021.軍人
信彦はたかだか十一歳の子供である。
今でこそ公爵家でお世話になっているが、元は日本に住む極一般的――……とは云えないかも知れ
ない。彼の置かれている環境は中々特殊だ――な小学生だ。
小学生が軍隊やら軍人に関わる事など早々無い。町の駐在さんと挨拶程度が関の山だろう。(信彦
の場合、挨拶どころかとても親しい間柄だけれど)
だがほんの少しだけ、信彦は「軍人さん」とお喋りした事があった。
オラトリオが仕事で英国へ向かった際、シグナルと一緒に連れて行ってもらった時だ。どんなつも
りで自分たちを連れて行ったか知れないが、信彦は初めての英国が嬉しかった。
自分はただの小学生で、シグナルは自分の兄だと信彦は思っているが、世間から見ればそれでは済
まないらしく。英国滞在中は「軍人さん」が身辺警護をしていた。
世界に名立たる「音井信之介」の孫、頭脳集団<シンクタンク>総帥の直系、最新戦闘型HFRと
くれば、周囲も敏感にならざるを得なかったのだとわかってはいたものの、普段トッカリタウンでは
普通に生活していたのでどうにも窮屈だったし、ずっと年上で立派な大人たちが自分たちに気を遣う
のがなんだか気恥ずかしかった。
少しだけ英会話が出来た信彦は、「軍人さん」に聞いてみた。「こんな子供を守ったり、丁重に扱
うのって厭じゃないんですか?」と。
聞き取りにくかっただろうたどたどしい英語に、「軍人さん」はにこやかに笑い、丁寧な日本語で
答えてくれた。
「とんでもありません。貴方方の護衛は私たちにとって名誉ある仕事なのですよ。女王陛下から直々
にお言葉を賜るくらいの大役です。厭だなんて有り得ませんよ。信彦さんもシグナルさんも、良い方々
ですから、護衛する側としても楽しくて仕方ありません。役得ですね、これは」
日本語喋れたんだと驚く信彦に、嗜み程度ですがと、その人はまた笑った。
「でも、「軍人さん」って忙しいんでしょ? 断ろうとか思わなかったの?」
今度は日本語で聞いてみると、また丁寧な日本語で返された。
「たしかに軍人は多忙ですよ。ですが、上からの命令は絶対ですし、厭だとか大変だとか、そんな個
人的感情を優先するようでは軍人とは云えません。失格です。自分の感情を一番大事にしたいなら軍
人になってはいけないのですよ。軍のために、国のために、尽くさねばならないのですから」
ほへーと感心する信彦とシグナルに、「軍人さん」は照れくさそうに「偉そうな事を云ってしまい
ました」と頬を掻いていた。
そんな話を聞き、公爵家に来てからは職務に忠実な白光騎士を見てきた信彦にとって、目の前の男
は「軍人さん」ではなかった。
だからローズ邸から出る際に呼び止められた信彦は、にっこり笑顔で云ってやったのだ。
「まだ何か用なの? ―――オジさん」
音を立てて空気が氷結したが、どうでもいい事だった。
だってあの「軍人さん」はこうも云っていた。
「そうですね……。自分の感情を隠しもせず、職務をこなせないような人はたとえ軍服を着ていよう
が軍人ではありません。自分が上官なら、直ぐにでもクビにします。そんな人が隊にいても……えぇっ
と、そう! ヒャク害あってイチ利なし、です」
目の前の喧嘩を止めもせず、村人達の横暴を見て見ぬふりするような人は、まかり間違っても治安
維持が職務に入っている「軍人さん」ではないのだから。
だからこんな人、「オジさん」で充分だと、信彦は笑ってやった。
了
信彦こえー。(自分で書いておいて!)信彦が英国行った云々は俺設定ですから! でも本当、「ツ
インシグナル進化論」読むとさ、外国に行った場合信彦たちってめっちゃ厳重な警護つくんじゃね?
って思うわけです。特に信彦とか肩書きからして凄いじゃないですか! 誘拐だのテロだのに巻き込
まれる危険性が高すぎますって……!
