031.譜術
譜術訓練をしていたフリングスは、突如後ろから聞こえてきた拍手に驚き振り返った。
「お見事! 貴方の譜術は実に綺麗だ」
にこにこと人を食ったような笑みを浮かべた人物に、呆れのため息が出た。
「正信殿……」
名を呼べばにっこり、胡散臭くはあるものの、嘘ではない笑みを浮かべられた。
*** ***
「まったく……。貴方くらいのものですよ、将官クラスの背後を易々と取れるのは」
「僕の六つの特技の一つでして」
フリングスがやれやれと疲れたように口にするが、当の正信は悪びれた様子一つ無い。けらけらと
明るく笑いながら軽口を叩く。
「貴方の六つの特技、全て教えていただきたいものですね」
「機会があれば、そのうちに」
探るような言葉も軽くかわされ、フリングスはまた軽くため息をつく。
この正信と云う男は、いつの間にやら宮廷にて「国賓」として滞在していた。気付いた時にはそこ
にいて、にこにこと笑っていた。当然フリングスは驚愕した。貴賓室を使い、宮廷内を好き勝手に歩
き回り、時には皇帝の相談役さえこなす。そんな男を、将官であり陛下の側仕えである自分が知らな
いはずがないと。
だが、周囲の人々は突然現れた不審な男に、何の疑問も抱いていなかった。「アレは誰です?!」
と驚くフリングスに対して、何を云っているのだといわんばかりの態度。そのくせ、どこから来たの
か、いつからいるのか、何故国賓として扱われているのか、誰も知らないのだ。そして、それを全く
疑問に思っていない。
一体何者なのだ。マルクトを惑わすために現れた悪魔かと、半ば本気でフリングスは思っていたが、
今現在、そう云った様子はチラりとも見せていない。
(本当に、何者なのだろう、この人は……)
目の前にある端正な顔を見る。
本当に、整った顔立ちだ。眼鏡をしているため気付きにくいが、人間にはありえないシンメトリー
の顔立ち。特に手入れしていないらしいが、スゥと線を描く眉毛も、楽しげに細められた薄茶色に切
れ長の瞳も、綺麗に通った鼻筋も、両端がかすかに持ち上がり微笑する唇も。「美しい」とは云わな
いが、本当に整っている。
一歩間違えれば機械的な、人間味のない空恐ろしい――そう、あの死霊使いのような――顔立ちに
なると云うのに、中身に茶目っ気があるせいかとても人間くさい。
カーティスのように、美しいが目を逸らしたくなるものではなく、時間さえ許されるなら長々と眺
めていたい顔だと、フリングスは密かに思っている。
つい熱心に顔を眺めていると、正信からも視線をよこされた。ただ見ていただけでやましい事など
何もないのだが、つい、慌てて目をそらしてしまう。小さく笑う声がして、少しばかり気恥ずかしく
なった。
「僕の顔に何かついてる?」
「いえ、その、……失礼しました」
「別に謝らなくてもいいのに」
楽しげに笑われて、体がそわそわと動いてしまう。どうも、この人といると調子が狂ってしまう。
「ね、アスラン君。訓練は終わり?」
「あ、えぇ、そろそろ終わりにしようかと……」
「じゃぁ最後にもう一回。この前やってた氷を出すの、見せてくれない?」
駄目かな? と小首を傾げられ、かまいませんよと快諾する。第四音素の扱いを得意とするフリン
グスにとって、氷を操る譜術は簡単なものだ。大した労力にはならない。
意識を集中させ、大気中の音素を集める。足元に譜陣が展開し、空気がざわめく。前方――的へ向
かって手を伸ばし、集めた音素を一気に発動させる。
「氷の雨よ。降り注げ―――アイシクルレイン!」
空中に現れた大小多数のツララが、的へ向かって一気に降り注ぐ。人型を模した的は無残に砕かれ、
音を立てて地面に散らばった。
いつもどおり、いや、少しばかり気張った譜術の出来に内心満足しながら正信をふり返れば、うっ
とりした顔でフリングスを眺めていた。てっきり譜術に注目しているかと思っていたのに、何故自分
を見ているのか。
「正信殿……?」
「いやいや本当に……」
にっこり。また、笑う。胡散臭いけれど嘘はない、楽しげな笑み。
「譜術を唱えるアスラン君は、実に綺麗だ」
カッと顔が熱くなった。何を云い出すのかこの人は!
(わ、私の、譜術が見たいといったくせに!)
