落乱×アビス、憑依ネタ その2



 雲麻自作人物(落乱の捏造生徒)がルークに憑依していると云う特殊ネタです。
 流石について行けんわ、と云う方はブラウザバックを押して下さいまし。

 捏造生徒についてはコチラコチラをご覧ください。


・下関大治郎:後半チーグルの森・アニス厳しめ
・備前鶴ノ丞:タルタロスの側・ガイ厳しめ(調教表現あり)
・鳴瀧 晴次:チーグルの森(特に厳しめ無し。モテ晴次注意←)
・加藤 千草:
・砂田橋すずめ:全体的に厳しめ? すずめが可哀想










 − 下関大治郎とアニスちゃん。

「では俺は、ありえったに付くとしよう」
 ぽとりと落とされた言葉は、その静かな声音とは裏腹に洞窟内に大きく響き渡った。
「え?」
 大治郎を除いた全員が、異口同音にたった一文字を口に出した。それを気にする事なく、大治郎は
一切の未練も無く、いっそ無情なほど普段通りの足取りでアリエッタの方へと歩んで行く。
 警戒心を露わにしたアリエッタに向かって、大治郎は無表情のまま告げた。
「主君を見捨てた者と、主君の為に己を懸けた者が居たならば――後者に付くのが当然だろう」
 肩越しに後方の”仲間達”を見やる。その目には一切の情が無く、ただただ冷たい光が宿っていた。
「自己保身の為に主君を見捨てるような下劣な生き物に、加担するつもりはない」
 びくりと、アニスの肩が跳ね上がった。
 それを見たティアが「酷い」と抗議の声を上げる。
「アニスは両親を人質に取られて脅迫されてたのよ?! 彼女も被害者じゃない! イオン様を殺した
のはモースだわ!」
「両親が人質に取られているならば、何故我らに云わなかった。あにすの両親が拘束されたのはあの
時のみ。以前から云っておけば、彼らをだあとから連れ出す事も可能だった。なのにそいつは云わな
かった。いおんが死ぬと分かっていながら放置した。見殺しにした。立派な殺人幇助だ」
「そ、それは……」
「そいつが悪くないと云うなら、我らが悪いと云う事になるな」
「え?」
「あにすが自身の置かれた立場を口に出せないほど、我らに信用が無かったと云う事だ。子供に信用
されなかった我らが悪かったと云う事になるが?」
 そう云えば、ティアは途惑った顔になった。
 なるほど。他人を庇うのは、自分が無関係だと思っている時だけなのかと、大治郎は納得した。
 偽善は悪ではないと思うが、こう云う時にされると醜悪な事この上無い。
「ならばどちらにしろ、俺は貴様らの敵になる。……元々仲間ではないがな」
 その言葉を口にすれば、ティア達が動揺し始めた。だが、動揺される覚えはない。
 初めから信用も信頼もない。ただ、目的が一緒だから共に行動していたにすぎない。只の同行者を
仲間とは呼ぶまい。
 それに大治郎の仲間は――直接云ってはやらないが――元の世界に居る馬鹿達だけなのだ。
 力だけで繋がった集まり。その歪極まりない”正義の味方”達。それでも、目的のためならばを手を
貸していた。
 だが、見せ付けられたのは、加害者の醜さ。己が殺したと云うのに、さも自分の被害者であると云
わんばかりの振る舞い。相手は子供だと同情する偽善者の群へ、純粋な嫌悪を感じた。
 その醜さを許せるほど、大治郎は感情を殺せていなかった。いや、忍びとして学んできたからこそ、
”正心”を無くし、己のためだけに動く生き物が許せなかった。そんな物らに仲間面される事も許せな
かったし、自分と近い精神を持つ子供を殺させる事も容認出来ない。
 だから、大治郎はアリエッタの側へと立ったのだ。
「俺はお前の母の仇だ。それを否定する気はないし、謝罪するつもりもない。俺は俺を生き残らすた
めにお前の母を殺した。それが事実だ」
 アリエッタの目に、ざわりと殺意が宿る。だが大治郎は慌てず騒がず、言葉を続けた。
「だから、俺との決闘は後に回せ」
 ぱちくり。アリエッタが瞬きをする。毒気を抜かれたような顔つきになった彼女へ向かって、大治郎
は淡々と言葉を続けた。
「敵の敵は味方と思え。お前はいおんの仇を討ちたい、俺は下衆を許せない。目的は一緒だ。此処
は一度共闘し、あにす等を始末した後で俺と再度決闘すれば良い。どうだ?」
「……」
 アリエッタはしばし沈黙し――はっきりと一度、頷いた。
「分かりました。アリエッタ、貴方と共闘します。一緒に、イオン様の仇、討ちましょう」
 そう云って拳を突き出したアリエッタに向かって頷き、大治郎も拳を突き出し、こつりと打ち合わ
せた。
「そんな……!」「本気なのルーク?!」「ルーク!」
 同行者らが口々に叫ぶ。だが大治郎は心動かされる事無く、冷徹な眼差しで”敵”を睨み付けた。
 アニスが絶望したような表情で、こちらを見ている。その顔を静かに見つめ、大治郎は己の武器を
構えた。
「イオン様の仇……!」
「腐れ縁も此処までとしよう――」



