016.りんご
小さな器とスプーンを受け取ったシュザンヌは、あら、と目を瞬かせた。
「パルス、これは……?」
「摩り下ろし林檎ですが……」
何かおかしいところでもあったかと、パルスはかすかに首を傾げる。病人には此れだと思ったのだ
が。
「まぁ…、りんごにはこう云った食べ方もあるのですね。初めて知りましたわ」
その言葉に、今度はパルスが目を瞬いた。それからふと、あぁこの方は国王の妹君であらせられた
なと気がつく。忘れていた訳ではないが、いつもの穏やかな様を見ていると、あのかしましい王女た
ちの血縁である事をなんとなく失念してしまう。
高貴な女性は摩り下ろし林檎など口に運ぶ機会もないだろう。生で食べる事さえ稀かも知れない。
「申し訳ありません、つい……。すぐに別の物を用意します」
「いいえ、構いません。せっかく貴方が用意して下さったのですから、頂きましょう」
にっこりと心の底からあたたまるような笑みを浮かべ、シュザンヌは上品な手つきで摩り下ろされ
た林檎を口に運んだ。軽く咀嚼し、音を立てずに嚥下する。
「食べやすくて良いですね。貴方が考えたのかしら?」
「あ、いえ。私も人から教わったもので……」
前に信彦が風邪で寝込んだ時、カルマから教わったものだ。こうした方が病人には食べやすくて良
いのだと。
それを作り食べさせてやると、信彦は嬉しそうに笑った。熱で顔を真っ赤にしながら、ありがとう
と拙い声で。
それからパルスの中では、「病人には摩り下ろし林檎」と云う鉄則が身に付いていたのだった。最
初はしくじったと思ったが、シュザンヌも喜んで食べている。やはり病人には摩り下ろし林檎だとパ
ルスは改めて思った。
小さな器はすぐ空になった。それを受け取るついでにおかわりの有無を聞けば、首を左右に振られ
る。お腹がいっぱいだと、シュザンヌは笑った。
「久しぶりに沢山食べた気がします」
また作って下さいねと微笑まれ、パルスは素直に頷いた。この程度のもの、いつでもいくらでも作っ
て差し上げれる、と。
ルークと信彦が誘拐された――この事件は病弱な奥方をベッドの住人にするには、充分すぎる出来
事だった。メイドに揺すり起こされ、パルスから事の顛末を聞いたシュザンヌはその場で倒れてしま
い、体調を崩している。二人の行方と無事を心配するあまり、食は細くなり、睡眠時間も減り、顔色
は日に日に悪くなっていく。
公爵の命令で屋敷全体の警備からシュザンヌの専属護衛になったパルスは、毎日ありもしない胃袋
が痛む思いだった。一日でも早く愚弟から吉報が届かないかと、ガラにもなく祈ってしまうほど、シュ
ザンヌは弱っている。
改めて誘拐犯に対し怒りを抱き、拳をギリリと握った。
了
なんだか有り得ない組み合わせですが、書いてみたら意外としっくり来ました。
捏造ファブレ家なのでシュザンヌ様も結構強い設定なのですが、流石に息子二人が突然消えて無事
かどうかもわからない、ではぶっ倒れもします。(苦笑)ティアの事ぜったい許さないな、このファ
ブレ家。
017.泥棒疑惑
買ったのはサンドウィッチの材料。食パン、レタス、トマト、きゅうり、ハム、卵。それを二人分
購入した。値段は驚くほど安く、さすがオールドランドの食糧事情を支えている『エンゲーブ』と信
彦は妙に感心した。
(ここからバチカルに行くまでに、運送費やら燃料費やら保存のための譜術使用料やらが含まれてあ
んなに高くなるのかー……。やっぱり実際に目で見て体験しないと、理解はしてても実感は出来ない
もんだよね)
ついでにと、デザートの林檎も買う。当然二人分だ。ティアの分まで買って上げられるほど、懐に
余裕もなければ理由も義理もない。「何があるかわからない世の中だから」と、靴底や服の裏に隠し
持っていたガルドは全てあわせて1500ガルド。何日もつか正直わからない、節約しなければなら
ないなと信彦はうむと一人頷く。
(ティアさん軍人なんだし、わざわざ俺が払う必要ないだろうしなー。むしろ、宿泊費食費込みで面