恥ずかしさのあまり何も云う事が出来ず、フリングスは真っ赤な顔を隠すため、正信に背を向けた。
背後から笑う気配がしてきて、気恥ずかしさのあまり俯いてしまう。
(あぁもう、まったく……)
誰かこの悪魔をどうにかしてくれと、フリングスは切に願ったのだった。
了
はっはっはー。やってしまいました。
正信×フリングス。(おまっ……!)
本当は正信さんの登場、アクゼリュス崩落後にしようと思っていたのですが、我慢できずに書いて
しまいました……。
最愛の妻みのるさんも、可愛い愛人シグナルも側にいないので、現地妻作りに走った正信さんだと
思ってください。(最悪じゃねぇか!)
私の正信さん像はかなり最悪なので、「愛妻家で子煩悩な若先生が好きなのー!」って方から苦情
が来そうです。最初に謝っておきます。若先生最悪ですんませんー!(スライディング土下座)
若先生の六つの特技勝手に捏造。公式ではどんな人の跡も見つける事が出来る、しかわかってませ
んので、おいおい作って行こうと思います。
ある意味この話、物語の核心にふれてると云えますかね……。アスランの見解とか。
032.旅は道連れ
「行くぞ、グランツ。ぐずぐずするな」
「あの、ラヴェンダー殿……」
「なんだ」
「何故、貴方がここに……?」
「最初に云っただろう。貴様の監視だ。逃げ出そうとした場合、殺しても良いと公爵から云われてい
る」
「……」
「が、奥方からは拷問死させてやるから生きて連れ戻せと云われていてな。どちらが良いか……」
「……」
「信彦とルークにもしもの事があった場合にもやれと云われているが、グランツはどちらがいい?」
「それを私に選ばせますか」
「貴様の事だから選ばせてやろうと云う慈悲だが?」
「……」
「質問は終わりか」
「あの、ですから、何故貴方なのですか。パルス殿は……」
「愚弟は生憎と奥方から手が離せん。もう一人は長距離移動には向かん」
「はぁ……」
「そもそも、貴様が云い出した事だろう。責任を取るために二人を迎えに行きます、とな」
「えぇ、ですから私一人で……」
「馬鹿か貴様は。どこの世界にテロリストの実兄を野放しにする人間がいる」
「……」
「本来なら貴様など、いまだ牢屋の中だ。信彦とルークの無事がわかり、テロリストが捕まった後、
連座制で死刑になってもおかしくない立場だとわかっているのか?」
「ですから、妹は誤解しているのです。私から話せばわか」
「誤解だろうがなんだろうが、公爵邸に武力を持って侵入し、屋敷の人間を危険にさらした事に変わ
りあるまい。そんな事もわからないのか、貴様は。その頭は飾りか。スポンジでも詰まっているのか」
「……」
「だから公爵も愛想を尽かしたのだ。最早話せばわかるなどと云う段階を過ぎてる事に気づけ」
「……」
「たとえダアトが許そうと、あの国王が許そうと、公爵を始めとしたファブレ家の者は誰一人とて、
私たちの宝を危険にさらした貴様らダアト関係者を許さん。肝に銘じておくがいい」
「……は」
「では行くぞ。無用な時間をとった。急がなければ船に間に合わん」
了
ラヴェ姉さまによるお説教。お急ぎなので軽めです。
正直に云えば、ラヴェ姉さん方はヴァンは死刑になると思ってたし、公爵もそう云う方向へもって
行こうと思っていたのですが、預言漬けの国王さまが許しちゃいましたー。ダアトも横槍入れました
しね。お得意の「ユリアの血が云々」で。
公爵は「陛下がそう仰るなら仕方ありません。ですが、ファブレは許しません。今後一切ダアトへ
献金はせず、ファブレ家所有の敷地内にダアト関係者が立ち入る事を一切禁じます」としました。まぁ、
これ以上公爵にへそ曲げられたら大変だし〜、と云う事で国王は容認。モースも頷きました。聖なる
焔の光をダアト関係者が危険にさらしたのは事実ですしね。
最初の予定では、パルス君がヴァン先生に同行する予定だったのですが、急遽ラヴェ姉さんに変更。
なんか、パルスと夫人のからみがもうちょい書きたくなって……(笑)
多分今頃、オラトリオが歯噛みしながら地団駄踏んでると思います。「姉さんだけずっりー!」っ