 了


 はいぶった斬り!←
 この後の展開? そりゃまぁ――アリエッタ側が勝つでしょうね。精神的にも戦闘能力的にも勝っ
てますから。
 その後は大治郎が「う゛ぁんの計画が成功したら、お前の友達も死ぬんじゃないか?」とか云って
ハッとなったアリエッタが仲間入り。その後適当に仲間増やしてヴァンを打倒した後、改めて決闘―
―と云う流れでは? いや多分。(えぇー?)
 その後大治郎とアリエッタの間に友情が芽生えたら美味しい。←



 − 備前鶴ノ丞とガイ君。

「ほうほう。お主、私の使用人と云う事か?」
「あぁそうだ。……何でまた記憶喪失になっちまったかねぇ……?」
 やれやれと頭を掻いたガイを見ていた鶴ノ丞の目が、すぅと静かに細くなった。
 その瞬間を目撃したティアはひ、と息を飲み、一歩後ずさり。何事かとガイがよそ見をした瞬間。
 鶴ノ丞の拳が、ガイの鳩尾にめり込んだ。
「がっ……?!」
 突然の衝撃にしゃがみ込むガイの背中を、鶴ノ丞は容赦なく踏み付けた。
 それはもう、容赦なく。心無い子供が蟻を踏み付ける勢いで。
「な、に、をぉ?!」
 を、の部分で、踏み付ける部位が背中から頭に変更された。後頭部を踏みつけられたガイは、草
が茂る地面へと接吻を余儀なくされる。
 その様はどんな人間から見ても同情を買う、哀れ極まりない姿であった。だが、周りに居る人間は
誰一人ガイを助けようとはしない。
 理由はただ一つ。
「私の許しなく喋るでないわ、便所蟋蟀(こおろぎ)が」
 踏みつけにしている人物が、怖いから。ただ純粋に怖いから、自分たちへ火の粉が散らぬよう、目
を逸らし冷や汗を掻くしか無かった。
「使用人? はっ、使用人なぁ……。こんなのが仮にも私の使用人などと、恥以外何物でもないわ」
「は、なん、ルー」
「許しなく喋るなと云うておるだろうが蛆虫が!」
「うぶっ?!」
 ぐりぐりと抉るように踏み躙られ、ガイが哀れな呻き声を上げる。
 それでも周りの人間は必死に目を逸らすばかりで、助けようと身を呈す者はいない。
 彼らから優しさを奪い取る程に――此れまでの鶴ノ丞が、怖かったのだろう。人間は恐怖と飢えに
は逆らえない、とはよく云ったものである。
「――使用人ならば主人を見下ろすな」
 冷淡な声が降る。ガイ自身は聞いた事のないだろう、『ルーク』の冷たい声。一切の感情を削ぎ落
す事を可能とした――忍びの声だ。
「主人に対等の口を利き、挙句は面倒くさそうに頭を掻いて、やれやれ、じゃと? ふざけるのも大
概にするが良いわ。前の私(ルーク)がどうだったかは知らぬが、私は使用人にそのような口を叩か
れて平然としていられるほど優しい男ではないぞ」
 足へさらに力が入る。このまま頭蓋骨を踏み砕かれるのではないかと云う恐怖が、ガイの全身を包
み込み始めた。
 そうされても何ら不思議ではないくらい、鶴ノ丞の放つ威圧感は――重く、冷たい。
 気温は丁度良いのに、体がぶるぶると勝手に震え出す。女性に怯えて震える事は多々あったガイ
だが、『ルーク』相手に怯えたのは、初めてだった。
「……まぁ、せっかくの迎えじゃ。此処で殺すのはちぃと惜しいか」
 その言葉に、一際大きく身体が震えた。ガイの命を奪う事を前提としている言葉に、恐怖心を煽ら
れる。
「今後、態度が改まるならば見逃してやっても良いぞ」
 人間が出せる声では無い。こんな、極端に人間性を削ぎ落し、まるで無機質な機械のような――そ
れで居て、嗜虐性と残虐性を感じさせるような声、人間が出せてたまるものか。そう、ガイは思いなが
らも、従順に返事をした。
「そうかそうか。素直な良い子で助かるのぉ」
 ころころと、鈴を転がすような声で笑いながら、鶴ノ丞は足を退かせた。だが、ガイは地面に押し付
けられた姿勢のまま――土下座のような姿のまま、動かない。
 起きあがる許可を待っているのだと分かり、鶴ノ丞は、己の物ではない顔に笑みを浮かべた。
 これは良い犬を手に入れたと、妖艶な笑みを浮かべた。