倒見てもらうのが筋ってもんだけど、そこまで考えてくれないだろうし)
いざとなったら無駄に良い生地で出来てる服や小物を売ろう、と決意する。
次は武器でも見ようかと周囲をキョロリと見回した時、
「漆黒の翼がつかまったってよ!」
聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
驚いて声のした方を見ると、頭に手拭いを巻いた男が興奮気味に周囲の人々に喋っている。周囲の
人間も興味津々に男を問い質していた。
「本当かそりゃぁ?!」
「本当だよ! 宿屋の側で仲間割れしてたのを捕まえたってさ!」
「やったな! これで問題解決だ!」
おお、と周囲の人間がどよめく。
それを見て信彦は小首を傾げ、側で果物を売っていた中年の男性に声をかけた。
「ねぇ、おじさん」
「ん? 見ねぇ顔だな」
「旅の途中で寄ったんです。今あの人たち問題解決って云ってたけど…何かあったんですか?」
「あぁ、実はなぁ、ここの所食糧倉庫が荒らされて中身が盗まれててなぁ。漆黒の翼のしわざじゃねぇ
のかって話だったんだよ」
また漆黒の翼か、と心の中で信彦はげんなりする。しかし、漆黒の翼はマルクト軍に追い立てられ
て、橋を落すと云う迷惑極まりない方法で逃げたはずだ。
(もしかして残党かな…? でも、自称とは云え義賊が街の共同財産を盗むのも妙な話だなぁ…)
内心首を傾げつつ、信彦は店の男性に礼を云って今だ興奮気味に話している人々へと近づいた。話
の内容をところどころ拾ってみる。
「男と女の二人連れ」
「酷い仲間割れ」
「ローズさんのところへ」
「軍服を来てカモフラージュ」
「男は赤い髪」
あっちゃぁと額を叩いて天を見上げる。素晴らしく青い空を見て、疲労がどっと押し寄せた。
(うん。俺も悪い。兄ちゃんたちを二人きりにさせた俺も悪い)
ふぅとため息を一つ。近くを通りかかった妙齢の女性を引きとめる。
「お姉さん、ローズさんのお家ってどこ?」
「ローズさんの? この道を真っ直ぐ行って左側にある大きなお家よ。庭でブウサギ飼ってるからす
ぐにわかるわ」
丁寧に教えてくれた女性に礼を云い、信彦はのこのこのんびり歩き出した。とりあえず迎えに行っ
た先で兄が、弟に迷惑をかけてしまったとへこんで無い事を祈りながら。
(慰めるのも結構大変なんだよね〜……)
肩を竦め。年齢に似合わない重いため息を信彦はつくのだった。
了
信彦が苦労してる……。ルークがまたへこみそうですね。お兄ちゃんしっかり!(笑)
金銭面に関して信彦って凄いシビアなんですよねー。だからこの子なら、靴裏に仕込むとかやって
そうだなーと。
ルークが関わらない宣言したので、お金・アイテムの共有はありません。信彦がしっかり管理しま
すので、ティアも自分でしっかり管理してください。(笑)
018.レシピ
今ルークはなんだかもう、泣き出したい感じだった。悔しいとか辛いとか悲しいとか嬉しいとかそ
う云うのではなく、なんかもう、泣く以外どうしようもないと云う心境だった。
自分の何がいけなかっただろうと考えてみる。そうだ、売り言葉に買い言葉で頭おかしいキ■■イ
軍人と言い争いをした自分の愚かさが悪い。同じ土俵で考えてはいけない相手だと云うのに。無視す
るなり軽くあしらうなりすれば、自分はこんな目にあわずに済んだのだ。
(ごめん信彦ー……。兄ちゃんまたバカやっちまったよー……)
瞼の裏に、がっかりした顔で自分を見る末っ子が思い浮かぶ。ついでに、こちらを指差して爆笑し
ている相棒の姿と、やれやれと肩を竦めてため息をつく姉兄たちの姿も。師匠なんて視線すらくれな
いで、「阿呆」の一言を残して飛び立ちそうだ。いや、絶対そうする。
はぁ、と一つため息。姉弟たちのお陰で成長出来たと思っていたが、まだまだ自分はお子様レベル
だなと思い知る。
「……ため息つきたいのはこっちだわ」
「……あぁ?」
不愉快な言葉が隣りから聞こえてきた。何か、今の言葉は。俺に向かって放たれた言葉か?
