・晴佳とジェイド。4「預言扶助制度&第七音素貯蔵計画編」
「キムラスカは預言重視派と聞きますが、預言一つ詠んで貰うにも結構な額がかかりますよね。王族
や貴族の方はともかく、一般国民の方々はどうしていらっしゃるんです?」
「あぁ、うちには預言扶助制度があるからなぁ。別に問題ないぜ?」
「……なんですかそれは」
「ん? あ、そっか、これもうちだけか。えーっと、医療保険制度の話は覚えてるよな」
「えぇ」
「それと似たようなもんだ。加入者にはこの預言扶助カードが与えられて、国指定の教会で詠んでも
らう分には三割引になる。残念ながら国外では使えないがな」
「それもまた月々一律千二百ガルドですか?」
「いや、これは五百ガルドだな。それプラス、使用済み譜石の提出」
「は?」
「うーん。ちっくら突っ込んだ話になっちまうんだが、聞くか?」
「是非お聞かせ下さい」
「話が飛ぶが、後で繋がるからまぁ聞いてくれ。――譜業の燃料はなんだ?」
「プラネットストームから得られる記憶粒子(セルパーティクル)です。譜術の源でもありますね」
「記憶粒子の元は?」
「惑星の記憶と呼ばれる―――即ち第七音素です」
「よしよし。そこまでわかってれば話が早い。で、お前はプラネットストームも音機関の一つと云う事
は知ってるか?」
「えぇ。最近指定された世界三大ロストテクノロジーの一つでしょう。それが……?」
(他の二つは浮遊音機関、パッセージリング)
「普通の人間は考えもしねぇがな。俺はある説を議会で発表した事があるんだ。それが、――プラ
ネットストーム停止説」
「……また有り得ない説を発表しましたねぇ」
「本当にそう思うか?」
「は?」
「この世に、有り得ない事なんて有り得ない――なんて、某物語の登場人物が云っていたんだが、
俺もこの言葉には賛成だ。多少意味合いは違ってくるがな、この世に絶対はなく、有り得ない事は
有り得ない」
「言葉遊びのような気がしますが……」
「俺が詭弁がかってるのはいつもの事だろうが。いいから聞け。いいか、物は壊れて人が死ぬのが
世界の摂理だ。世界史上最高の天才と云われたサザンクロス博士が基礎を作り、聖女ユリアが完
成させた奇跡の産物プラネットストームだが、所詮は音機関だ。人が作りだしたものに永遠なんて
有り得ない」
「……」
「自然崩壊、または人為的に破壊・停止される可能性だってあるんだ。その場合、壊れたロストテク
ノロジーを俺達の手で復元できるかどうか、――はっきり云って、不可能だ」
「云い切りますか……」
「云い切るよ。浮遊音機関は巨大な飛行譜石があったから復元可能だったんだ。それでも飛行譜石
が破壊されたら現時点では修復不可能だと云われている。譜業先進国のキムラスカでもだ」
「……」
「そこで俺が提唱したのが、第七音素貯蔵計画だ」
「は?」
「万が一プラネットストームが停止した場合、譜業に生活の大半を頼っているキムラスカは急速に衰
える。衰えるだけならまだいいが、最悪は滅亡だ。そのための保険として、今は無限に使える第七音
素(セルパーティクル)を貯蔵しよう、と云う計画なわけだ」
「それがどうやって預言補助制度と譜石提出義務に繋がるのでしょうか……?」
「お前察しが悪い時は本当に悪いな〜。考えて見ろ。譜石は何から出来てる」
「それは勿論、第七音素……って、あぁ、そう云う事ですか」
「ようやく気付いたか、馬鹿め」
「えぇ。そうですね、そう考えれば非常に合理的だ……。預言を頻繁に詠んでもらうキムラスカ人にとっ
て、詠まれたての預言はありがたくとも過ぎ去れば無用の長物……」
「そう云う事。俺の発表した説と提唱した計画から発展した預言扶助制度は、譜石の処理に困る国
民にとってはありがたいもんなんだよ。なんせ用済みになろうとありがたがってた事実があるからほ
いほい捨てるわけにも行かないし、俺が着手するまで月々2000ガルドは支払ってたわけだし、馬
鹿にならないんだよね、此れが。それが500ガルドと使用済み(期限切れ)譜石の提出義務に変わっ
たから万々歳」
「はぁ、なるほど……。しかし、よくお上が許しましたね」
「うちのお偉いさん方は、生憎と進んだ頭をお持ちでね。まぁ、俺が瘴気の第一人者ってのもあった
んだろうし、公爵家は皆譜業に造詣が深い方々だったから説得は楽だったよ。ダアトからももらえる
し、備蓄は完璧。今すぐプラネットストームが停止しても十年は持つかな」
「その間に別のエネルギー源を探せる、と云うわけですか」
「つーか、既に検討はつけてる」
「!」
「それは国家機密だから内緒だけど〜」
「……ちっ」
「露骨に舌打つなよ……」
「すいません、つい。ところで、ダアトからもらえるとは……?」
「あー、あいつらユリアの譜石は異常なまでに大事にしてっけど、一般の譜石には興味薄いんだわ。
ぶっちゃけ、預言通りに行動し終わればキムラスカ国民と同じく無用の長物化するし。只で譲渡して
貰ってんだよね〜。いや〜、助かるなぁはっはっは」
「……貴方やってる事は正しいはずなのに、悪徳の香りがするのは何故なんですか……」