 了


 ガイ調教が好きですが何か。←
 ガイ相手に断罪だの制裁だのはしたくないのですが、全力で調教はしたいです! それもこれも、
ガイが可愛いからいけないんだと思います! ガイたんハァハァ!(うっぜ!)
 お鶴はどこへ行っても女王様です。(一言で済ますか!)



 − 鳴瀧晴次とライガクイーン。


 自覚はあった。
 彼は、自分が女性に好かれる性質を持っていると云う事を、正しく理解していた。
 いや、理解していたつもりだった。
 一部の例外を除き、女と云う性別を持った人間は、悉(ことごと)く晴次に好意を抱く。その好意の
種類は、単純な友情に始まり、愛らしい恋情から複雑怪奇な愛情にまで、多岐に渡る。
 それこそ友人達が云うように、体から女性にだけ効果のある特殊な色気(フェロモン)でも垂れ流
しているのではないか、と思うくらいに愛されまくった。
 だが、このような事になるのは初めての事だった。
(……学園には千草先輩がいらっしゃいましたからねぇ……。”彼女達”は女性でありましたが――)
 冷静に冷静に、現状を理解するべく努める。
 だが、べろりと思い切り頬を舐められてしまい、少し涙目になってしまった。
(……その前に、猛獣だったんですよねえええええええッッ!)
 今晴次は、自身より一回りも二回りも大きな獣の両前足に抱え込まれ、頬ずりをされたり顔を舐め
られたり匂いを嗅がれたりしている。
 このような経験初めてなもので、どう対処したらいいのか分からない。
(学園内の動物さん達は、皆さん、千草先輩に懐いていらっしゃいましたから! だってあの人『百
獣の帝王』とか呼ばれるくらい動物に懐かれるって云うか、従えてらっしゃって! 雌(女性)の皆さ
んも僕なんかより千草先輩に全神経集中してらしたんですよねええええええ!)
 晴次の分泌しているフェロモンが対女性用だとするならば。一つ上の先輩である加藤千草が発す
るものは対動物用と云って良い。晴次と違い好意を促進させるものではなく、興味を促進させるもの
であり、懐かれる事もあれば全力の敵意を抱かれる時もあったが。
 どのくらい威力のあるフェロモンかと云うと、冬眠から覚めたばかりの熊が一緒に居た弱そうな下
級生ではなく、一点集中で加藤を狙うくらいの効力である。
 そう云った存在が身近に居たせいか、晴次は学園内で動物に懐かれた経験が無い。外に出た時、
猫や犬が寄って来た事もあるが、わざわざ性別など確認した事もないし、猛獣ほどインパクトもない。
 だから思いもよらなかった。
 自分のフェロモンが、まさか動物にまで有効だ、などと。
 またべろりと頬を舐められて、恐怖に身を固めてしまう。今はいい。どうやら、好意を抱かれてい
るようだから、いい。だがいつその巨大な口が開き、鋭い牙で首を食い千切られてもおかしくはない
のだ。
「ルーク! ルークゥ!」
 少々離れた距離から、旅の連れである美しい少女――ティアが必死にこの体の名前を呼ぶ。すぐ
にでも駆け寄りたいけれど、下手に獣を刺激して敵意を抱かせては『ルーク』が危ないと考えている
のだろう。
 一見名前を呼ぶだけと云う無意味な行為だが、彼女の必死の想いだけは有難い程に伝わって来
る。
 晴次はなんとか微笑みを作ると、彼女に向かって訴えた。
「ティアさん、此処は僕に任せて逃げて下さい……っ!」
「いやよ! 貴方と離れるなんて絶対にイヤ!」
 台詞だけ見れば、物語の主人公とその恋人(悲劇系)のようなやり取りだ。――男側が巨大な獣
に抱え込まれ、顔を舐められていると云う、切迫しているんだか間抜けなんだか分からないような現
実を横に置けばの話だが。
 このままでは埒が明かない。何でもいい――とは云わないが、とにかくこの状況をなんとかしなけ
ればと、晴次は一種の覚悟を決める。
 まず第一に、こちらの要求は”彼女”にチーグルの森から立ち去って貰う事だ。これだけ懐かれて
いるのだし、もしかすれば、こちらにとって好条件で立ち退いて貰えるかも知れない。
 そんな打算的かつみみっちい事を考えながら、晴次は仔チーグルの名を呼んだ。ちょこちょこと駆
け寄って来る仔共に、こちらの要求が森からの立ち退きである事を伝え、その為の条件や代償を聞
いて欲しいと告げる。仔共は張りきった様子で頷くと、名は体を表すかの如き勢いで、ミュウミュウと
鳴き出した。人間側からすると何を云っているだか理解不能だが、相手も同じ魔物のためか通じて
いるらしく、彼女はまるで人のようにふんふん頷きながら話を聞いていた。
 聞き終わってから、彼女はぐぉんと一吠え。ミュウは目をぱちくりさせてから、遠慮がちに話し出
した。
「えっと、えっとですのぉ〜……」
「……彼女はなんと仰いましたか?」
 厭な予感を覚えつつ問いかければ、ミュウは困った顔で云い放つ。