て。
あー、ちなみに、ラヴェ姉さんが殺す殺す連呼してますが、本当に殺す事はないのでご安心下さい。
ツインアビスは他のアビスと違い『ルークに絶対殺しをさせない』と云う自分ルールがあるので、そ
れに伴い、ファブレ姉弟たちも殺しは決して行いません。ご安心をば。
033.捕虜
「ご安心ください、イオン様。何も殺そうというわけではありませんから」
にっこり。とてつもなく胡散臭く、かつうそ臭い笑顔を浮かべて男は云った。
「……三人が暴れなければ」
その言葉を聞いた瞬間、ルークと信彦は揃って露骨に白けた目を男へ向ける。恐らく、今の言葉を
聞けば大人しくなるだろうと踏んでいたらしい男は、その露骨なまでに軽蔑した白い視線を受け、小
首を傾げつつ、「おやぁ〜」とおどけた声を出した。
「何かご不満でも? 破格の待遇なんですけどねぇ?」
「これで破格の待遇なんだって、ルーク兄ちゃん」
「マルクトって随分野蛮な国なんだな。父上の云ってた通りだ」
「ちょっと、貴方たち……っ!」
恐らくティアは、無闇に刺激するなとでも云いたかったのだろうが、兄弟二人に揃って、先ほど男
に向けられた物と同じ類の視線を向けられ黙った。
「突然出てきたと思ったら、事情も聞かないで譜術ぶっ放して」
「自分の無能さを棚に上げて他人(イオン)の事を責め立ててさ」
「後味悪いからお墓作ってたら見てるだけのくせにネチネチ嫌味云ってきて」
「無関係だって云ってるのに聞かないふりして後付いてきて」
「挙げ句、騙まし討ちのような形で連行ですか。マルクト軍人って質が低いのな。ダアトとどっこい
どっこいじゃね?」
見事なセリフわけで云い切った兄弟に対し、男の頬がかすかに引き攣る。
「……貴方方が不法入国した事実に変わりはありませんが?」
「まぁそれはそうだな。不本意な事故だが不法入国した事に変わりない。が、不法入国者を一軍人が
独断で殺していい、なんて話は聞いた事ないがな」
吐き捨てるようにルークが云えば、男はやれやれと肩を竦めた。
「ですから、貴方方が暴れなければ、と」
「たとえ暴れても取り押さえるくらいが関の山だろ。それとも、犯罪者独断で殺して始末書を山のよ
うに書きたいのかよ。高尚なご趣味をお持ちだな。あ、それともマルクトじゃぁ犯罪者には人権なし
で軍人の気分一つで殺していいのか。物騒な国だなぁ」
あんま信彦に近づくな無頼漢、と蔑みの目を向けて、ルークは弟の肩を抱き寄せた。
懲りない男がまた口を開いたが、それより早く信彦が云った。
「ねぇ、ルーク兄ちゃん。此処で立ち話しててもしょうがないし、此処はオジさんに従った方がいい
んじゃないの?」
「んー、そっかなぁ……。まぁ、こんだけ囲まれてちゃぁ逃げられねぇし。仕方ねぇか。おら、さっ
さと案内しろよ」
不遜なまでに大きな態度で云えば、周りの軍人達は「どうぞこちらへ」「ご無礼をお許しを……」
と云いながらルークたちを案内し始める。
上司はアレだが、部下はまともなのが多そうで何よりだと兄弟は思った。
了
んー。なんだろう、何か違う……。でも書きたい部分はかけた、かな……。
ジェイドってなんか物騒な事云ってましたけど、そう易々と殺しちゃいかんだろ、普通、と思いま
して。なんのために法律や憲法があると思ってんだ。死刑制度のある日本でだって、どんな犯罪者で
もものっそややこしい手続きをして、何度も検討して、しかも被告側が「納得いかん」と裁判のやり
直しを要求できるってのに(要求できるだけで必ずしも再審出来るわけじゃないそうですが)。
不法入国者を暴れたら即殺すってどんだけ酷い国なんだ、と。まぁこちら側ほど細かい法律はない
のかも知れませんが(ゲームだし)、それにしたって「暴れたら殺す」はないだろ。マルクトに基本
的人権ないのか。(キムラスカは身分制度厳しいから、また違いそうですが)
ようするに脅迫か。ろくでもない軍人だなジェイド! って話です。(酷)
えー、文章にはしませんでしたが、ライガクイーンはそう云う事です……。ツインアビスは、ファ
ブレ家以外捏造なしなので、基本ゲーム通りに進みます。すいません……!
