それは某日――東京選抜練習日の休憩中の事だった。
木田圭介は一人、某中学校の裏庭にある水場にいた。タオルをカルキ臭い水で濡らし、汗を掻いた
顔や首、腕を拭う。ひんやりとした水の温度に、暑さで疲労している体が弛緩する。
いっそシャツを脱いで水を被った方が早いかと思いつき、腕を交差させ、シャツの裾を軽く持ち上げ
た所で、
「木田さん」
ボーイソプラノの声に呼ばれた。
裾に手をかけたまま肩越しに振り返れば、そこには小柄な少年が一人立っていた。
「どうした風祭。鳴瀧や――郭は一緒じゃないのか?」
郭も呼ぶのに、木田は少し躊躇した。
厳密に云えば、郭は風祭よりも鳴瀧の側にいたがる傾向があったからだ。当然それは風祭も気付い
ている事だろうが、聞かないのも変だな、と云うかすかな迷いによる間だった。
まぁそれは置いといて。
都選抜――どころか、全国区の選抜アイドルとなりつつある風祭が、何故一人でココにいるのか。
都選抜の練習中は鳴瀧を筆頭に、誰かしらが風祭の側にいる。一人でいるのが不自然な人間なのだ、
風祭は。
木田の当然と言えば当然の言葉に、風祭はニッコリと――渋沢ら曰く、天使の笑みを浮かべた。
「えぇ。撒いてきましたから」
「………」
思わず、沈黙。
――……何故に恋人たちを撒く必要がある?
「あの……、僕、木田さんにお願いがあるんです。それで……」
まるで木田の心を読んだかのような言葉だ。
しかし、会話の流れとしてはおかしくはない。それに風祭まで読心術を心得たと云うのならば木田の
安息は十万光年は遠のいていると考えていいだろう。
己の精神衛生のために、木田はあえて突っ込まない事にした。
「聞いて、もらえますか……?」
不安そうに、云う。心細そうに、少しばかり、上目遣いに。
男は上目遣いに弱いのだとは、鳴海が豪語していた言葉だったか。
(これが計算だとしたら恐ろしいな……)
軽く、ため息を着く。椎名ならばともかく、風祭にそのような打算は無いだろうと自分で自分の想像を
否定する。
シャツの裾から手を放し、木田は体ごと風祭の方を向いた。
あの鳴瀧を撒いてまで、一人で自分の所へ来たのだ。大切な「お願い」なのだろうと思った。
「あぁ、構わないが。俺なんかでいいのか?」
自慢ではないが、木田は口が重く、気の利いた言葉一つも吐けはしない。
そもそも、「お願い」を叶えられる力も無いのだと、木田本人は思っている。
相談事ならば渋沢や椎名の方が向いているだろうと木田が言うと、風祭は「ダメなんです」と首を左
右に小さく振った。
「駄目……なのか?」
あの二人が駄目で、自分がいいとはどういう事だ。木田自身は、自分が渋沢や椎名に勝っていると
は考えていない。卑屈に、劣っているとも思いはしないが、やはり相談やお願いなどは二人の分野だ
と思う。
「だって渋沢さんも翼さんも、もしかしたら、晴華さんが好きなのかも知れないじゃないですか」
「………………は?」
なんとも不思議な言葉が、天使の口から出た。
――あの二人が、鳴瀧を、好き?