ジェイドを言い負かす信彦と子安ネタ(笑)はタルタロスで書きたいと思うので、此処ではこの程
度です……! でも十一歳から見れば三十五歳っておじさんだよなぁ。て云うか、正信さん(父親)
と同じ歳じゃん! おっさんだよ!(笑)
022.犯人探し
「ガイさん、犯人って捕まえた方がいいよな!」
握りこぶしを作って云うシグナルに、ぱちくりと瞬きをする。
「どうしたんです、シグナル様。突然……」
「んーっとさ、最初は信彦とルークを連れ帰る事しか考えてなかったんだけど、よく考えたらあの誘
拐犯野放しにしちゃいけないなーって思って」
「それはそうですが……」
現在誘拐犯がどうしているか、可能性は三つある。
一つめ、既に逃亡している。二つめ、犯罪者として軍に捕縛されている。三つめ、ルークの手によっ
て処断されている。
世話係として長く側にいた身としては、三つ目ではあって欲しくないなと、情けなくも思う。ルー
クの手は人を殺す手ではなく、姉弟を守る手だ。だが、信彦が側に居る以上、弟を守るために情け容
赦なく誘拐犯をその手にかけている可能性はあった。
それを、この心優しい少年に告げる事は、ガイには出来なかったけれど。
*** ***
シグナルが睡眠モードに入った後、火の番をしながら、頭上に居るコードに声をかけた。
「コード様はどう思われます?」
「何がだ」
「その……、誘拐犯が今、どうしているか……」
「……あの甘ちゃんが殺せるとは思えんがな」
その言葉に、ガイは安堵した。<長老>の口から自分の想像を否定する言葉が出てくれて、良かっ
たと思った。
けれどまだ安心が出来ない。もっと、根本から自分の考えを否定して欲しかった。
「でも、ルーク様は信彦坊ちゃんの事となると、無茶をやらかしますから……」
「逆に、信彦が側にいるからこそ、殺せんと俺様は思うがな」
ばさり。羽ばたく音。コードのメタリックボディがガイの頭上から、側の荷物上へと移った。
「あれはそこの馬鹿と同じく変に潔癖なところがあるからな。大事な弟の側で「悪行」は出来んさ」
「悪行……」
「法で許されていようと、義務だろうと、あいつらにとって信彦を傷つける行為は全て悪行だ」
炎に照らされキラキラ光るプリズムパープルを見、それから、燃え盛る朱と橙の炎を見る。
そうだ。対照的なように見えて根元がそっくりな「双子」は、変なところで潔癖だ。悪人は許さな
い、悪行は許さない、でも―――「弟」を傷つける事は、もっと赦せない。
ゾクリと、背筋が粟立った。
ファブレ家でそれは当然だった。家族として当たり前の常識。でも、外では違うのだとガイは知っ
ている。でもルークは初めて外に出たのだ。自分たち家族の常識が非常識だと、生まれて初めて目の
当たりにしているかも知れない。
それを目にしてルークは、自分の常識を守れているのだろうか――?
「貴様がそこまで心配しなくともいい」
「え」
「あれは俺様の弟子になると喚くような奴だぞ。そう簡単に自分を手放しはしない」
無用な心配だと云って、コードは荷物から飛び降りると、地面を歩いてシグナルの側まで行った。
眠るシグナルの膝に飛び乗り、そのまま睡眠モードに入ってしまう。
結局今日も、夜通し火の番は自分だとガイは苦笑した。
了
なんだか云いたい事が多すぎてまとまりませんでした…。
大丈夫だよガイ。お前が気にしなくても、ルークは全力で弟守ってるから!(笑)
023.毎日の日課
「ラムダスさん」
「これはオラトリオ様。いかが致しましたか?」
「いえ、ね。シグナルたちから何か連絡入ってないかなー、と」
「マルクト入りした、と云う連絡以降入っておりません」
「そっか……。あーぁ……」
「お疲れで御座いますね」
「そりゃぁ、ストレス発散と癒し空間を一気に奪われればさぁ。あー、俺も姉貴と一緒にグランツ謡
将いじめて来ようかね」
「オラトリオ様……。ラヴェンダー様は尋問を行っているのであって、拷問をしている訳では……」
「姉さんにかかればどっちも一緒だよ。くそ、無理矢理にでもシグナル達に付いて行けば良かった」
「心中お察し申し上げます。ところで、オラトリオ様」
「何か?」
「あそこでオロオロしているのは、オラトリオ様の秘書では……」
「じゃ、俺ちょっと気分転換に散歩してくるから」
「護衛にそこの白光騎士をお連れ下さいませ」
「あいよ。んじゃ、行ってくるわ」
「お気をつけて、オラトリオ様」
了
オラトリオお兄さんの日課。(笑)
居ても立ってもいられないけど、どうにもできないもどかしさ。
024.ダアト式譜術
信彦はちょっとばかり難しそうな顔をして、前を歩く”自称”導師イオンとモース大詠師旗下情報
部第一小隊所属ティア・グランツを見た。そして、こてんと首を傾げる。
「どうかしたのか、信彦」
「んー、ちょっとね」
弟以外守る気ゼロの兄に向かって、にこりと笑う。まぁ帰るよう云ったのを聞き入れなかったのは
イオンだし、そのイオンを守ると啖呵切ったのはティアだし、ルークが弟のみ守る気満々でも悪くは
ない。むしろ自然だ。
「色々腑に落ちない事が多いなぁ、って」
「全くだ。……って、もしかして怒ってるのか……?」
恐る恐ると云った体でルークが顔を覗き込んでくる。まさかと信彦は笑ったが、ルークがそう思っ
