しんべヱから説教を受けた後、とぼとぼ廊下を歩きながら、一人考え結論を出した。


 恐らく、俺は哀しかったのだと思う。


 優しい人が傷付いて泣いた事も悲しかったが、それ以上に。
 人間味の出て来たあいつが、手酷く他人を傷つけた事が哀しかったのだ。


 あいつは、いつだって一人を望んでいた。
 入学前から世話になっていたと云う、土井先生と山田先生以外は寄せ付けなかった。
 久々知が現れて、少しだけ柔らかくなって。
 喜三太と付き合い出してから、ようやく、人間になれたように見えた。

 他人の気持ちなど知った事かとばかりに、切り捨て続けてきたのに。
 喜三太相手に見せる優しさは、確かに本物だった。
 だから、少し贅沢になっていたのかも知れない。


 その優しさを、もっと多くの人に注いではくれないかと。
 そうしたら、もっともっと、多くの人に愛されるのにと。

 沢山の人に愛されて欲しいから、そう、願ったのだ。


 大治郎は本当は良い子なのに、優しい子なのに、皆それを知らないから。
 知って欲しいと云う、俺の我が侭だったのだろう。

 ――忍びの学園の生徒だと云うのに、愚かしい。

 そう、切って棄てて欲しくない、気持ちだった。
 だって愛しているのだ、どうしようもなく。
 親が子へ注ぐ愛情と、同じくらい。

 あの不器用で無表情で、どうしようもなく可愛い同級生を。

 未だ持たぬ我が子と同じように、愛しく思っていたから。

(小さな親切、大きなお世話、かぁ……)

 かつて、鶴ノ丞に云われた事があった。
「お主らのお節介は、大治郎君にすれば、余計な世話だろう」、と。

 分かって、いたと思う。
 どれだけ愛しく思っても、結局俺達とあの子は他人でしかなく。
 こちらがどれだけ親愛を注いでも、向こうが受け入れてくれなければ意味などない。

 けれど、そんな正論を受け入れられるほど、自分は出来た人間ではなく。
 理性で終わらせられるほど、完成されてもいなかった。


 傍から見ている他人は、きっと嗤うのだ。
 さも簡単な風に云うのだ。
 人の気持ちを、嘲るのだ。


 俺や伊作の気持ちを、愚かだと、云い棄てるのだ。


 そう云っていいのは、愛情を注がれている、大治郎当人だけだと思う。
 あいつだけが、俺達の気持ちを拒否していいのだ。
 否定して、いいんだ。


 でも、本当は、拒絶なんてして欲しくなくて。
 受け入れて、欲しくて。


 余計な御世話かも知れなくても、不要な愛情だとしても。
 大治郎を、大切に思っている事は、本当なのに。


(見返りを求めた時点で、駄目、なんだろう、か……)


 思えば、土井先生は、大治郎へあれしろこうしろと命じていた事は、ないように思う。
 ひたすら親身に、心配をしていたような、気がした。


 自分たちのように、これだけ心配しているのだから、少しくらい聞いて欲しいとか。
 これだけ構っているのだから、相手をして欲しいとか。
 これだけ愛しているのだから、愛し返して欲しいとか。
 そう云う気持ちを、抱いていないの、だろう。

 きっと、あの人は。


 目尻に浮かんだ水分を、指先で払った。
 水気を帯びた指先を、袴で拭う。

(まだ、時間は、あるだろう……?)

 諦めるには、早い。
 きっと、まだ、間に合うって、思うから。

 土井先生のように、山田先生のように、久々知のように、喜三太のように。

 ちゃんと、見て貰える事が、出来るかも知れない。


 だから、懲りずに明日も、声をかけるから。
 返事だけは、してくれよ。

 大治郎。



 − 私を嫌う人を私は愛します



 見返りを求めない無償の愛なんて、抱けなくとも。

(愛される方法は五万はあると、思いたかった)



 了


「ただ生まれてきてくれただけで満足。他には何も求めない」なんて愛情、早々他人にいだけねぇよ
なぁ。と云うお話。←
 特に食満と伊作は私の中じゃぁ、愛情が深い分、相手からの愛情も求めると云うイメージが強い
ものでして。(だから相互依存の馬鹿夫婦的食満伊が成り立つ訳ですが)
 私も個人的には、愛した分だけ愛されたい人間ですので、食満の気持ちが泣けるほど分かります。(雲麻さんキモーイ)

 つーか、間を置きすぎて最初何書こうと思ってたか忘れたよ……!(おい)題名すら変更されまし
なんて事!
 とりあえず、食満の中で天女さんの事とかどうでもよくなりすぎだと思う。どんだけ大治郎に感情の
ベクトル向けてるのか。
 食満伊有効設定なら此処までじゃないはず……!←


 最後に妙な事になりましたが、これにて、大治郎編完全完結をさせていただきます! お粗末様で
した!(敬礼)


 執筆 〜10/01/12