初めまして! 僕は風祭将です。
 此処、笛総合病院の小児科で看護士を勤めています。
 これでも勤務暦は小児科で三番目なんですよ。
 え? 随分若く見える?
 童顔なんですよ。此れでも■■歳ですから。
 あはは、見えないでしょう? でも本当ですからね!

 僕は基本的に小児科の医師、鳴瀧晴華先生の補助についていますが、若手さんの面倒も看させて頂
いています。
 それで、貴方は?
 ああ、新任の先生ですね! 院長先生からお話は聞いてます。僕に病院を案内するようにと……。
 あ、遠慮しないで下さい。これも仕事のうちですから!
 さぁ、行きましょうか。院内は広いですから、はぐれないように気をつけて下さいね。



 − 笛総合病院へようこうそ!



 ここは外科病棟です。
 外科の担当医は、郭英士先生、上原淳先生、三上亮先生、不破大地先生ですね。
 皆さんとても立派な先生方なんですよ!
 そう云えば今、上原先生がオペ中だったような……

「待て上原コラァァァァァァアッ!」
「放せってさくらばぁー。オペ終わったじゃんかー」
「終わってねぇって! 掻っ捌いた腹を閉じろ! 縫合が終わるまでがオペだ!
「えー、面倒ー。後は任せた桜庭ー!」
「あほー! 看護士の俺が縫合できる訳ねぇだろが! また木田に怒られんぞ!」
「先生! 桜庭さん! 患者の脈が乱れてますぅ!」
「ヤバッ……! えぇいもう! 来い上原! 患者が死ぬ!」
「放せー放せー放せー! いーやーぁぁぁー、さーらーわーれーるーぅぅぅー!」
「ムカツクぶりッ子声はやめろっつーの!」

 ふふふっ。今日も元気だなぁ、上原先生と桜庭君!
 あ、今の金髪の肩が上原淳先生で、上原先生を引っ張って行ったのが看護士の桜庭君です。
 桜庭君は僕の後輩なんですけど、着任早々上原先生の補助に任命されたんですよー。先生の補助役
はそれなりに経験を積まないとなれないんですけど、それだけ桜庭君が優秀って事ですよね!
 え? いつもあんな感じなのかって?
 えぇ! いつもあんな風に、仲が良くて明るくって素敵なお二人なんですよ!
 ……あれ?
 どうしました? 顔色が優れませんけど……?

 *** ***

 此処は内科病棟です。
 内科担当医は、渋沢克朗先生、内藤孝介先生、若菜結人先生、黒川柾輝先生ですね。
 あ、渋沢先生のお顔はすぐに覚えた方がいいですよ。先生方のリーダーのような方ですから、お世
話になる機会も多いでしょうし。
 大丈夫ですよ、渋沢先生は腕もいいし、性格も朗らかで優しいですから。僕の憧れの先生なんです!
 あ、あそこにいるのが黒川先生と補助役の真田一馬君ですよ!
 真田君は僕と同期の看護士で、ちょっとテレ屋さんで最初はとっつきにくいかも知れないけど……
根はとってもいい人なんですよ。
 え? なんで男なのに女性用の制服を着てるのかって?
 あれ? そう云えばどうしてでしょうね。
 え? えぇ、今まで気にした事がなかったものですから……似合ってますし。
 あ、黒川先生が手を振ってますよ! ちょっとお話して行きましょうか。
 こんにちは、黒川先生!
「よ、内科に顔出すなんて珍しいじゃないか、風祭」
 こちらの先生に、病院内を案内してるんです。ほら、今朝院長先生が仰ってた……
「あー、今日から入るって話の……。俺は黒川柾輝ってんだ、宜しくな。こっちは真田一馬」
「……」
「一馬? 挨拶しろって」
「え、あ……! え、っと、どうも、よろしく……」
 どうしたの真田君? 顔が赤いけど……。
「え?! べ、別になんでも……」
 あ、そっか! こちらの先生に見惚れたんだね! 素敵な先生だもんね。
「は?! ば、な、違っ……!」
「そうなのか一馬……」
「いいい、いやいやいや、違うって、ちょ、待ておま、黒川っ!」
「お、都合のいい事にトイレが近くに
「ぎゃー! 嫌だトイレでなんてぇ!」
「俺の前で他の奴に見惚れた罰だ。つべこべ云わずに来い。お仕置きしてやる
「ひっ……! や、やだー! 助けかざまうぐっ」
「それじゃぁまたな、風祭。先生も今後とも宜しくー」
「もががー!」
 はい、失礼します黒川先生。
 ……。
 どうして黒川先生、真田君の口を塞いでトイレに入ったんでしょうね?
 あ、そうだ。云い忘れてました!
 あの黒川先生と真田君、恋人同士なんですよ。仲が良くて有名なんです。
 え? 男同士で変?
 駄目ですよ先生。
 そんな些細な事気にしてたら、この病院で生き残れませんから。
 ……?
 あれ? あの、先生? 顔色が真っ青通り越して紫ですよ……?
 あ? え?
 あの……。
 うわーっ?!
 せ、先生?! もしもし、先生! し、しっかり! どうなさったんですか?!
 わわ、白目剥いてる……!
 先生ー?!