「……今の言葉は俺に向けてか? あ?」
「貴方以外に誰が居るって云うの? 本当に頭が悪いのね」
「この俺に向かってよくもまぁそんな口叩けたもんだな。何様だお前。あ、キ■■イ軍人様でしたね
ごめんごめん。真っ当なお貴族様の言語は理解出来ないよなぁキ■■イじゃ」
「……貴方ねぇ! 云って良い言葉と悪い言葉がある事くらい理解出来ないの?!」
「生憎と敬愛してやまない姉上様に、犯罪者に遠慮はいらんと教わってるんでね」
「誰が犯罪者よ。名誉毀損だわ。……貴方が貴方なら姉も姉ね。そろいも揃って傲慢だわ」
「てめぇ。俺への悪口なら広い心で許容してやらんでもないが、姉さんへの悪口は許さねぇぞ」
「やだ貴方………シスコン?」
「蔑む目で見てんじゃねぇよ。てかこっち見るな。てめぇの視線で俺の身が汚れる」
あぁしまった。また同じ土俵で言い争いをしてしまっている。気をつけようと思ったばかりだと云
うのに。
と云うか、なぜ周囲の人間も止めてくれないのか。自分たちは一応、「漆黒の翼」だと疑われてこ
こに連れ込まれたはずなのだが、尋問どころか遠巻きに眺めるだけってなんだ。見世物じゃねぇぞコ
ラァと怒鳴りたい。
特に。紅茶を啜りながら腹立つ笑顔でこちらを見てる胡散臭い軍人。今すぐ刺したい。何なんだ、
ダアトもマルクトも碌な軍人いないじゃないか。
(キムラスカもそうとう駄目だと思ってたけど、腐敗っぷりなら他国の方が酷ぇんじゃねぇの?)
ため息がとまらない。
あぁ要するに。俺の今の状況は最悪だって事だ。
助けて信彦。
了
*最悪な状況の作り方
材料:ルーク ティア エンゲーブ住人 ジェイド
・ルークとティアを二人きりにします
・二人が喧嘩をし始めます(この時、音井ブランズを混ぜてはいけません)
・エンゲーブの住人がそれを見つけます
・短絡的な考えで二人を「漆黒の翼」と決め付けます
・二人をローズ邸へ連れて行きます
・そこにはローズ夫人とジェイドがいます
・二人の云い争いを止められる人はいません
・これで最悪な状況の出来上がりです
調理上の注意)信彦及び音井ブランズを途中で混ぜると回避可能となり、最悪な状況は出来上がりま
せん。注意してください。
以上、最悪な状況の作り方レシピでした。←
立派なお兄ちゃんになりたいけど、どうしようもなくなると兄より遥かにしっかり者な弟に頼りた
くなってしまう要修行なお兄ちゃんでした。(笑)
019.聖獣チーグル
書類を捌く手に迷いは一瞬もなく、ファブレ姉弟が長兄オラトリオは淡々と職務をこなしていた。
今キムラスカ王国上層部は、繁栄の要(かなめ)『ルーク・フォン・ファブレ』を失って天手古舞
いだ。ダアトほどではないにしろ、政の重点に預言を据えているキムラスカは、とにかく預言から外
れる事態に弱い。上層部において現在でもてきぱきと動いているのは我らがファブレ公爵ぐらいだ。
それ故、オラトリオは普段手伝い程度しかしてないファブレ公爵の執務を代行している。公爵が城
に詰めっぱなしで、ファブレ家の仕事にまで手が回らないのだ。
(あの能無し国王と王女、今すぐにでも蹴落としてやろうか)
素早く書類に手を走らせながら物騒な事を思う。
どうせあの国王はビア樽を呼びながら、預言ではどうなっているのだとか青い顔で喚いているんだ
ろう。あのお姫様に至っては、お得意の眩暈でも起こして可憐にぶっ倒れているところか。シュザン
ヌと違って病弱でもないくせに、あのお姫様は何か都合が悪い事が起きるたびに倒れやがると、普段
はフェミニスト面しておきながら心の中で盛大に罵った。
オラトリオは本来、フェミニストでもなんでもない。色々と都合が良いからお調子者面して、女性
には表面上優しくしているだけだ。彼の本当の優しさが注がれる相手は、唯一無二の『相棒』と姉弟
に限定されている。
(姉さんは公爵に付き合って帰ってきてくれないし、パルスは奥様に付きっ切りだし、師匠とシグナ
ルは俺を置いて信彦とルークを探しに行っちまうし! 俺だって仕事放り出して信彦たち探しに行き
てぇよチクショオオオオオオオッ!)