「ルークさんがお婿さんになってくれるなら、出て行くってゆってますの……」

 ――訂正。
 懐かれるどころではなく、愛されているらしい。
 ミュウの言葉に悲鳴を上げ始めるティア。気持ちは分からないでも無い。出来る事ならば、晴次と
て悲鳴を上げてしまいたい状況だ。
 涙目のまま、どこか遠くを見つめて、晴次は心の中で叫ぶ。
(……助けて下さいお姉様方あああああああああああああああああッッ!)
 この世界には居ない、自分の絶対的な味方である女傑四人の姿を脳裏に浮かべながら。
 晴次は自分の性質を、恨まずにはいられなかった。



 了


 え、オチ?
 晴次に(対して)そんなサービスありませんよ!^^^^^^^←



 − 砂田橋すずめとオールドラント。


 何がどうしてこうなったのかは知らないが、砂田橋すずめの境遇は、彼自身の理解の範疇から飛
び出した状態となっていた。
 気付けば見ず知らずの他人の体(しかも結構年上で、滅茶苦茶外見が派手)、気付けば慣れ親し
んだ学園とは違った場所(ただ、裏裏裏山と雰囲気は似てる)、気付けば魔物と呼ばれる物の怪に
襲われ(何これマジ死ぬ)、気付けば偉そうなお姉さんに指示を出されその通りに行動している始末
(何故か凄く見下し目線で、何かにつけ小馬鹿にされてる。好感が持てそうにない)。
 何だこれ突然酷過ぎる吾(おれ)何かしましたか神様仏様――そうすずめが思っても仕方がない。
何もかもが十一歳の子供にとって、この上なく理不尽な状態だったのだ。
 すずめは自分が善人では無く、間違いなく悪人寄りの愉快犯だと理解はしている。多分、真っ当で
善良な人間が歩むだろう、普通の人生を諦めなくてはならないだろうなと、若干十一歳にして悟って
いた。
 だが、こんな事態は想定の範囲外だ。いや、人生は何時だってスリルショックサスペンス――と後
輩が云っていたが、それにしたってこれは酷過ぎるとすずめは思う。
 魂が別人に入った上(この時点で意味不明だ)、世界さえ違うとはどう云う事だ(オールドラントって
なんだ! 我らが大和は何処に行った?!)。
 まだ両親にまともな親孝行も出来ていなければ、行方知れずの姉も失踪した兄も見つけられていな
いし、弟妹はまだまだ幼い。学園で好きになった人が居るのに、告白さえしてない。
 だと云うのに、突然知らない世界に放り出され、しかも別人になって生きろとは。
 ――人を馬鹿にするのも大概にして欲しい物だ。
 一体誰の仕業かは知らないが、判明次第十分の九殺しにしてやるとすずめは心に強く誓った。
 この体の本来の持ち主の事も気になるには気になるが――どんな人間だったか分からない以上、
あまり思い入れは無い。自分のような人間に体を貸す破目になるとは可哀想に、と云う思いと、何で
