんとも、ルーク様の仰る事は全て聞き入れ、忠実に実行致します」
ルーク様を誰よりも敬愛しておりますから! 命令違反など有り得ません! と叫ぶガイに、目の前
に居る少女――アリエッタは罰の悪そうな顔をした。
なんせこの少女、今まさに、敬愛する導師の言葉に逆らったのだから。
始まりは妖獣のアリエッタに見つかった事。その時導師様はこう仰った訳だ。
「アリエッタ! 見逃してください。あなたなら分かってくれますよね? 戦争を起こしてはいけないって」
なるほど、正義感に満ちた言葉だ。
だがルーク的には突っ込ませていただきたい。
見逃して下さいって何だ、見逃して下さいって。
アリエッタは部下だろう。お前が命令系統の最上位だろう。自分達に干渉するなと命令する場面だ
ろうが。
何でそう、卑屈なまでに下手に出る?
「導師イオンって、あのアリエッタって子に弱みでも握られてるのかな?」
呑気な顔で云ったシグナルの言葉。ある意味、的を得ているのではないだろうか。むしろ、弱みを握
られていなければあの下手すぎる態度は解せない。
その言葉に、アリエッタはこう返した。
「イオン様の云う事……アリエッタは聞いてあげたい……です」
云う事。聞いてあげたい。
なんだそりゃぁ。
確かに態度は下手だ。けれど導師は、道を譲れとは云っている訳である。
ローレライ教団最高指導者、導師イオンが。
なのにこの子、聞いてあげたいと来たもんだ。そこは「畏まりましたイオン様。道を妨げてしまい誠に
申し訳ございません」と頭を下げて道を譲るところだろう。
「……神託の盾騎士団って……」
そう云って頭を抱えた信彦に、全く罪はない。と云うか、信彦が残念に思う必要も無い。
全ては教団の自己責任。
此処まで自由奔放な軍人育てるとは、ある意味凄い事ではないだろうか。見習いたくはないが。
そしてそんな残念過ぎる光景を見た、兄弟の忠実な僕であるガイが、今まさにキレかかっていると
云う訳である。
ガイにとって、仕える相手――ファブレ六兄弟及び公爵夫妻、そしてご隠居様の言葉は絶対。例え
命令の形を取っていなくても、頼まれるような言葉使いであっても、従い、尽くし、叶えるべき物であ
る。
ルークがぽつりと「喉が渇いた」と云えば即座に茶を淹れ、信彦が「暇だから誰か遊んでー」と云え
ば遊び相手をし、シグナルが「僕の剣がない〜」と嘆けばすぐさま探し出し、オラトリオが「誰かこれ
公爵様の所へ頼むー」と云えば恭しく受け取り、ラヴェンダーが「む、靴が汚れた……」と呟けば即
刻磨き上げる。
そう、使用人とは、部下とは、そう云う物である。仕える相手の言葉に逆らう事など有り得ない、自
分の都合を優先する事など有り得ないのである。
もしそれが実行出来ないのであれば、それは使用人でも軍人でもない。
エセが付く偽物である。
だからガイは怒り狂っている。役職は違えど立場は同じ少女に対して、憤りを感じている。
それでも断じないのは、ルークに命令されているから。それと、アリエッタを斬るくらいなら、それよ
り先に斬りたい連中が居るからである。
先に斬りたい連中――それ即ち、何の役にも立たず突っ立ってるだけの木偶の坊二人。
「えーっと、アリエッタちゃん、だっけ?」
突然、シグナルが少女の名を呼んだ。呼ばれたアリエッタは両肩をびくりと上げてから、消え入り
そうな声で返事をする。
「あのさ、君が用事あるのって誰なのかな? 僕たちも含まれてるの?」
女の子には甘く、手加減するのが常なシグナルが、優しく問う。ガイの怒りに怯えていた少女の表
情が、少し和らいだ。
「えと、アリエッタ……ママを殺した人たちに、用事が、あって……」
「お母さん殺されちゃったのか?! 一体誰に?!」
たどたどしくアリエッタが告げた言葉に、シグナルが同情しきった顔になった。
基本、シグナルは甘い。女子供には特に甘い。その上、正義感まで強い。
例え行く手を遮った敵でも、「母親を殺された少女」相手に悪感情を抱ける訳がないのである。
「そ、そこの、人達です……! アリエッタのママ、殺したです……!」
