去って行く力強い背中を見送って、留三郎はため息をついた。
(一緒に行こう、って選択肢はねぇのかよ……)
 非難めいた事を思う。
 心配はしていた。突然意味のわからない事に巻き込まれ日常を失い、「世界」には悪魔と呼ばれる存
在が跋扈する始末。
 シブヤに着くまでに留三郎とて何度襲われたか知れない。一人でなど、とてもではないが歩けたもの
ではなかった。仲魔達が居なければどうなっていたか。想像して身震いをする。
 留三郎はまだ良い。何故かは分からないが、交渉次第で悪魔を味方にする事も出来るし、自分自身
にも悪魔の力があるのだから。
 だが千晶は? 彼女はただの人間だ。気が強いとは云え、か弱い少女なのだ。砂漠と廃墟ばかりの
世界をどうやって生き抜くつもりなのか。
 戦う力を持っているようには見えない。悪魔に襲われでもしたら一溜まりもないだろうに。
 そう思うのに、何故か留三郎は千晶の後を追う事が出来なかった。
「……なぁに、あの子。人間よねぇ?」
 黙って留三郎達の遣り取りを見ていたピクシーが、愛らしい顔を少しばかり不快の色に染めて云う。
「ビックリ。人間なんて初めて見ちゃったぁ」
「ボクもボクも! あ、しまったぁ。マガツヒちょっと貰えばよかった〜」
 ピクシーの言葉を皮切りに、他の仲魔達が好き勝手な事を云う。
「ねぇ、トメ。今の子知り合いなの?」
「……あぁ。友達、だな」
「トモダチ?」「なぁに、トモダチって?」
 きょとんとした顔をされ、留三郎は苦笑した。悪魔には友達と云う概念がないようだ。
「そうだな……。一緒に居たいとか、遊びたいとか、笑いたいとか思える相手、かな……」
「じゃぁ私たちとトメの事ね!」
「ボクらとトメはトモダチだぁ!」
 楽しげに笑いながら、ピクシーは頭に、コダマは肩に乗ってきた。それを笑いながら受け入れている
と、カハクが口元に指を当て、思い当たったように云う。
「じゃぁ、今の子って、もうトモダチじゃないのね」
「え」
「だって、一人で行っちゃったじゃない。一緒に居るのがトモダチなんでしょ?」
「いや、まぁ、一概にそうとは云えないんだが……」
 云い淀む留三郎に、カハクは不思議そうな顔を向ける。言い訳のような言葉をいくつか頭の中で思
い浮かべていたが、結局それらは口に出さず、留三郎は曖昧に笑って見せた。
「まぁ、人間には色々あるんだよ」
「色々?」
「そう。一言では云えないんだ。難しいんだよ」
「ふぅん? まぁいいけど……」
 蝶のような羽をひらりと動かし、空いている方の肩にカハクが舞い降りる。今ストックから出している
仲魔は皆小さいから、留三郎をよく椅子代わりにしていた。別に不快ではない。むしろ、好かれている
ような気がして嬉しかった。
(トモダチじゃない、か……)
 仲魔達にバレないように、小さくため息をつく。
 橘千晶とは、友達だ。幼い頃からよく一緒にいた、幼馴染だ。
 お嬢様の彼女はよく留三郎を顎で使ったが、不愉快に思った事は無い。それをからかって来た奴ら
には丁寧にお返しをしてやったが、千晶自身に不満や嫌悪を感じた事は無かった。
 今思えば、淡い恋心を抱いていたのかも知れない。
 エリート意識が強く、思い遣りに欠ける言葉を不用意に云ってしまう事もあった。けれど自分にも他人
にも厳しい性格や、曲がった事が大嫌いと云う青臭い正義感は好感に値したのだから。
 だと云うのに、何故千晶の後を追わなかったのだろう。危ないから一緒に行こうと、一言声を掛けれ
ば良かっただけだと云うのに。こんな世界、一人で歩き回るより自分たちと一緒にいる方がよほど安
全だろう。
(あ。そうか)
 唐突に、思い当たる。
(拒絶、してたから)
 云いたい事を云われ背中を向けられた瞬間に、留三郎は感じ取ったのだ。
 橘千晶は食満留三郎を拒絶していると。
 冷静に考えれば当たり前かも知れない。千晶はあの病院から命からがら逃げ去り、此処まで来る
のにも相当の苦労をしたはずだ。人間でしかない彼女は、悪魔達からひたすら逃げ回っただろう。戦
う力も無ければ、武器も無いのだから。
 其れに対して自分はどうだ。悪魔の力を手に入れたばかりか、悪魔そのものさえ従えている。
 彼女に目に、留三郎はどう映っただろうか。
(化け物、って、罵られる覚悟も、してたけど……)
 留三郎の変化を、千晶はただ静かに受け入れていた。この異形の姿を前に、臆する事無く「留三郎
君」と名前さえ呼んだ。
 千晶は最初に、目が合った時点で悟っていたのだ。
 ――最早、留三郎と自分は、相容れない存在になってしまったのだと。
(だから、一人で行っちまったのか……)
 気付いて、悲しくなった。
 千晶と自分の間にあった物は、そんなに脆く儚い物だったのだろうか。共に過ごした月日は、こんな
物で無かった事にされてしまう程度の思い出だったのか。
「どうしたの、トメ?」
「また考え事かぁい?」
 黙り込んで動かなくなってしまった留三郎の顔を、仲魔達が左右上から覗き込んでくる。それに小さ
く、笑みを返した。
「いや、何でもないさ。それより、歩き通して疲れたな……。ターミナルで少し休むか」
「わ、さんせーい」
「そうしよそうしよ〜」
 騒ぎ出す仲魔達の無邪気な姿に笑って、留三郎は歩き出した。
 歩く自分の隣りにトモダチが居ない事を、少しだけ、寂しいと思いながら。