吾があんたの体の中に入らなくちゃいけないんだ、と云う怒りが同時にあった。
 だが本人が居ない以上、強い気持ちを抱くには至らない。すずめは早々に、自分の境遇改善に取
り組む事にした。
 この体の持ち主がどんな人間だったか、全くと云って良い程知らないが、それにしたって、何かに
つけ見下され、馬鹿にされ、まるで配下の如くこき使われるのは気に喰わない。
 確かに物を知らないが、それは仕方がない事では無いだろうか。すずめはこの世界の人間では無
いのだし、まだまだ大人の庇護が必要な十一歳の子供だ。だが外見上は十七、八と云う、成人に違
いない年齢なのですずめは我慢した。
 恐らく、と云うか確実に、自分の境遇を正直に話した所でこの人達は信じないだろうし、頭から否定
してまた馬鹿にして来るに決まっているのだ、と思ったからだ。と云うか、実際そうだった。
 ぽろっと、「別の世界って、あると思います?」と聞いたら、集中攻撃で「そんな物ある訳がないでしょ
う」やら「夢でも見ましたか。これだからお子様は」やら「そんな空想で遊んでいる場合じゃありません
わ」やら「ばっかじゃないの? そんなのある訳ないじゃん!」やら「夢の話なら後で聞いてやるから」
やら「夢のあるお話ですね。素敵です」やら。
 いくらなんでもそこまで云う事ないんじゃ? と云う言葉の洪水で押し流されてしまった。あの虚しさ
と云ったらない。自分にとっての現実を夢と空想で片付けられた悲しさと云ったら、本当に、無い。無
い、だろう。あんな仕打ち。
 あんたら、吾の家族も友達も先輩も後輩も先生も――何もかも皆、妄想だって云うのか、夢だと、
在りもしない空想だと云うのかと喚いて泣いてやりたくなった。
 でも、そうした所でまた否定されるのだろうと思うと、怖くて言葉が出なくなってしまったのだ。
 否定されるのは怖かった。自分の大好きな場所を、「そんなもの無い」と断言されるのが、恐ろしく
て堪らなかった。本当に、あの優しい場所が、大切な人達が、夢や妄想のような気がしてしまうのだ。
 だから我慢して、耐えて耐えて耐えて――たまに宿屋の隅っこで、両親や兄弟や友達や先輩や後
輩や――恥ずかしながら好きな人の名前を呼びながら泣いて、それでも頑張った。頑張った。頑張っ
た。学園に居た頃と同様、いや、それ以上に頑張った。
 字が読めないから、唯一優しかったイオンに教えて貰って一生懸命覚えて、実戦なんてほとんどし
た事が無かったが、さらに鍛錬を重ねて何とか戦えるようになれて、初めての人殺しが忍務以外で
あった事に絶望したりもして――それでも耐えて、耐えて、頑張って、必死になって――
 きっとそのうち、認めて貰えるんじゃないかと期待しながら、頑張ったのに。