思わず力が入りすぎて。バキリ、と音を立てて羽ペンが折れた。
運が良くインクは飛び散らなかったが、真ん中からばっきり折れてしまった羽ペンは再利用不可能
だった。ため息をついて、壊れた方をゴミ箱へ放り投げ、新しい物を引き出しから取り出した。
その時にふと、窓辺に置いてある「聖獣チーグル一分の一サイズぬいぐるみ」が目に入った。パス
テルカラーのそれは、メイドが信彦に買い与えたものだ。
あの時は「メイドさんGJ!」と心の中で親指を立てたものだ。何でって、信彦とぬいぐるみチー
グルのツーショットが犯罪的なまでに可愛かったからだ。あれは良い目の保養だった。
ぬいぐるみが何故オラトリオの執務室にあるのかと云えば、彼自身が持ち込んだからだ。姉弟たち
のいない寂しさを紛らわせるために。
はぁ、とため息一つ。
「……早く帰って来い弟ども〜。お兄さん寂しくって死んじまうぞ〜……?」
<電脳空間>『無敵の守護者』<A−O>オラトリオがそう情けなく呟く様を、「聖獣チーグル一分
の一サイズぬいぐるみ」だけが見ていた。
了
うちのオラトリオお兄さんは、オラクルと姉弟にしか優しくありません。その中で末っ子には特別
甘いと云う。師匠は優しく接する対象ではなく、自分が甘える対象だったりする。
020.導師
最悪な状況の中。突然、家の扉がばーんと軽快に開かれた。
「お邪魔しまーす。ルーク兄ちゃんいるー?」
そして飛び込んできた明るく軽い声。
「うおおおお天の助けー! よく来てくれたマイブラザーっつーかマイエンジェル!」
ティアを威嚇していたルークがコロっと表情を変えて、目に涙さえ浮かべながら信彦に向かって両
手を広げた。
あまりの変わりように、ローズ夫人と軍人たちも奇異な物を見る目でルークを見る。
「ちょっと見ないうちに言動がオラトリオそっくりになってるよルーク兄ちゃん。あ、そこの軍人さ
ん、お届け物があるんだけど」
片手に紙袋を抱え、もう片方の手で緑髪の少年の手を引いて、信彦は大人たちを押しのけてのこの
ことローズ邸へ入る。礼儀正しい子なので、ローズ頭を下げてもう一度「お邪魔します」と云ってい
たが、周りの大人は唖然としていて反応してはくれなかった。
「この子、迷子になってたよ」
はい、と掴んでいた手を軍人へ渡す。つい受け取ってしまった軍人は目をパチクリさせて、渡され
た少年を見つめた。
「イオン様……」
「す、すみませんジェイド……。勝手に出歩いてしまって」
二人は微妙な表情で会話を始めたが、信彦は自分には関係ないとばかりにルークの方へ歩み寄る。
腰に手をあてて、もう! と頬を膨らませた。
「ルーク兄ちゃん何やってるの! 市場で聞いて俺びっくりしたんだからね!」
「ごめん信彦、兄ちゃんが悪かった」
ぱん、と両手を合わせて素直に頭を下げる。
ファブレ姉弟の力関係は年齢ではなく、どちらがより正しいかで決定する。この場合、信彦に迷惑
をかけたルークが全面的に悪い、イコール、弱いのだ。世間一般では親や姉、兄が強権を振るうらし
いが、ファブレ六姉弟の中では適応されない。
「何でこんな事になったのさ」
「俺がそこの軍人もどきと云い争いしてたらさぁ、いきなり周りの奴らが「こいつら漆黒の翼に違い
ねぇ!」とか意味不明な事を喚いて連れ込まれちまったよ。全部兄ちゃんが未熟者だったせいだ……」
「そうだね。シグナルやパルスなら逃げ切れるし、オラトリオなら穏便に済ませるし、ラヴェンダー
ならティアさん含め周りの人たち殲滅させて終わってるしね」
「耳が痛い!」
両耳を押さえて蹲るルークの肩をぽんと叩く。周囲の人間は物騒な言葉――殲滅――に恐れ戦いて
いたが、信彦はそ知らぬ顔だ。
「誤解は解けてるんでしょ? 早く宿屋行こうよ」
「いや、それがさ。違うって云ってるのに聞く耳持ってくれなくてさ。八百長裁判? なんか俺らが