034.導師守護役
「おい、オラトリオ」
そわそわと部屋のあちこちを行き来するオラトリオに、パルスが低い声をかける。眉間に深く刻ま
れたシワが、彼の心情を如実に表わしていた。
「少しは落ち着かないか。奥様の前でみっともない」
「んな事云ったってよー」
立ち止まりはしたものの、不満顔の兄に思わずため息が漏れる。だが、部屋の主であるシュザンヌ
は顔色は悪いものの、顔には微笑を浮かべていた。
「ふふ。心配の種が増えてしまいましたものね、オラトリオ」
「そう! そうなんっすよシュザンヌ様! 行方不明なかわゆい弟どもも心配で、それを探しに行っ
たかわゆい弟も心配なのに、姉さんまであのヒゲ野郎と一緒に行っちまったんですから!」
あー、と間延びした声を上げながら片手で帽子を外し、もう片方の手でぐしゃぐしゃとご自慢のブ
ロンドヘアーを掻き混ぜる。
「あんの野郎……。姉さんに手ぇ出しやがったら市中引きずり回しの上、晒し首にしてやる……」
「時代劇の見すぎだ」
「晒し首は良い案だと思いますわ」
不穏な言葉が穏やかな貴婦人から漏れたが、パルスは己の精神面のためにあえて聞き流した。
「そもそも、あの程度の男がラヴェンダーに手など出せるものか。指一本触れる度胸とてないぞ」
「それもわかってんだよ。姉さんに手を出せる男なんかいるもんか。でも、万が一があるだろうが!」
その万が一が欠片も想像出来ないパルスだが。あの鋼鉄の姉を心配できるオラトリオを、少しばか
り見直した。
確かに、姉弟一強くとも、敗北など数えたほどしかなくとも、壊し屋(クラッシャー)の異名を持
とうとも、姉は女なのである。男と二人旅など――それも、信用も信頼も出来ない上に、今回の騒動
の引き金とも云える諸悪の根源と!――心配して当然なのかも知れない。
「はぁ……。やっぱり俺も付いて行くべきだった……」
「長距離移動に向かないデスクワーク型が何を云う」
「此処でうじうじしてるよりマシだろ! それに、長距離移動に向かないっつっても、月に四回は仕
事でベルケンドに顔出してんだぜ俺ぁ。お前らよりオールドラントに慣れてるっつの」
「それもそうだが…」
確かに、ルークに付き合ってほぼ屋敷に篭りきりのシグナルとパルス、公爵の護衛が仕事のため、
王城と屋敷の行き来がほとんどのラヴェンダーより、オラトリオの方が外に慣れていると云える。
だがやはり、情報処理型ゆえに運動制限がかかってしまうオラトリオより、戦闘型、SP型の方が
この件に関しては適任なのだ。そもそもオラトリオの行っている長距離移動は、移動型譜業と船を使っ
ての物で、徒歩ではない。
「とにかく、落ち着けオラトリオ。少しは信じたらどうだ」
「信じてるよ。これ以上にないくらい、俺ぁ姉貴も弟どもも信じてる。だが、信じてるからって心配
しねぇってのは無理だ」
はー、と大きくため息を着き、オラトリオはその巨体をソファに沈めた。
「…………ルークと信彦は……今頃、どうしているのでしょうね……」
ぽつりと呟かれた言葉に、兄弟はハッと顔を夫人へと向けた。オラトリオがバツの悪い顔をして、
がばりと頭を下げる。
「すんません、シュザンヌ様。貴方の方が辛いのに、大の男がグチグチと……」
「いいえ、気持ちは私も同じです。気に病まないで、オラトリオ。信じていても……心配はします」
「……大丈夫でしょう。信彦は幼いですが賢く要領も良いです。ルークも私たちが鍛えていますから
実戦で通用する腕を持っていますから」
弱弱しく笑うシュザンヌにパルスは少しでも安心してもらおうと、滅多に浮かべぬ笑みを顔に乗せ
て云った。シュザンヌは二度三度瞬きをしてから、安心したように息を吐く。
「そうね。パルスの云う通りね。あの子達は強いもの。すぐに元気な姿を見せてくれますね――」
*** ***
一方その頃。
ファブレ家心配の種、二人の兄弟は、揃って大きなため息を着き、
「やっぱあの子、ニセモノなんじゃないかな、ルーク兄ちゃん」
「俺もそう思うわ。でも、ニセモノならニセモノでもっと凝るだろ。いくらなんだってさぁ……」
胡乱な目を、きゃわきゃわ騒いでいる子どもに向け、
「あれが導師守護役とかギャグだろ。笑うべきか?」
「体を張りすぎたギャグって見てて痛々しいよね」
なんとも元気のない声で囁きあっていたのだった。
了
急にパルスたちが書きたくなってこう云う按配に……! お題に沿ってなさ過ぎる! すいません!
