[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。




 ――……なんでこんな事になってるわけ?
(俺がチーグル見たかったから)
 ――あぁそうだよな! またお前の我が儘だよな! それでこうなってんだよな!
(いいじゃん。ティアも喜んでるしさぁ)
「かわいい~……」
(ダアトにも恩売れたし)
「此処がチーグルの棲家なのですね……」
(一石三鳥。うーん、さすが俺)
 ――お前の自画自賛なんてどうでもいいよ! あー、うぜぇうぜぇ! みゅうみゅううぜぇよこい
つらー! 踏み潰したくなる!
(ストレス溜まってんなぁルーク)
 ――誰のせいだと思ってんだ?!



 - 動物愛護と人間虐待。



 チーグルの森へやってきた『ルーク』とティアは、森の入り口で魔物に襲われかけている少年を発
見した。晴佳が速やかに魔物を排除したお陰で無事だった少年だが、彼がローレライ教団最高指導者
導師イオンだとわかり、ティアが顔を真っ青にしたのだった。
「イオン様! 護衛もつけずこのような場所に……、危険です!」
「彼女の云う通りですよ、導師。何をお考えなのですか」
 昨日は相手が佐官程度だったため礼儀になど頓着しなかったが、相手は世界の象徴導師イオンだ。
流石の晴佳も畏まった態度をとる。
 ――晴佳もやれば出来るのに……。
(お前には出来ねぇよな)
 ――放っとけ!
 観光に来たのだと云う晴佳たちにイオンは目を瞬かせて驚いていたものの――わざわざ魔物のいる
森へ観光に来る奴らなどそう居ないだろう――、自分は食料泥棒の件で森に来たのだと話した。
「それでチーグルの森へ? お一人で?」
「はい……。チーグルはローレライ教団の聖獣。彼らの不始末は僕が責任を取るべきだと……」
 間髪いれず。有無を言わさず。
「阿呆!」
 すぱーんっ。晴佳の平手がイオンの側頭部を襲った。
 ――わー! 子供に何してんだ!
「イイイイイイオン様になんて事するんですかルーク様!」
「えぇい、黙ってろ! このガキ、云わなきゃ気が済まん! ……ちょっとそこ座れ」
「は、はい……?」
 突然の暴挙に唖然としていたイオンは素直に、地べたに正座をした。
 それから三十分ほど。
 イオンと膝を突き合わせた晴佳は懇々と彼に「上に立つ者の心得」やら「導師としての立場」やら
「頭が単独行動をする事によってかかる周囲への迷惑」やらについて説教をしたのだった。


 *** ***


 結局。
 延々と説教してやったのにイオンは引かず、『ルーク』、ティアと一緒にチーグルの棲家まで向か
う事になってしまった。
「いいのかしら……?」
「何かあったらあの赤目軍人に全責任おっかぶせる」
「え?!」
「そ、それは……」
「はははははは。……冗談だ」
 ――本気のくせに。
(わかってんじゃねぇか相棒)
 幸い、チーグルの森の魔物は弱い連中が多く。『四人』は労せずチーグルの住処へと辿り着いたの
だった。
 そこで晴佳は、ある意味運命の出会いを果たした。
「この者が、お前達をライガの元まで案内する」
「僕はミュウですの! 宜しくお願いしますの!」
「……」
 晴佳の後ろで、イオンがこちらこそと挨拶を返し、ティアが手を組み合わせ可愛い……と震えてい
る。しかし当の本人はプルプルと震えながら、ミュウを見下ろしていた。
「みゅ?」「どうしたのルーク?」「ミュウが何か……?」
「か――」
 ――……あーぁ。
 ルークがため息を着くと同時に。
「可愛いぃぃぃぃぃー!」
 小さな小さなミュウの体を、晴佳は潰さんばかりに抱きしめた。
「みゅ゛?!」
「ルーク?! ルーク落ち着いて!」
「ミュウが潰れてしまいます!」
「可愛いー! なんだ此れ! なんだ此れ! ですのって! しますのって! うわぁん、モナティ
と口癖一緒だよー! かーわーいーいーぃぃぃい!」
 ――なっ……?! モナティって誰だよ! おい!
「可愛いー!」
 ――なぁ! おい! モナティって誰だ! おい?!