てしまうのも無理は無い。
何せただの観光気分でチーグルの森に来たと云うのに、あれよあれよと云う間に食料泥棒探しに巻
き込まれてしまったのだから。そしてチーグルの森に行こうと云い出したのは何を隠そうルーク本人
である。
「だって生チーグル抱っこしてる信彦が見たかったんだもん……」
もにょもにょと口にする兄に、信彦はつい噴き出してしまう。
「だから怒ってないってば。変だな〜って思ってるくらいで」
「それって」チラと、前を歩く二人を見る。「あの”自称”導師様?」
うん、と頷く。
「だってヴァン先生が云ってたじゃない、導師は行方不明だって。その導師がこんなところウロウロ
してるのも変だし、護衛一人連れてないもの変だし、わざわざ他国の問題に首突っ込むのも変だし。
変じゃないところ探すのが難しくないかなぁ」
「体弱いのにもろ体力消費する譜術を森の入り口でぶちかます辺りも変だよな」
自分の体力を把握してないんだな、と呆れ混じりにルークはため息をつく。
「なんか狙ってやってる気さえすんぞ」
「んー。それも処世術の一つじゃないかなぁ。赤ちゃんだって可愛い仕草とか、自分は無力ですって
アピールする事で周りの庇護を得るって本にあったし」
「マジか。赤ちゃんってすげーな……」
「赤ちゃんだって生きてくために頑張ってるんだよ」
うんうんと頷く。
前を歩く二人は、後ろの兄弟がある意味侮辱的な会話をしている事など気付かず、部外者にはよく
分からない会話をしていた。
周囲も警戒せず、護衛対象を隣で歩かせるとは、随分と呑気な事だ。
云ったところで、「この森の魔物は弱いから大丈夫よ」とか返されそうだが。
「でさ、信彦はどう思う? 本物だと思うか?」
「えー、わかんないよ。状況からして偽者だと思えるけど、ダアト式譜術使ってたし、あのオジさん
もイオン様って呼んでたし。本物だとしても色々納得できないけどさー」
「……まぁいいか。本物でも偽者でも俺たちには関係ないよな。教団の兵士がいるんだし、俺らはた
だの民間人だし」
そう投げやりに云ってルークは頭の後ろで手を組んだ。気になっているとは云え、別に深く突っ込
みたくない――これ以上厄介ごとは御免だと思っている信彦も、そうだねと頷く。
味方がお互いしかいない以上、下手に他人を懐に招き入れる事は出来ないのだから。
了
あああああ……orz 信彦とルークがちょっと厭な子になってる……!
違うんです。周りが敵だらけだから警戒してるだけなんですー!!
025.音律符
「これ、何て意味?」
イオンから受け取った音律符(キャパシティコア)を信彦に見せる。ルークは古語が苦手なのだっ
た。その代わり信彦は言語学が得意だったりする。
音律符を覗き込んだ信彦は、意味をふんふんと頷きつつ読み解いた。笑顔で、云う。
「ストレ。「傲慢な」って意味があるんだよ」
「そうか。喧嘩売られてたのか」
みしみしと音律符が軋むほど力を込めながら、ルークはこれを手渡してきた一見無害そうな少年を
睨み付けた。
途端、おろおろとし始めるイオンを、ティアが前に出て庇った。そして鋭い眼差しでルークを睨み
つける。
「ちょっと! イオン様に失礼な真似しないで頂戴!」
「アホかぁっ! 失礼な真似されたのは俺の方だっつーんだよボケアマ!」
「す、すみません、ルーク。あの、決して悪意があった訳では……」
「どう見ようが悪意の塊じゃねぇか! いるかこんなもん!」
「なっ! 貴方ねぇ! イオン様がせっかく下さったのに……!」
「じゃぁお前にくれてやるよ! そもそも俺には姉さんがくれたもんがあるからいらねぇし!」
ぐいとティアにストレを押し付けて、ルークはぷいとそっぽを向いた。本当なら歩き去ってやりた
いところなのだろうが、前に進むのも元来た道を歩くのも癪なのだろう。
ティアがぎゃんぎゃんと噛み付いているが、ルークは取り合う価値もないとそっぽを向いたままだ。
そんなルークを見て、イオンがしょんぼりと肩を落とす。
「怒らせてしまいました……」
「そりゃ、まぁ、ねぇ……」
初対面の人間に「傲慢な」なんて意味を持つ物を渡されたら、憤慨するか引き攣った笑みを浮かべ
て耐えるかのどちらかだと思うのだが。
どうもこの子ズレてるなぁ、と信彦は頭を掻いた。
「仲良くなりたかったんですが……」
「えぇー……?」
だから、仲良くなりたいのならば何故ストレを渡すのか。
「こちらの方が良かったのでしょうか……」
そう云って取り出したのは、「元気に」と云う意味が彫り込まれたフォルシルド。
「……」
曖昧な笑みを浮かべて。
信彦は全力で突っ込みを放棄した。
了
他のアビス小説では特に言及してませんでしたが、プレイ時私が思った事でした。
「へぇー、物くれるなんてイオンいい子じゃーん。(単純)どれどれ、どんな効果があんのかなー……
(ストレの意味を読む)……喧嘩売っとるんかいこんガキャァァァァァアアッッ!!」
いや、普通に、さぁ。初対面でそんな意味持ったものよこされたらキレるか傷つくと思うんだが……。
私は引き攣った笑みを浮かべるかな。(笑)
ちなみにルークが持ってるのは、「強く」と彫り込まれたフォルストレです。
あ、彫り込まれているのが古語って云うのは俺設定ですんで!