035.戦争回避へ
「なぁ、信彦」
ルークは一度首を傾げてから、隣りにちょこんと座った弟に声をかけた。
「何、ルーク兄ちゃん?」
「どう思う、この話。受けた方がいいかな、断った方がいいかな?」
「断った方がいいと思うよ」
あまりにもあっさりと云い放たれた言葉に、問うたルークではなく周りが驚いた。
「えー、でも断ったら軟禁するってこのオッサン……」
「そう云う事云ってる時点で信じられないじゃん。和平に行くんなら、その国の王族、貴族に最上級
の礼儀を払うのが常識でしょ? そんな常識守れない人の脅しに乗ったら、クリムゾンさん怒ると思
うけど」
「あー、それもそっかぁ。父上厳しいもんなぁ。じゃぁ断るか」
だが、周囲の反応をこの兄弟が気にするわけもなく、とんとん拍子に話が決まっていく。慌てたイ
オンが二人の会話に割り込まんとしたが、それより早くジェイドが肩を竦め、やれやれと疲れたよう
な声で云った。
「全く……、そんなお子様の言葉を真に受けるなんて、どうかしてますね。ルーク、貴方はお兄ちゃ
んなんでしょう? 自分で考えようとは思わないんですか」
「てめぇみたいなうっさんくせぇオッサンに云われたくねぇ言葉のオンパレードだな」
へっ、と唾を吐く真似をしながら、ルークは椅子に背を預け軽く仰け反った。ついにで、小指で耳
をほじる仕草までプラスする。思い切り馬鹿にするポーズだ。
ひくりと、ジェイドの頬が引き攣った。
「てか、お兄ちゃんとか云うなよキモいから。虫唾が走る」
「ルーク兄ちゃん、云いすぎ」
「えー、だってさぁ」
「このオジさんの精一杯の嫌味なんだから、少しは真に受けてあげないと可哀想だよ」
にっこり、信彦が笑う。
その途端、ティアがヒッと小さく悲鳴を上げて距離を取った。その様子に怪訝な表情を浮かべたジェ
イドに、信彦が声をかける。
「ちょっと整理させて貰うけど。マルクトはキムラスカと和平を結びたがってる。その和平の使者に
オジさん――『死霊使い』ジェイド大佐を選んだ。オジさんは和平を取り持ってもらうために、導師
イオンに来てもらった。キムラスカへ入国するために、ルーク兄ちゃんの「公爵子息」と云う立場を
利用したい。で、いいのかな?」
「……えぇ、そうですよ。そこまでわかっていて、何故断るのです? 和平のために協力するべきで
しょう」
「そりゃ平和は尊いって習ったけど、信用できる要素が一つもないんだもん。何一つ信じられない人
に協力してルーク兄ちゃんが馬鹿を見るハメになるなんて俺は嫌だし」
足をぷらぷらさせながら、信彦は云う。仕草は幼い子どものそれなのに、言葉は冷静な大人のそれ
だ。ジェイドは赤い目を細め、信彦を探る目付きで見る。
「……何一つ信じられない、とはどう云う事でしょう? 現にこうして、導師イオンがいらっしゃい
ますが……」
「うん。まずそこが信じられない」
「は?」
「俺たち、キムラスカで聞いたんだ。導師イオンは行方不明だ、って」
「あの、それは、大詠師派の妨害を防ぐため、黙って出てきたからで……」
おずおずと云った様子で口を挟んできたイオンに、信彦は真ん丸い無垢な瞳を向けた。それだけで、
イオンの小さく細い体がビクリと跳ね上がる。
「何で黙って出てきたの?」
「え? で、ですから」
「大詠師派が信じられないなら、導師派に言付けるなり、置手紙なり置いてこればよかったのに。そ
したらキムラスカに「導師が行方不明」なんて情報が来るなんて事、なかったよ」
ふぅ、とため息を一つ。
「君が本物の導師だって云うなら、キムラスカ領に入った瞬間、このオジさん、導師誘拐犯として捕
まるよ」
「え!?」
「ちょ、ちょっとぉ! なんでそんな話になっちゃうわけぇ?! 意味わかんないんだけど!」
唐突に喚き出したアニスに、ルークが胡乱な眼差しを向ける。
「だってキムラスカは導師が誘拐されたって聞いてるんだもん。その導師をつれたマルクト軍人がの