 *** ***


 ライガクイーンの説得は、こちらが拍子抜けするくらいあっさりと終わった。
「いやはや……。まさか土下座が有効とは思わんかった」
 棲家に入ってすぐ、晴佳はライガクイーンに土下座した。
 突然家に入ってきた人間の突拍子も無い行動に流石のライガクイーンも驚いたらしい。突然襲いか
かって来るような事はなかった。
 卵を抱えたライガが人間の集落近くに居を構えていては、そのうち大勢の人間が来て殺されてしま
う。こちらの勝手な言い分だとはわかっているが、棲家を変えてもらう事は出来ないかとライガクイー
ンに訊ねた。クイーンはしばし迷ったものの、仔の命を守るためだとその言葉を受け入れた。ただし
それには条件がついたのだった。
 此処から数十キロ先にある別の森への移住を手伝う。
 卵を運ぶのに自分たちの身体では無理だ。卵を傷つけずに運べない。だから器用な人間である晴佳
たちに運べと云うのだった。
 ――そのくらいならいんじゃね?
(だな。周りの魔物はクイーンに牽制してもらって、俺が運べばいい)
 二つの返事で了承した晴佳に対し、ティアは難色を示したしイオンは不安げな顔をしていたが、口
八丁で丸め込んだ。運ぶのは自分がやるから、お前らは干渉しなくていい。関わりたくないなら此処
から別行動しようとも云っておいた。
「そ、そんなの駄目よ! ……私も手伝うわ」
「そうです! 僕は非力ですが……少しくらいなら力に……!」
「ミュウもお手伝いするですの!」
「ありがと。……ミュウは無理しなくていいぞ。うん」
 さて、運ぼうかとしゃがみ込もうとして、晴佳は人の足音に気が付いた。……気配を隠しているし、
極力音を立てないようにしているが。諜報に属していない人間が、気配や音を完全に消す事はまず無
理だ。
(……けっ。本気で気付かれたくねぇんなら、香水付けんなや……)
 ――え? 何か匂いするか?
(するよ。あの軍人の使ってた香水の匂いが……つーか)
 地面を蹴り飛ばし、ライガクイーンの前に出る。
「喧嘩売ってんのかゴルァア!」
 軍人は、こちらに向かって譜術を唱えていた。ライガクイーンを始末する気なのだと厭でもわかっ
た晴佳は、対抗すべく詠唱を始めた。
 相手が唱え出したのは火の譜術。ならばこちらは水を使えばいい。
「終わりの安らぎを与えよ――」
「荒れ狂う流れよ!」
「――っ! ……『フレイムバースト』!」
 ライガクイーンを庇うようにこちらも詠唱していると云うのに、それでも発動させる辺り見上げた
根性だ。巻き込まれても『ルーク』の自業自得だと思っているのだろうか。
「ふざけたマネしやがって! 『スプラッシュ』!」
 晴佳たちごと焼き尽くそうとした炎の塊を、水で相殺する。相手の方が強ければ水が蒸発させられ、
FOF技である『レイジングミスト』と同等の作用をこちらに及ぼす可能性があったが、生憎と相手
に利用されるような半端な譜力など持っていないのだ。炎は打ち消された。
 晴佳としては、相殺どころか相手を巻き込んでやろうとそれなりに力を入れたつもりだったのだが。
 ――あっちも強いんだ。
(ちっ。佐官で上級譜術師かよ。嫌味な奴)
 ――そう云えばさ、マルクト人って譜力強いんじゃなかったっけ。
(あ! そうだった! キムラスカ軍人が譜術より武術だからすっかり忘れてた! かーっ、半端な
手心加えるんじゃなかったぜ! 全力でやっとけば……!)
 ――まぁいいじゃん。相殺は出来たんだし。
(俺のプライドに傷がついたよ! くっそ、あの軍人許せヌェー!)
 ――えぇー……?
(こっちの状況を確かめないで、いきなり譜術ぶっぱなしやがったのもムカつく!)
 ――つけたし臭くね? って、おい晴佳……!
 二人が会話をしている内に、突然譜術を放ってきた軍人――ジェイドがひょっこりと顔を出してい
た。チラリと『ルーク』の方に視線をやりながらも何も云わず、イオンにちくちくと小言を述べてい
る。その事がまた晴佳の癇に障り――。

「ふっざけた態度かましてんじゃねぇぞ香水軍人がぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 跳躍して揃えた両足で相手を蹴り飛ばす―― ドロップキックを、ジェイドの薄い胸板に食らわせ
てやったのだった。
 顔を避けた理由は、綺麗な顔を潰すのはちょっと勿体無いなと思っただけであった。
 ティアとイオンの悲鳴があがり、ミュウとライガクイーンも驚きのあまり硬直している。
 ――そのアダ名って微妙ー。
 其の突っ込み自体が微妙にずれているが、晴佳は気にしない。ぶっ飛んだマルクトの大佐に向かっ
て指を突きつけ、鬼も裸足で逃げ出す迫力を持ってしてジェイドを怒鳴りつけた。
「ふざけたマネしやがって……! 覚悟は出来てんだろうなぁ?!」
「げほっ……かはっ……! いきなり……な、にを……!」
「こっちの台詞だヴォケ! 状況を確かめもしねぇで譜術ぶっぱなしといて、謝罪もなしどころか存
在すらスルーってなぁどう云うつもりだコラァ! 箱入り息子舐めんなや! 生爪全部剥がして尿道
に詰め込んだろか?! あぁん?!」
 ――また尿道ネタか! やめろよ! 想像しただけで痛いだろ!
 それ以前に生爪を剥がす、と云う表現が痛いのだが。
 晴佳と長く居すぎたせいで、感覚が微妙にずれてしまったルークなのだった。



 了


 修正 2010/06/14

 生爪剥がして~は、我が心のバイブル「Vassalord.」から引用致しました。^^