「お帰りなさい先輩! 任務、お疲れ様です」
「うむ」
「それで先輩、聞いて下さい、凄いんですよ! 天女様が学園に来たんです!」

 ……んん?
 俺は腕を組んで、首を傾げた。

 忍務を終えて、久々に学園に戻って来てみれば。
 大事な後輩が、奇怪な言葉を興奮気味に告げて来た。


 兵助とは長い付き合いになる。
 一緒に居た時間だけを考えれば、同級生の連中より長いかも知れない。
 それくらいの付き合いだ。

 だから、大抵、こいつの云いたい事は理解出来た。する努力をしてきた。
 お陰で俺の豆腐知識は凄い事になっている。(風流に取り入る習いに使えるだろうか?)
 それはいい。
 喜三太が現れるまで、兵助は気を許せる唯一の他人だったのだから。


 だが、俺は今、兵助の言葉を理解出来ない。


 天女?
 天女とは、あれか。
 天に住むと云われる美しい女。または女神と呼ばれる架空の種族の事か?

 それが学園に居る、とな。

「……」
「ちょ、熱なんてないですよ!」

 兵助の額に俺の額をそっ……と当てれば、赤面と共にそう云われた。
 まぁそもそも、俺は温度覚が鈍いから、額を当てた程度では高熱の有無など分からないのだが。

「夢さんって云って、とっても綺麗な人なんです! 見た事も無い服を着て、羽衣も持っていたんで
すよ! それに、天から降ってきたって云うんですから、間違いありません!」
「……」

 頬を赤く染めたまま、兵助が熱弁する。
 ふと兵助の後方を見れば、さぶとタカまで大きく頷いていた。
 ただ一人、伊助だけは困ったような、迷うような顔をしていたが。

 とりあえず俺は、兵助の大きく睫毛の長い目を見て、

「ふーん」

 とだけ、返しておいた。



 − 何事にも無関心で。



 信じてないでしょー! と怒る後輩の頭を撫でながら、心の中で付け加える。
 いや別に、興味がないだけ。

(何故なら、どんな美しい女も、俺の喜三太に勝てる訳がないのだから)



 了


 色んな物に対し、無関心な大治郎。
 未知な存在に対しての無関心は、学園への信頼の裏返し。
 もし危険な存在なら、上級生と教師(特に、土井と山田)が揃って放置してる訳ないだろう、と云う。



配布元:Abandon