嫌いあっている、とは云わないが、かと云って好きあっているとも云えないのではないだろうか。あ
の三人の関係は。どうなんだ。
「あのですね……僕、木田さんに、皆さんが晴華さんの事をどう思っているか、聞いてきていただけた
らと思って……」
「……なんでまた」
風祭の真意が、木田には測れない。
どう云う事だ。そんな事を聞いてどうする? 都選抜の皆が鳴瀧をどう思っていようと、風祭と鳴瀧の
仲には関係ないだろうに。
木田が己の考えに思考を向けていると、風祭が、またもニッコリと笑った。
しかし今度の天使の笑顔には、
「晴華さんって、かっこよくて素敵でしょう? 皆さんのうちの誰かに、晴華さんを盗られるのは絶対に嫌
なんです。ですから、邪魔な芽は早めに摘むのが得策かと思いまして。
こう、除草用の鋏でジャキン、って」
たっぷりと、致死量に近い毒が塗りたくってあった。
しかも、除草効果付きである。二本の指を鋏みに見立てて「ジャキン」と云う仕草はどことなく可愛げが
あるにはあるのだが、怖い事に変わりはなかった。
「……」
それは、摘むと云うより、刈る――のではないか? と木田は思い、頭を抱えた。
(……段々、似てきている気がする)
最初が「か」で始まり、「し」で終わる変態に。
「あの……、お願いできますか? 木田さん」
少女漫画特有の効果音がつきそうな愛らしい仕草で、風祭が云う。
先ほどは否定したが、此れはもう計算でやっているのだと考えてよさそうだ、と木田は思った。除草発
言の後では致し方ない事と云える。
だがたとえ計算だとしても、小柄で華奢な上、外見も愛らしい、どこか庇護欲をそそる少年にそんな仕
草で「お願い」をされれば、大抵の人間は叶えてやりたいと思うだろう。
無論、木田も例外ではなく。
「――……わかった。皆が鳴瀧をどう思っているのか、聞いてくればいいんだな?」
「はい! ありがとうございます木田さん!」
パァッと、風祭の背後に花が咲いた。……ような気がした。それにさえ違和感がないのだから、風祭は
恐ろしいと木田は思った。
− お兄ちゃんは辛いよ。
都選抜メンバーに聞きました。 ――Q、「鳴瀧晴華をどう思いますか?」
*** ***
・回答その1「森の神」
晴華君? あぁ、嫌いじゃないよ。
好きでもないけどな。
言葉遣い悪いよな、あの子。顔は悪くないのに、喋ると台無しだ。ずっと黙ってればいいのにな。
顔色悪いぞ。大丈夫か? そうか……、ならいいが。
そうだなぁ……。顔はほんと、悪くないな。ココだけの話、結構好みの顔なんだが。
……なんで目を見開くんだ? は、男顔だろうって? まぁ男顔だな。
――そこがいいんじゃないか。
おい待て、なんで距離を置くんだ。気にするな? ……当たり前だけど、気になるよ。
まぁいいが。
うーん、特に言う事がないなぁ。俺と彼女は一応、恋敵って奴だろ? 風祭を賭けて対立してる訳だ
し、仲が良いとは言えないし。
え? 昔? 晴華君が風祭と付き合う前は?
あー……そう、だな。仲、良かったかもな。見ていて気持ちのいい子だからね、彼女。
あぁ、忘れないとも。
…………俺の顔面に弾丸シュートをブチ込んでくれた恨みはな。
おい待て。こら、なんで逃げるんだ? おい! 木田! 木田ー?!
*** ***
・回答その2「毒舌舞姫」
ハルカぁ? 女じゃないよアイツ! 絶対生まれる性別間違えたねアレ!
胸ないし怪力だしガサツだし言葉遣い最悪だしすぐ足でるし最近手まで出るし郭とか顔のいい連中
平然と蹴り飛ばすし人の写真小遣い稼ぎって称して身内に売るし。
男でもしない事平然とするし?! アイツ、そもそも性別ってモノをどっかに置いて来たんじゃないの?
母親の腹の中辺りに。
合宿の度に男湯入るしさぁ。あれ、将を守ってるつもり? 俺の邪魔してるだけじゃん! あー、
思い出したら腹立ってきた! 将の頭だの体だの洗ってやって、しかも将に背中流させてさー! 俺
だってしてもらった事ないのに何アレ?! ほんとぶっ飛ばしてやりたい。
は? 鳴瀧は女だから手加減しろ?