そう云ってアリエッタが示したのは――木偶の坊エセ軍人、二名。
途端、ルーク達一行の顔は揃って「うわ、こいつら最悪……」となった。
アリエッタの言葉と、ルーク達の顔付きに慌てたのはティアだった。
「な、何を云っているの?! 濡れ衣はよして!」
「濡れ衣じゃないもん! この子達が教えてくれた。ママ、お家燃やされて、チーグルの森に住みつ
いたのに、人間に殺されたって!」
「それって、もしかしてライガクイーンの事?」
「そう、です! アリエッタのママ、ライガの女王様、です!」
ティアの言葉にはタメ口だったが、信彦の質問にはたどたどしくも敬語で答えていた。少し、ガイ
の怒りが和らぐ。恐らくアリエッタへの好感度が、ちょっぴり上がったのだろう。結局は兄弟命の奴
だから。
その時だ。信彦の腕大人しく抱かれていたミュウが、飛び出したのは。
「アリエッタさん、ごめんなさいですのごめんなさいですの!」
「ち、チーグル? 何で此処に、いるですか……?」
「ミュウが全部悪いんですの! ミュウが女王様の森を燃やしたからいけないんですの!」
その言葉を聞いたアリエッタの目に、剣呑な光が宿った。だが、続けられたミュウの言葉に、その
光は霧散した。
「殺すならミュウにして下さいですの! でも、でも、ご主人さま達は通して下さいですの! ご主人
さま達は何もしてないですの! 女王様のお墓も作ってくれたですの!」
「え……?」
アリエッタが目を見開き、ミュウを抱えていた信彦へと視線を向ける。
「本当、ですか……? あのお墓、貴方達が……?」
「んー、まぁ、後味悪かったから、一応」
「自己満足だけどねー」
曖昧な笑みを浮かべて、二人揃って云う。
本当、善意でも何でもなく、後味の悪さから作ったにすぎないのである。もし恩を売りたいなら、眼
鏡が譜術を唱えたのを邪魔するべきだったのだが、そこまでの思い入れはなく。
結局自己満足の墓を作っただけだったのだが。
二人の言葉を聞いた途端、アリエッタの顔が真っ赤に染まった。
「ご、ご、ごめんなさい! アリエッタ、知らなくて……! ごめんなさい、ママのお墓、作ってくれたの
に、恩人さん、なのに!」
ぺこぺこと頭を下げるアリエッタに対し、ルークは何だか逆に申し訳ない気持ちになった。本当に、
善意でも何でもなかったと云うのに、そこまで感謝され謝罪されると云うのは、尻の座りが悪い。
「ど、道中のお邪魔して、本当に、ごめんなさい、です……! どうかお通り下さい、です!」
「あ、いいの?」
「はいです! 本当にごめんなさいです、それと、本当にありがとう、ございます、です!」
そう云って道を開けたアリエッタに、口々に礼を云いつつ、ルーク一行は通り過ぎる。その途中、信
彦はミュウを拾い上げる事を忘れなかったが、特に何も云われなかった。
いや、本当は礼を云う必要はないのだが、彼女の母親を見殺しにしたと云う罪悪感があったルーク
は、ついつい云ってしまったのだ。
確かに、自分達は悪くない。無関係なのに墓を作ったのだから、恩人と云われてもいいかも知れな
い。
でも、良心が何故かちくちくと痛む訳で。
「……情けは人の為ならず、ってこう云う事かなー」
「因果応報の方かもよ、ルーク兄ちゃん」
後ろの方が騒がしいが、敢えて無視する。結局は別パーティーだし、あいつらマジでアリエッタの母
親の仇だし、ぶっちゃけどうでもいいし。
それより何より。
「信彦もルークも偉いなぁ!」
「流石です、ルーク様信彦様! お二人とも、俺の誇りです!」
心の底から褒めて来る、二人の輝く目が痛い。
「……とりあえず、アリエッタの事は見逃そうか。現時点では」
「そうだね、ルーク兄ちゃん……」
確かに自分は、公爵家子息で、次期国王で、公平な判断をしなくてはならないのだが。
直接被害は受けていないし、良心がずくんずくんと痛むのだから、見逃してもいいのではないだろう
か。
どんな肩書き背負っても、所詮は人間だよな……と、ルークは重いため息をついたのだった。
了
あれ?
おかしいな。
アリエッタにも厳しく行く予定だったのに……。結局甘く……あれ?