 結局、ぽいと棄てられた。

 この体の持ち主が尊敬し、慕っていたと云う人が居た。正直胡散臭い人だなぁと思ったのだが、周
りの皆もティアと云うお姉さんを除いて信用しているようだったから、「この人の云う通りにすればい
いのか」と安易に考えた自分が馬鹿だったのだろうか。でも、もし本当にヴァンが怪しいと云うなら、
ティアももっと必死になってくれても良かったのではないだろうか。と思うのは、責任転嫁になるのだ
ろうか。すずめには分からない。何も、分からない。
 その人の云う通りにしたら、街が一つ壊れて、大勢の人が死んで――いや、この体の力を使ったす
ずめが、殺した、と云う事らしい。
 もうすずめには訳が分からない。ただ云われた通り、ヴァン先生に付いて行って、妙な柱の前で手
を上げろと云われたから上げただけだ。ヴァンが妙な言葉を口走っていたが、それが何かは覚えて
いないし、その後何が起こったのかも知らない。覚えていないのだ。
 だがそう云っても、「言い逃れをするなんて見苦しい」やら「そんな人だとは思わなかった」やら「馬
鹿な発言に苛々する」やら「お前には失望した」やら――まぁ、何度目かになる言葉の洪水により、
すずめの気持ちは押し潰されてしまった。
 この何も知らない世界に置いて――どうしようもなく厭な人達ではあったが、それでも、すずめにとっ
ては唯一の拠り所でもあったのだ。刷り込み、に近かったのかも知れない。この世界に来て最初に
接触したのはティアで、その後も成り行きとは云えずっと一緒に居たから、一方的とは云え仲間意識
を持っていたのかも知れない。
 だって仕方ないじゃないか。何も知らなくて、分からなくて、一緒に居てくれるのはこの人達だけで――
 自分の何がいけなかったのだろうか。怠けたつもりは無い。手を抜いた事も無い。必死にやった。
戦闘だって、料理だって、会話だって、一生懸命彼らに合わせて、彼らの云う通りに、やって。
 ――その報いが、これ、ですか?
 云う通りにやっただろう。ティア達が云う通り。
 戦えと云うから戦って、料理ぐらいしろと云うから料理を作って(当番など無く、ずっとすずめの役目
だった。曰く、戦闘で役に立たないからだ、と。その割にはよくよく盾にしてくれていたが)、和平に協
力しろと云うから協力して、親善大使になれと云うから親善大使になって、イオンを助けに行こうと云
うから助けに行って、救助活動をしろと云うから救助活動をして、ヴァンに云われたから柱の前まで
行って、手を上げて――
 それが、いけなかったと云うのか。じゃぁどうすれば良かった? 何をすれば正解だった? 何も
分からない知らない世界で、彼らから逃げだして一人で気ままに生きれば正解だったと云うのか!
 一気に吐き気がこみ上げて来た。床に直接吐く事は憚られたので、柵越しに外へ――泥の海へ
向けて嘔吐した。足元に唯一残っていたミュウが、泣きながら縋りついて来る。
「泣かないで下さい、泣かないで下さいですの、ご主人さま――」
 その言葉に、体が冷えた。
 云う通り、泣き止めば正解か。それとも、言葉に反して泣き喚けば正解か?
 こんな、こんな動物まで、人の行動に口出しして来るのか?!
「――吾に命令しないでッッ!」
 堪らなくなって、すずめは叫んだ。叫んで、柵に背中を預けながらずるずると座り込み、両手で顔
を押さえ込んでわぁわぁと泣き出した。ミュウが泣きながら、ごめんなさいごめんなさいと謝って来る。
謝りながら、しがみついて来る。
 本当に、もう本当に堪らなくなって、すずめは泣き喚き続けた。
 思えば、この世界に来て初めての事だった。
 大声を出した事も、大きく泣き喚いた事も。
 学園に居た頃なら――こうして恥も外聞も無く泣くと、三郎次達が馬鹿にして来て、でも慰めてもく
れて、四郎兵衛と後輩達は一緒に泣いてくれて、先輩達と先生方は優しい苦笑と一緒に頭を撫でて
くれた。
 此処に優しい彼らは一人たりとも居ないのだと云う事実がまた悲しくなって、すずめは長い間泣き
止む事が出来なかった。
 誰も来てくれないと分かっていたのに、それでも、涙は止まらなかったのだ。



 了


 あれ? 何でシリアス……? ちょ、他の捏造生徒と差が在りすぎる!
 ですが、年齢的に考えて、こうなるんじゃないかなー……と。他の連中は強すぎるわ適応力ありす
ぎるわ怖すぎるわですから。十一歳の子供にはあいつらのような事は出来ないだろ……と。
 すずめはこれ、連作でやった方が楽しいだろうか……。他の面子はブツ切れの方が楽なのですが……。

 それにしても暗い。
 うわあああああすずめえええごめんんんんんんんんんん。大人版すずめだったらもっとそつなく行
動出来てたと思います。でも二年生……二年生だから……!
 晴次と仙蔵、助けに来い。←



 以下続く