 − 昨日のトモは今日の。



 了


 勇も千晶も何で一緒に行動してくんねーの?! とか思ったのですが、よくよく考えれば当たり前か
も知らん……。



 車椅子の老人から渡されたメノラーをぷらぷらと振れば、仲魔から引き攣った声が上がった。
「何やってるのトメ?!」
「そそそ粗末に扱っちゃダメぇ!」
「え、何で?」
 仲魔達が慌てる理由が分からず、留三郎はきょとんとする。確かにあの老人にとっては大事な物な
のだろうが、別に壊そうと思って振った訳でなし、そこまで慌てられる覚えは無かった。
「何でって!」
「それ、あのお方から頂いた物じゃない!」
「あのお方? あのジジィの事か?」
 あのジジィの部分に、仲魔達の顔が某叫び絵画のようになるが、留三郎には訳が分からない。
 こんな変な所に住んでいる時点で特殊な存在だとは分かるし、外見と釣り合わない覇気も感じられ
た。だが留三郎にとっては只の胡散臭いジジィでしかない。それどころか、留三郎を悪魔にしたあの
忌々しいガキを思い出させる為、いっそ不愉快とさえ云える。
(共通点って云えば、金髪と喋らない事くらいだけど。……いや、喪服の女が傍に居る事もか)
 子供の方には喪服の老婆が居たが、老人の方には喪服の若い女が付き従って居た。女は老婆と
違い、口調は柔らかかったし、留三郎に対して親身になってくれているような気がしたが。
 そう云えば、喋り方が高尾に似ていたような気もする。
(……また話してみようか)
 あのジジィは不愉快だが、喪服の女は嫌いではない。
「……トメ、貴方って本当に怖いもの知らずよね……」
 ピクシーが、呆れと関心の入り混じった複雑な表情で云う。薄ぼんやりその自覚がある留三郎だが、
素直に頷くのは憚られた為曖昧な笑みを浮かべておいた。
 怖いもの知らずと云うより、怖がるのが面倒なだけなのだが。
「ま、あのジジィは気に食わないけど」
 また仲魔達の顔が引き攣ったが、それは右から左へ流した。
「これを持ってれば強い奴らと戦えるんだろ? それは楽しみだよなぁ」
「何云ってんのよ。私達、悪魔としては限りなく底辺に近いんだからね」
「なら此れから強くなればいいじゃねぇか」
 なぁ、と同意を求めれば、仲魔達は揃って困惑気な表情を浮かべた。
「トメ……、それ、本気で云ってる?」
「? 本気だけど」
「……そうよね、トメは、本当に強くなってるものね。でも、私達は……」
 それきり、ピクシーは黙ってしまった。他の仲魔も口を噤んでしまう。
 仲魔達の態度が理解出来ず、留三郎は小首を傾げた。