何バカ言ってんの木田? 今の世の中、男女平等だよ? 殴るのに、男も女も関係ないね。
そもそもさぁ、アイツが将の恋人って間違ってない?! この世界がパソコンだとしたら、間違いなくバ
グだよ! しかも悪性の!
あー! 腹立つなぁもぉ! 将ってハルカのどこがそんなにいいワケ?! 俺の方が絶対お買い得じゃ
ん! なぁ?!
え、いいところ? アイツのいいところ、ねぇ…。
……ま、友達としてはいい奴って事にしといてやるよ。ベタベタしないし、ウザくないし、まぁうるさいには
うるさいけど、藤代や鳴海よりマシな方だし。同じDFだから話も合うしさ。人の顔だけ見てギャーギャー喚
かない分、そこら辺のバカよりいいんじゃない?
*** ***
・回答その3「マムシ」
……どうした。……鳴瀧? あぁ、あいつか。あいつがどうかしたか?
俺がどう思っているか、だと? ……そうだな。
好きか嫌いかと言えば、好きな方だ。鬱陶しくないしな。爬虫類も平気な女だ。話も合う。
……なんだその顔は。……まぁ、大方俺が他人に対して好意的な事が意外なんだろうが。
別に弁解しなくともいい。事実、俺は他人に興味が薄いしな。
ところで木田。俺のジュリアを見てないか。何? 違う、トカゲじゃない。親戚からこの間貰ったんだが……。
ん? だから、蛇だ。アナコンダと言う種類の奴でな。淋しがり屋で臆病だから俺が側にいてやらな
いと……。
どうした。顔が真っ青だぞ。なんで連れてきたかって? だから言っただろう。淋しがり屋で臆病なん
だジュリアは。俺がいないとすぐ元気がなくなってしまうんだ。
見つかったら教えてくれ。それじゃあな。
*** ***
・回答その4「ワッフルボランチ」
あっれー、どしたの木田さん? 顔真っ青じゃん?
え、何? 間宮のペットが逃げたって? あぁー、ジュリアちゃんね。
え、知ってるのかって? そりゃ俺、間宮と仲いーし。……何だ、その疑惑の目。
え? 晴華の事どう思うって? 唐突だな木田さん……。
んー、まぁ、男っぽいよなぁ。この前英士にさぁ、男らしいとか女らしいとか言うのは男女差別でどっち
が偉いもないって懇々と説教されたけど。なんかそれ以外に表現しようがないし。
一人称「俺」だし、口悪いし? 日本の女の美徳ってゆー慎ましいってのとは縁がないじゃんアイツ。あ、
それが悪いって云ってんじゃねーよ俺?! それはそれで晴華の味なわけだし。
ん? あー、俺ね。そう云う事に対して否定的じゃねーよ別に。別に晴華が男っぽかろーが実際に男だっ
たろーが雄雄しかろうが、俺と晴華の友情には全く持って関係ない!
……何で俺の手を握るわけ? いや、お礼云われてもなんて返せばいいんだよ…。なんか今日の木田
さん変なカンジ。
何か悪いもんでも食った?
*** ***
・回答その5「東京選抜のパティシエ」
あ、木田さん丁度良いところに。藤代見てないですか? 見てない? そうすか……。
え? あぁ、実は今日シュークリーム焼いて来たもんで。食わせてやろうかなって……。餌付け? ちょっ
とちょっと、人聞きの悪い事云わないでくださいよ。
ただアイツが俺の作ったもんは何でも美味そうに食うからついつい……。あ? 人参? いや、流石の
俺でも人参は……。……いえ、実はこの前キャロットケーキ作ってたら、この世の終わりが来たみたい
な顔で見られたもんで……。あの顔は軽くトラウマになるって云うか……。
まぁ俺の事は置いておいて。わざわざ俺に会いに来るなんて、何かあったんすか?
はぁ? ……ハルカをどう思うかって……。
……………。
な、何でもないです! 何でもないから突っ込んで聞かないでくださいよ!