いや、ゲームに忠実に行くなら、アリエッタも厳しくなる対象じゃないですか。だってあの子、結構や
らかしてる、し……。
でも結局甘やかしてしまった。そんな駄目な贔屓人間、雲麻でございます★(死んだ方がいい)
あ、ちなみにコード様は専用ケースの中でお昼寝中です。←
044.譜歌
頭に浮かんだフレーズを、そのまま口にした。
「クロア リュオ ズェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ズェ――」
「あら、オラトリオ、貴方譜歌を知っているの?」
その言葉に、え、と顔を上げれば、穏やかな顔をしたシュザンヌが座している。
「譜歌、すか?」
「えぇ、今貴方が口ずさんでいたのですが……、違いましたか?」
「あ、いや、俺は思いついたまま、唄ってみただけでして」
本当に、ふと思いついたと云うか、勝手に浮かんできたと云うか。
知らない言語、聞いた事のないメロディ。
けれど、しっくりと唇に馴染む、それ。
「そうですか……。オラトリオには、作詞家と作曲家の才能があるのかも知れませんね」
「あはは、どうでしょうねぇ」
笑って誤魔化す。自分には、何かを創造する力など無いと、”知っていたから”。
「ねぇ、オラトリオ。もっと唄って下さいな」
「え、えぇ? 俺なんかの歌を、ですか?」
「えぇ。貴方の歌声は、とても澄んでいて綺麗ですわ。もっともっと、聞いていたくなるのです」
「はは。そこまで云われちゃぁ、唄わない訳にはいかないっすね」
少しばかりの照れも入りながら、オラトリオは口を開く。
思えば、唄う時はいつだって、敵を倒す事を目的としていた。
こうして、誰かのために、誰かを癒すために唄う事は、初めてだった。
「トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ――」
――深淵へと誘う旋律。
「クロア リュオ ズェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ズェ――」
――堅固たる護り手の調べ。
「ヴァ レィ ズェ トゥエ ネゥ ズェ リュオ ズェ クロア――」
――壮麗たる天使の歌声。
「リュオ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ ズェ レィ――」
――女神の慈悲たる癒しの旋律。
「ヴァ ネゥ ヴァ レィ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レィ――」
――魔を灰燼となす激しき調べ。
「クロア リュオ クロア ネゥ ズェ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ――」
――覇者の天駆を煌めく神々の歌声。
「レィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ――」
そして――
ぱちぱちぱちと拍手され、オラトリオははっと正気に戻った。
「素敵ね、オラトリオ。聴き惚れてしまいましたわ」
「は――……そんな、勿体ない、お言葉、で」
軽く額を押さえつつ、告げる。
何だろう、今の感覚は。
薄い膜を通り過ぎたような、そんな、曖昧な感触。
自分の口から零れ落ちた歌は、本当に、自分の歌声だったのか。
「貴方が第七譜術士だったら、立派な調律師になれたでしょうに。勿体ないわ」
「ははは。俺はデスクワーク派の官僚気質っすから。そう云うのは向かないっすよ」
照れ隠しでもするように笑いながら、オラトリオはひたすら己の中にある違和感と戦っていた。
喉にそっと触れ、思う。
――この声。
これは、自分の声。
敵の全てを打ち砕く、八つの声(ヴァイタル・ボイス)。
唄い上げるは、聖譚歌(オラトリオ)。
けれど今詠ったのは、自分の物で無く、もっと、別の何かの、歌、だ。
(俺は、一体、何を詠った?!)
ぞわりと背筋を駆ける感覚。人間ならば、鳥肌を立てている所だ。
いや、鳥肌どころではない。
この声は、歌声は、オラトリオの誇り。
唯一無二の相棒を守る、最大にして最強の武器。
誰もが聴き惚れる、天上の歌声を紡ぐ、神からの贈り物。
それを、穢した奴がいる。
表面上にこやかに微笑みながら、オラトリオは腹の底で怒りの炎が揺らめくのを、確かに感じてい
た。
了
これも拍手からいただいたネタです。有難うございます^^^^
確かにオラトリオ兄さんなら、大譜歌くらい詠える……! だが、そこの実際の効果を付けるかは
悩む所なんですよねー。あんまり万能過ぎると収拾がつかなくなる……!orz