 *** ***

 ……。
 あ、気が付かれました? 良かったぁ。
 晴華先生、目を覚まされましたよ。
「お、気が付いたかぁ?」
 えぇ、意識もハッキリしてらっしゃいます。
 あ、先生、この方は最初にお話した鳴瀧晴華先生です。
 小児科一の名医なんですよ! カッコイイ先生でしょう?
「おいおい、褒めたって何も出やしねぇぜ?
 で、あんたさ……。話はコイツから聞いたけどよ、あの程度でぶっ倒れてちゃぁウチじゃやってい
けねぇぞ。体も頭も鍛えときな」
 あ、そうだ先生。どうして突然倒れられたんですか? 何か持病でも……
「安心しろ。身体は健康だ。ま、問題は精神面か」
 ?
「お前は気にしなくていいんだよ。で、案内の途中だったんだろ? 残ってるのは何処だ」
 えぇっと、此処小児科と脳外科・神経科と皮膚科、精神科ですよ。
「……そりゃぁ濃いラインナップだな……。今日はもうやめておいた方がよくねぇか?」
 そうですね、先生のご気分も優れないようですし……。
 ところでコイってなんですか?
「こっちの話だ、気にするな。
 と、云う訳だ。院長には俺から話しておくから、今日は帰りな。何、人手は万年足りてないが、そ
んな状態で働かれちゃぁ医療ミスの一つや二つ起こすだろ。どうせ着任から一週間は研修期間だ
からそう気にする事ぁねぇよ」
 晴華先生は優しいですね。
「お前ほどじゃねぇさ。
 ん? どうしたぼうっとして。俺の顔に何かついてるか?」
 あっ、駄目ですよ先生!
 晴華先生は僕の恋人なんですからね!
「そうそう、悪いな――って、即行ぶっ倒れんな!
 わー?!
 どうしたんですか先生?!
「は? 此処にもホモがだとぅ? 俺ぁ女だゴルァッ!
 だだだ、駄目ですよ晴華さんそんなに揺すっちゃ! 中身出ちゃいますよぉ!
 しっかり先生! お気を確かにー!
 先生ー?!

 *** ***

 良心的な病院だと巷で評判な笛総合病院。
 世界的に有名な名医が誠心誠意患者に接し、それを補助する看護士達も皆優秀。
 誰もが憧れ、焦がれ、想い。
 この病院に就職できたとなれば、一種のステータスとなる。

 だがしかし。

 半端な精神力では一日たりともやっていけないと云う事実を、しかと胸に刻んでおこう。



 了


 加筆修正 2009/08/02