泥棒って決め付けてくんだよ。これって訴えたら俺勝てるよな?」
「司法の事なんてまだ習ってないよ。けど、未成年者略取は適応されるんじゃない?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
物騒な事を云い始めた闖入者に、ルークとティアを連れてきた男たちが顔色を変える。それを見て
信彦はまた物騒な言葉を口にした。
「何を待つの? 人に兄を勝手に連れ去って知らない家に連れ込んで、果ては泥棒の濡れ衣着せよう
としてるんでしょ? このまま行くと監禁罪・名誉毀損も適応されるよ」
「いや、その…」
子供相手にしどろもどろになる大人たち。シュールな光景だ。何しろこの子供、見た目は可愛いく
せに善良な国民はおいそれと犯さない罪状をつらつらと口にするのだ。子供はすっこんでろ、などと
怒鳴るつもりだった人々も出鼻を挫かれ、黙り込むしかない。
そもそもこの子供、肝が据わりすぎだ。
農作業を常日頃しているため、自然と体が鍛えられている屈強な農夫に囲まれ、かつ、マルクトの
大佐がいる場で何故こうも堂堂としていられるのか。
「でも、やってないって証拠も無いじゃねぇか……」
往生際の悪い男が及び腰で口にするが、ギッと真正面から見据えられ、言葉は尻すぼみに終わった。
「その云い方じゃやったって証拠もないんでしょ? 云っておくけど、状況証拠は証拠にならないん
だからね。泥棒とか殺人の場合、自白だって決定打にならないんだよ。物的証拠がいるんだから。で、
ルーク兄ちゃんたちが犯人って物的証拠はあるの? どうなのさ!」
詰め寄られ、男たちは後ずさりをする。
そんなもの、ある訳がない。
何故ならただ喧嘩していたから、と云う理由だけで決め付けてしまったのだから。食べ物が盗まれ
て気が立っていたため、とにかく誰でもいいから犯人に祭り上げてしまいたかったのだ。だから子供
の言葉に反論できない。ただ俯いて黙り込んでしまう。
集団ヒステリーって厄介だなぁ、と心の中で思いながら、再度信彦が口を開いた時、
「あの……」
緑髪の少年が、おずおずと口を開いた。イオンと呼ばれていた少年だ。
小さな声であったが不思議とそれは全員の耳に届き、皆の視線がイオンに集中した。小心者そうな
雰囲気に反し、少年は集まる視線に怯える事は無かった。
「その方々が犯人でない、と云う証拠なら此処にあります」
そう云ってイオンは大事に握り締めていた物をローズに手渡した。ローズはまじまじと己の手の中
の物を見、おやまぁと呑気な声で言う。
「これはチーグルの毛じゃないですか」
「気になったので倉庫を調べてみたら、それが落ちていました」
それを聞いて、兄弟は揃って男達を睨み付けた。
つまり何か、子供がちょっとでも探せば見つかるような証拠品を見落としておきながら、善良(?)
な旅人を犯人に仕立て上げようとこんな無体をしたと。
「慰謝料いくら取れるかな信彦」
「任せてルーク兄ちゃん。家に戻れるまで余裕な額もぎ取ってあげるから」
恐れ戦く男たちに、無情な言葉。
ローズはあちゃぁと額を押さえ、ジェイドは面倒臭げに肩を竦め、ティアは呆れたようにため息を
つき。
兄弟に救いの手を、男たちに地獄への片道切符を持ってきた導師イオンは、展開について行けずぽ
かんと成り行きを見守ってしまったのだった。
了
ゲーム中で思った事。「はぁ? 勝手に人を犯人に仕立て上げようとして無理矢理連れ去った上、
ルークの尻を蹴飛ばすなんて云う乱暴を働いたくせに「勘違いでしたすいません」で済むとでも思っ
てんのかコラ。不敬罪だ名誉毀損だ拉致監禁だ傷害事件だ慰謝料くらいよこさんかい!」物騒なのは
私ですすいません。司法に関わってる人に怒られそうなグダグダっぷりですね。
旅費が心許なかった信彦にとっては棚ぼたでしたが。情け容赦なくもぎ取りますよ。(笑)