 ――彼らの態度の意味を留三郎が理解するのはもう少し、先の話。



 − 無意識に置いて行く事を、



 了


 人修羅と仲魔達の成長スピードは目に見えて差がある。同じレベルで始めても、いつの間にかトメ
の方が三つ四つ上になってる。変化後でトメよりレベルの高い仲魔が出来ても、あっと云うまに追い
抜かしてしまう。だから悪魔合体が必要になってくるわけで。
 ちょっと切ない話。



「そうだなぁ。1000万マッカで売ってやるぜ?」
 云われた瞬間、留三郎の顔面がビキリと引き攣ったのを、仲魔達は戦々恐々とした思いで見つめ
ていたのだった。
「てめぇ。足元見やがってこの褌魔人」
「あん? お前みたいな下級悪魔にこのロキ様が物売ってやろうってんだぜ? ここはありがとうご
ざいますロキ様、謹んで奉納致しますって云う所だろうがよ」
「北欧神話の邪神が流暢に奉納云うな。とにかくふざけんなよ。元は拾いモンだろうが」
「拾ったからにはオレの物だ。いくら値段つけようがオレの自由なんだよ。ま、金が払えないってん
なら……」
 伸ばされた手が、厭らしく留三郎の脇腹を撫でる。
「お前の体で支払ってくれてもいいけどなぁ?」
 云われた瞬間、留三郎は腹の底から忌々しそうな顔をした。次いで、脇腹から太ももへと移ろうと
したロキの手を、勢い良く叩き落す。
「……帰るぞ、お前ら。無駄足踏んだ」
 普段からは想像も出来ない、低く掠れた声で仲魔達に告げる。後ろで事の成り行きを見守ってい
た三体の仲魔は、黙ってコクコクと頷き、歩き出した留三郎の後ろに従った。
「気が変わったらいつでも来いよー。一晩たっぷり可愛がってやるからなぁ」
 腹の底からからかっているとしか思えない声音と共に、下品な言葉を投げかけられた。だが留三
郎は気にも留めず、マダムに一声掛けて店から出た。
 そして、最後に出たジャックフロストが扉を閉めた瞬間。
「ふざけやがってあのヤリ■ンやるぉおおおおおおおおおおおお!」
 頭を抱えて大絶叫した。
 ニヒロ機構の悪魔が何事かとこちらを見るのを、ハイピクシーが何でもない何でもないと首を振っ
て誤魔化す。
 その間にも留三郎の爆発は続く。
「ぬぁにが体でもいいだ! セクハラ褌が! 外見だけじゃなくて中身もセクハラか! 魔王の中で
一番レベル低いくせに調子こきやがってぇぇぇぇえええ!」
「……魔王の中じゃ一番レベル低くても、私たちよりずっと上よ」
「トメ怖いホー……」
「こわいよぅ……」
 ハイピクシーの冷静な言葉と、怯えたジャックフロストとスダマの言葉に、留三郎はようやく怒気を
和らげた。まだゼィゼィと肩で息をしていたが、爆発は沈静化したようだ。目にも冷静な色が戻り始
める。
「……クソ。真正面から交渉しようなんて思った俺が馬鹿だったんだ。そうだよな。交渉って俺よりレ
ベル高い悪魔にゃ通じねぇもんな! 下級は下級なりにやってやろうじゃねぇか……」
 留三郎の目に、今度はギラギラと危険な色が宿り始める。
「ちょ、ちょっと、トメ。何する気よ……?」
「くっくっく……。……お前ら、耳貸せ」
「悪い顔だホー」
 背の低いジャックフロストに合わせて留三郎が屈むと、宙を飛ぶ仲魔達も高度を下げた。
 ごしょごしょと小声で告げられた言葉への反応は三者三様。
 ハイピクシーは「本気?」といぶかしむ顔を。ジャックフロストは「そんな事して大丈夫ホ?」と不安
げな顔を。スダマは「面白そう!」とくるくると楽しげに丸い体を回した。
「なぁに。頂くもの頂いたらトンズラこけば済む話だ。ロキじゃぁ分が悪いが、トロールなら俺らでも勝
てる!」
 拳を握り留三郎は力説した。
「……止めなさいよ、と云って聞く悪魔じゃないわよねぇ、貴方って」
「流石ピクシー。わかってるじゃねぇか」
 にやりと笑った留三郎に、ハイピクシーはやれやれと頭を左右に振った。
「分かったわ。そうと決まれば、さっさと済ませちゃいましょ」
「ほ、本気でやるホ?!」
「大丈夫だいじょーぶ。何とかなるってぇ〜」
 まだ不安げにきょときょとするジャックフロストの頭をぺちぺちと叩きながら、スダマが宥める。
「下級は下級らしく卑劣に行くぞ、野郎ドモ!」
「おー!」「ホ、ホー!」「おー!」
 こうして、にわか窃盗団はロキの宝物庫裏口へ向かったのだった。