このこきたら、そりゃ捕まえるよ。当たり前じゃない」
「だから! イオン様は自主的に協力してるの!」
「それを俺に主張してどうするのさ。伝えなきゃいけない相手が違うじゃんか。それこそ、大詠師と
か、キムラスカの国王様とかに伝えるべきでしょ? 危ないから妨害されるからって黙って行動したっ
て、誤解されたら元も子もないじゃないか。後になってから云えば大丈夫、って思ってるかも知れな
いけど、事が事だし。自国だけじゃなくて、キムラスカにもマルクトにも迷惑かけてるし、もう謝っ
て済む問題じゃなくなってるかもよ?」
「そんな事もわかんねぇで導師やってんのかよ。信じらんねー……」
今度は蔑むような眼差しをイオンに向ける。イオンはまたびくりと肩を跳ね上げさせ、俯いてしまっ
た。
自分は弱いです、可哀想です、と態度で示せば許されるとでも思っているのだろうかと、ルークは
気分が悪くなり舌を打った。
「それと、オジさん。オジさん、勘違いしてるよね?」
「……何をです?」
「平和は確かに尊いけど、オジさんは別に偉くないもん」
にっこり笑えば、ジェイドの顔が盛大に引き攣った。
「皇帝名代とか、和平の使者とかご大層な肩書き貰ってるけど、結局はただの佐官でしょ? 身分制
度の厳しいキムラスカで、軍人のしかも佐官なんて、貴族の前で立ち上がるどころか顔だって上げら
れないもん。そんな人が和平の使者で来たって、キムラスカにとっては侮辱だよ。軍人なら大将クラ
ス、貴族なら伯爵以上の爵位じゃなきゃ話にならないもん。それが、外交経験もない大佐で、しかも
二つ名が『死霊使い』のキムラスカの仇じゃ、和平の申し込みだなんて到底信じられないよ」
「喧嘩売られてるって方が俄然説得力あんなぁ」
ねぇ、と二人の兄弟は顔を見合わせ、にこりと笑い合う。
云われた佐官はと云うと、子供が何をと侮蔑したいプライドと、最もな事を云われ納得しかかって
る己との間で揺れ、動揺を隠すようにメガネに手を掛けていた。
「それに、誠意の一つも見せてくれないし」
「……誠意、ですか」
「何一つ信じてもらえないんなら、信じてもらえるよう、誠意を見せるべきじゃないの、オジさん?」
にっこり笑って、信彦は床を指差した。思わずと云った体で首を傾げるジェイドに、優しい笑みを
向けて、
「例えば、土下座して「協力してください、お願いします」って云うとか」
コキンと、ルークを除く全員の体が硬直した。
「そう云えば、このオッサン頼みごとしてるくせに「お願いします」の一言も云ってねぇな。この不
当な扱いに対して、ごめんなさいもねぇし。大人としてどうなんだよ、ほんと」
「ねー。子どもだって頼る時はお願いします、悪い事したらごめんなさいくらい云えるのにねー」
「まぁ、戦争しかした事ない”戦争ボケ”野郎なんだから仕方ないかもなー。可哀想って思ってやる
べきなんだろうな、此処は」
「でも此処で同情したら、付け上がっちゃうんじゃない? ただでさえ国内でチヤホヤされて天狗に
なってるみたいだし」
「いい年こいた大人がいってぇなそれは」
そこで一度会話をとめ、兄弟は揃ってジェイドを見た。その視線に半歩下がるジェイドに向かって、
似たようなにっこり笑顔を浮かべて、
「で、どうするの、オジさん?」「で、どうすんだ、オッサン?」
穏やかな声で、云い放った。
了
あ、あれ……。信彦さん、貴方十一歳ですよね……?! てな感じになってしまいました。あちゃー。
でも書いてる最中はすらすらと出来ました。本当にこのシーンは突っ込みどころ満載で、突っ込み
きれねぇよ! って感じですね!(笑)
声ネタが入りきりませんでした……orz いっそパルスと再会してからの方がいいかも知れませんね。
性格が違いすぎて個別で聞いてると「似てる」と思えませんし……。パルスの時の子安さんは本当に
カッコいい。シグナルをからかう時の声音とか聞いてて最高に楽しい。(笑)