でもローレライの加護で大譜歌使用可能なオラトリオ兄さんとかカッコよすぎてハゲ萌える。本当
にオラトリオお兄さんはかっこいいなぁ! TS中結婚したい男ナンバーワンだよ!←
045.ユリアの血を継ぐ者
インゴベルトは震えそうになる体へ、必死になって叱責をしていた。
玉座について云十年、臣下の前で震えるなど、あってはならない。
だが、目の前に立つクリムゾンの怒りに対して、誰もが恐怖に怯えていた。
「ダアトの方々は、随分と我らがキムラスカを馬鹿にしておいでのようだ……」
義弟との付き合いも、云十年を数えた。だが、此処まで怒りに血を滾らせている義弟を見るのは初
めての事だった。
勿論、インゴベルトとて彼の怒りの理由は分かる。許せないと云う感情もある。
だが、キムラスカが至上の栄光を手に入れるのに、ダアトの協力は必要不可欠なのだ。
「我が最愛の息子、ルークを誘拐しただけでは飽き足らず、対等な言葉を使い、罵倒しこき下ろし、
その上戦闘強要までするとは……。ダアトの軍人教育がいかなる物か、是非聞かせていただきたい
ところですなぁ……」
なんとか、なんとか義弟に怒りを鎮めてもらいたい所だが、見た所不可能そうだ。
そう、確かに、彼の云う通り、ダアトの蛮行は目に余った。だが、だが、自分にはキムラスカを栄光
へと導く責任があるのだ。
「落ち着けクリムゾン……。報告書が大仰に書いてあるかも知れぬであろう?」
「陛下は我が息子が虚偽の報告をしていると……?」
「い、いや。そうは申しておらん。だがな、ルークの一方的な目線だけで断じるのは早計と云うものだ。
裁くにしても、両者の話を聞かねばなるまい?」
「……それもそうですね。陛下の仰る通りです」
いくらか収まった怒りに、ほっと安堵のため息をつく。
「では、この話はルーク達が帰還した後にしましょう。……大詠師モース、これが事実であった場合、
ヴァン・グランツ、ティア・グランツ両名の極刑は免れぬと思っていただこう」
「い、いや、お待ち下さいファブレ公爵! 彼らは神聖なる始祖ユリアの血を引く者達でして……!」
「あぁ、なるほど。確かに、聖女の血を絶やすのは得策ではありませんな」
その言葉に、モースも安堵のため息をついた。だが、次の言葉に顔色を変える。
「では、二人の延命は許可しましょう。ただ、子が出来次第、死刑と云う事で」
「ふぁ、ファブレ公爵?! ふ、二人はですなぁ、ダアトに必要な人材で……!」
「おや、それでは貴方が身代わりになりますか、大詠師モース。そうですね、古今東西、部下の失態
は上司が償う事も少なくはありませんし……。貴方の首が頂けるなら、二人の助命を認めますが?」
いかがか? と聞けば、モースは震えながら、「い、いや、罪は、本人が償わねば意味がありませ
んからな!」と命乞いをした。
結局奴も、ユリアの血より自分の命の方が大切なのだろう。神聖、が聞いて呆れる。
「陛下も、宜しゅうございますか?」
「私は構わん」
むしろ、その方が好都合かも知れない。
ユリアの血をキムラスカが管理する事になれば、ダアトもこちらに対して強気になれないだろう。
ダアトから上手く情報を引き出すのに、使えるかも知れない。
「それでは、今日はこれにて、失礼致します」
美しく完璧な敬礼を取り、義弟は足音も立てずに謁見の間から退室した。その背中には最後まで
怒りが宿っていた所を見ると、引きとめる事も出来なかった。
あれ以上怒らせたら、本気でクーデターを起こされるのではないか、と云う恐怖もあった。頼りに
なる臣下であるが、それと同時に、マルクトよりも手ごわい敵でもあるのだ、あれは。
妹を下賜してやった事で少しは押さえ込めるかと思っていたのだが、あの仲睦まじい様を見ると、
不可能だと思える。むしろ妹は喜んで義弟に力を貸すだろう。
はぁと、大きくため息を一つ。
キムラスカ王国大貴族、ファブレ公爵家。
王家にとっても国にとっても重要な意味を持つ彼らを味方に付けておく事は、国王にとって重要な
仕事の一つである。敵に回す事など、あってはならないと云うのに。
「……恨むぞ、ダアト」
ぼそりと呟いた言葉に、モースが慌てた様子で振り返った。
それを無視して、ため息を一つ。
あぁ全く、愛娘の顔を見て癒されたいと、インゴベルトは椅子に沈み込みながら思った。
了
あれ、なんだかインゴ陛下が可愛いぞ?(勘違いだ)
まぁ、死刑死刑云ってますけど、作中はなりませんので。信彦とシグナルの前でそんな物騒な事、
私できませんわ! 情操教育に悪すぎる!←
ちなみに公爵は、ヴァンとティアそれぞれに人をあてがうのではなく、二人で子供作れとか思って
ます。←
王家に連なる人間なんだから、近親相姦くらい余裕ですよ!(死ね)
執筆2009/11/28