 − 手段は選んでいられません。



 了


 実際のプレイではロキに会わずに速攻宝物庫向かいました(笑)。



 正当性を無視した――だが、この世界に置いては何よりも正しい”裁判”を前にして留三郎が漏ら
した言葉は、
「ムカツクな」
 その一言だった。
 どの悪魔も留三郎達を見下し、負けると決め付けている。それが「武闘派」を自負する留三郎には
許しがたい屈辱だった。
(そりゃ俺はオニやトールみたいにでかい体は持ってねぇし、顔も怖くねぇよ。でもそこまであからさま
に見下すかぁ?!)
 ハイピクシーから「あまり熱くなっちゃ駄目よ」とお小言を頂いていたのだが、これは熱くならざるを
得ない。
 完膚なきまでにぶちのめして、連中の鼻を明かしてやると強く心に誓い、留三郎は火炎耐性を持つ
シラヌイを飲み込んだ。次いで、今まで飲み込んでいたイヨマンテを吐き出す。
「トメ」
 こそりとハイピクシーが耳元で囁きかける。
「情報、貰っておいて良かったわね」
「全くだ。地獄の沙汰も金次第ってな。……タケミカヅチを合体材料にしちまった事が悔やまれるぜ」
 見張り番のオニに金を渡し貰った情報を思い出して、留三郎は歯噛みをした。
 一番手は今目の前に居る双頭の犬――オルトロス。その次の相手は衝撃属性を使う鬼女――ヤ
クシニー。最後はマントラ軍No2、エントランスで友人の勇を吹っ飛ばしてくれた因縁の相手、魔神トー
ルだ。このトールは雷を扱うと云う。
 困った事に自分はまだ、雷に強いマガタマを持っていない。手元にいる仲魔で雷に強いのは、側に
居るハイピクシーだけだった。
「……ま、いい。やるだけやるさ。こんな所でこんなくっだんねぇ事で死ぬなんざ御免だしな」
「そうね。頑張りましょう!」
 やる気を見せるかのように両手をグッと握るハイピクシーに微笑みかけ、留三郎は対オルトロス用
にとジャックランタン、フレイミーズの二体を呼ぶ。
「弱点攻撃は俺に任せて、お前らはとにかく攻撃してくれ。……くれぐれもアギ系は使わないでくれよ?」
「分かったホー!」
「承知致しました」
 負ければ確実に死ぬ事がわかっている戦いなのに、二体共一切怯えを抱いていなかった。
 それが悪魔と云うものなのか、それとも、自分達が負けるはずが無いと自信を持っているのか。
 留三郎は口元だけで笑うと、オルトロスへと向き直った。
「準備ハイイカ?」
「あぁ、いつでも」
 ばきん、大きく指を鳴らす。
「――吠え面欠かしてやるぜ、クソ犬」
 その言葉を合図にするかのように、オルトロスが飛び掛って来る。
 留三郎は笑いながら、アイスブレスを吐くために、大きく息を吸い込んだ。



 − 負けるなんて誰が決めた。



 了


 RPGじゃお約束ですが(主人公が侮られるの)、留さんは許しませんよ!



