先輩が大好きです。大治郎先輩がとってもとっても大好きです。
 貴方は”僕”を笑わなかった。哀れみもしなかった。ただただその目に映してくれた。
 ビードロのように澄んだ目で、ただひたすら、何の感情も無く見てくれた。
 それがどれだけ嬉しい事か、きっと俺にしか分かりはしない。


 嗚呼、先輩が大好きです!
 無関心で無感動で無表情で無敵な貴方を、誰よりも深く敬愛しています!
 貴方をこの世で一番信仰しているのは俺だと云う自信があるのです!

 そう、信仰です。
 この想いは色恋などと云う無粋な物ではないのです。
 先輩を抱きたいなどと思った事も、抱かれたいと思った事もないのです。
 ただひたすらに、あの人を信じ、従い、敬い続ける崇高な想いです。
 たまに友人らが、「いっそ恋愛感情であった方がなんぼかマシだ!」「気色悪い!」とか云うのですが、
そんな事を云われても困る。
 この高潔な感情に、色恋などと云う穢れた物を付け加えられるなど、酷い侮辱だ。


 だから先輩が恋をされた時にも、俺は全力で応援しました。
 相手は年下で、可愛い後輩の同級生で、学園に入りたての一年生でしたが、そんな物関係ありませ
ん。
 何故なら神が恋されたのならば、信者はそれを見守るのみ。
 邪魔する事など有り得ない!
 ただただあの人の幸せを祈り、恋する相手と結ばれる事を願うのみなのです。


 そんな先輩の幸せばかり祈る俺でしたが、ある日恋をしました。
 恋した人は、空から舞い降りた天女様です。
 身分違いの恋だと云う事は重々承知の上でした。

 美しくも愛らしい、清らかな天女様。
 名前は花都夢さんと仰います。
 なんて素晴らしい名前! 天が彼女の為に作り与えた名に違いありません!
 彼女の姿を見る度に想いは募り、彼女の声を聞く度に恋焦がれ、彼女の笑顔を見ればこの胸は張り
裂けんばかりに高鳴りました。
 ですが、彼女は天女、俺は人間、その上忍びの卵です。
 許されざる恋です。叶うはずなどありません。万が一にも有り得ません。

 ですから俺は、期待などせず、過剰な想いを此れ以上抱かないようにしました。
 けれど、衝撃的な事ではあったのです。


 天女様が、俺の神様に恋するだなんて!


 タカ丸さんからその話を聞いた時の衝撃と絶望と云ったらありませんでした。

 有り得る話ではあります。
 大治郎先輩はそれは素晴らしい人です。
 三白眼ですが顔立ちは整っていますし、特定の人間には優しいですし、俺に押し付けつつも仕事はこ
なしますし、気に入らない事があるとすぐ爆破する強い人ですから。
 何より、俺の神様なのですから、好かれて当然です。愛されるのも当たり前。


 嗚呼嗚呼けれども、よりによって俺が恋した天女様にまで愛されるなんて!


 流石俺の神様素晴らしいと思うと同時に、どうしようもなく絶望しました。
 だって笑顔の愛らしいあの天女様の想いが届く事など、決してないのだと俺は知っているのです。
 大治郎先輩が愛する人は只一人、己の伴侶のみ。
 天女様がどれだけ焦がれようが、通じる訳がありません。
 人間の言葉で云うならば、振られる事が確定しているのです。
 失恋したならば、さしもの天女様と云えど泣いてしまうでしょう。
 だって失恋は悲しい事なのです。
 女人が耐えられるとは思えません。
 あの美しく愛らしい顔を歪め、ほろほろと涙を零し、泣いてしまうのでしょう。
 そう考えると、俺の心臓がちくちくと痛むのです。

 嗚呼、それよりも、何よりも恐ろしいのは。


 天女様を泣かせた神様を、俺が憎みやしないかと云う事です!


 想像しているだけの今でさえ、胸が痛むのです。
 実物を目の前にして、もしも俺の心に憎しみが宿ってしまったら?
 そんな事、許せる訳がありません。
 俺が俺の神様を憎むなど、あってはいけない事です。
 そんな事になったら俺は俺が許せず俺の手で俺を殺してしまうでしょう。


 嗚呼何故俺は天女様に恋などしてしまったのでしょうか!
 いくら美しい人だからって、愛らしい人だからって、清らかな人だからって!

 彼女へ恋情など抱かなければ、このような懸念有り得なかったのに!

 そう考えると、可愛さ余って憎さ百倍です。
 俺が俺の神様を憎むなど、あってはいけないのですから。
 その原因となった愛らしい天女様を憎むほか、道はありません。

 嗚呼彼女さえいなければ!
 俺は大治郎先輩へ憎しみを抱く懸念など、しなくともよかったのに!
 この心に染み付いた黒い汚点をどうしてくれると云うのか!


 俺の信仰は完璧でなければいけないのに!
 ただ一つの背信も許さない、崇高なものでなくてはならないのに!

 嗚呼神様俺の神様赦して下さい!
 俺はまだまだ修行が足りないのです。
 これからもっともっと励みます、他者の存在に惑う事などないように、誠心誠意尽くします!
 だからだから、どうか俺を見捨てないで下さい俺の神様ッッ!



 大治郎先輩が夢さんを振ったと聞いた時、俺の心はとても凪いでいました。
 良かった。
 きちんと、覚悟しておいた甲斐がありました。
 ほら、俺は大丈夫。
 今目の前で大治郎先輩が夢さんの頬を叩きましたが、ちっとも心が乱れません。
 周りの皆は怒っていたり戸惑っていたりしますが、俺は平常心。

 嗚呼良かった、良かった。
 俺の信仰心に揺らぎなどない。
 この崇高な想いには一点の穢れも無い。

 良かった。


 俺の神様は清らかなまま、俺の眼前に居る。



 − 自分勝手幸福論(久々知兵助)



 敬愛しています、盲信しています、服従しています、俺の神様。
 俺だけの神様。

(なんて幸福あぁ幸せだ貴方がいるそれだけで俺の心は満たされるなんて清らかな信仰心!)



 了


 久々知キッモ!(第一声がそれかぁぁぁぁあ!)
 いやー、私の中の久々知って、傍から見たら至極優秀まともで真面目、なのに内面から見ると超キ
モイと云うキャラなもので。(酷過ぎる)
 傍観夢もどきだとタカ丸と付き合ってないので、依存度がパネェ感じですわ。本当にキモいなこい
つ……。いっそ恋愛感情であった方がなんぼかマトモですわな。←
 しかし私の書く話って、なんでこう、「期待はずれ」になるんだろうかすいません……orz