 つい先刻、魔獣から神獣へと変化した存在は、ジィと己の主を見つめていた。まるで子供のラクガ
キのような眼球とは云えない目ではあったが、確かに見つめていた。
 主は背中を丸め、両手に襤褸切れのようになった妖精を乗せている。覚えたばかりの低級回復呪
文をブツブツと引っ切り無しに唱え続ける姿は、哀れさを通り過ぎていっそ滑稽だった。
 隣りを見れば己と同じ気持ちなのか、ランタンを掲げた妖精も扱いあぐねた様子で主を見ていた。
「――よし」
 突然、主が立ち上がる。手にした襤褸切れ――ハイピクシーは先ほどより元の美しい姿に近かっ
たが、それでも羽は無残に散ったままだ。
「聖女の所へ行くぞー」
「ハイピクシー、大丈夫ホ?」
「大丈夫じゃないさ。だから戻るんだよ」
 優しくない言葉を優しく云って、主はジャックランタンの頭を撫でた。それだけで、普段は喧しい陽
気な妖精は黙り込んでしまった。
「ほら、マカミもおいで。お前も傷、痛むだろ?」
「……オウ、超イテーヨ」
 超は止めろよ、と云って主はまた笑った。そして踵を返し、元来た道を歩き始める。
 びちゃんと音を立てて、主の脇腹から血が滴り落ちた。
「泉が近くて良かった。アイテムの浪費は避けたいからなぁ」
 びちゃんびちゃん、音を立てて、また血が落ちた。階段付近に佇むマネカタ達が、普段から痙攣さ
せている体を、さらに激しく動かしながら端へと逃げる。
 普段の主ならば、マネカタ達には気遣いと優しさを見せるはずだ。だが今の主は手に抱えた妖精
にだけ意識を集中させているのか、視界の端にも入れていないようだった。無言で前を通り過ぎる。
 主が階段をおりきった途端、物陰からネコマタが飛び出してきた。
 血の臭いを嗅ぎ付けて来たのだろう。煌天の時ほどでは無いが、興奮している。
 慌てて主の下へ行こうと体をくねらせ、勢いをつけ飛び出そうとした所で、
「――邪魔だ」
 酷く冷淡な声と共に、ネコマタの体が吹き飛んだ。
 文字通り、吹き飛んだ。
 腰から上の部分がバラバラに砕け、床に散らばっている。
 マネカタが泡を吹きながら座り込んだ。ジャックランタンが「ヒホーッッ?!」と悪魔らしからぬ悲鳴を
上げた。マカミは。
 マカミはただ、硬直した。
 冷たい汗が、体を伝う。
「――? どうしたお前らー? 早く来いよー?」
 右手に優しくハイピクシーを抱えたまま、ネコマタを吹き飛ばした左手を振り上げ主が笑顔で呼ぶ。
 ジャックランタンが一度大きく体を跳ね上げてから、慌てて追い縋った。マカミは一度口腔内に溜まっ
た唾液を飲み下してから、ひらりと風に乗るように主の元へ飛んだ。
 ひょっとして、いや、ひょっとしなくとも、己はとても恐ろしいモノを主に選んでしまったのでは無いかと、
内心で後悔しながら。満身創痍でありながら、ただひたすら、掌に在る妖精の身を案じる主の隣りを、
ひらひらと舞った。
 背後でどしゃりと重い物が倒れる音がした。それは多分、上半身を失ってなお立っていたネコマタの
下半身が倒れたのだろうなと、マカミは振り返らぬまま想像した。



 − 人で無く、悪魔でも無いモノ。



 了


 ネコマタ好きな方すいません。
 vsライドウ初戦メンバー(いや、本当はマカミじゃなくてイヌガミだったんですけど、うっかりマカミで
書いちゃったのでそのままで……)。有難うジャックランタン。君のお陰で勝てた。