あぁ今思い出しても震えが……! いや、マジ大丈夫っす! 顔が真っ青? いや、まぁ、自分でもそう
だとは思うんですけど……。
……いや、まぁ。その、好き、かな。……だから、ハルカの事っすよ! あんま言わせないでくださいよ。
壁に耳あり障子に何アリ! もし聞かれてたら俺の命が志半ばに潰える事になるんすから!
――あいつが天使だなんて誰が言い出したんだ、詐欺だ、クソッ……!
はっ。いや、何でもないですから何でもないっすから! それじゃぁ俺は此れで! い、今の俺の言葉、
忘れてくださいね! 何も聞かなかったって事で! ……っ。
*** ***
・回答その6「変態ドエム」
あ、木田さん。将見てない? ……なんで固まるの?
……あー、裏庭に居るのか。ありがと。え? 何も云ってないって? ……俺を誰だと思ってるの木田
さん……?
あれ、体震えてるけど、大丈夫?
……。あ、いえ、ね。将も面白い事してるなぁって。そんな事、別に木田さんに頼まなくてもいいじゃな
いの。ねぇ?
ちょっと。何逃げようとしてるの。俺にも聞くべきでしょ。ソレ。
語ってあげるよ木田さんの気が済むまで。え? 語るなって? 別に遠慮しなくてもいいでしょ?
晴華は最高だよね。流石俺の恋人で女王様って感じ。
え、何? 話の腰折らないでよ……。は? 晴華の恋人は将? 何当たり前な事云ってるの。
二人は恋人同士で、二人は俺の恋人。そして俺たちは三人で恋のトライアングル。
――yes?
晴華はねぇ……。そう、俺にとっては女神様だね。過言じゃない。本当に女神様なんだ。
あの鋭い眼差し! 凛々しい眉! 綺麗な鼻筋! シャープな顔立ち! スレンダーな体! 過激で
勇ましい性格! そしてカモシカの様な足からは想像も出来ないような破壊力の蹴り!
晴華に、晴華様にっ、毎夜辱められたい……!
――ちょっと。なんで引いてるの? 男として、ううん、人として当然思う事でしょ? 思わない奴はむ
しろ異常だよ?
ほら、逃げない逃げない。まだ語りたい事は山ほどあるんだから。はい、そこ座って! はい、水飴
あげるから大人しく聞く!
ちゃんと聞いてね木田さん?
――そう、あれは俺が三歳の時……。寒空の下で俺は一人の天使に出会った…………。
(管理人注:以下延々と晴華についての語り。
時間の都合により省略させていただく事を、深くお詫び申し上げます)
*** ***
・回答その7「森の犬」
ヨッロレッイヒー……って、どうしたんスか木田さん。こんなトコで寝てると杉原の儀式の生贄にされ
ちゃうッスよー?
あ、水飴! いいないいな! それどうしたんスか?! え、くれるの?! わー、木田さん優しいッ
スー! ありがとうございまス!
むぐむぐ……。で、どうしたんスか? はぁ、気にすんなって云うなら深くは聞かないッスけど。
え? 俺に聞きたい事がある? いいっスよー! どんどん聞いてください!
晴華ちゃんの事どう思う?
かっこいいッスよ! 男前ッスよねー! 木田さん、晴華ちゃんの弾丸シュート見た事あるッスか?!
すっごいんスよ!
キャプテンの顔がギャグ漫画みたいにへこむくらいのシュートっスから!
あれ、木田さん顔青いッスよー? やっぱ保健室いきまスか? 平気? じゃぁいいっスけど。
あー、でも晴華ちゃん。ちょっと……っつーか、けっこー無神経なトコあるんスよねぇ。そこさえ治れば
俺は云う事無しなんスけど。ほら、黒川の事とかー……。
え? 木田さん……、もしかして、知らない?!
……わー! 今俺が云った事忘れてくださいッス! いえ! 黒川の信頼裏切れないッス! 俺と黒
川の友情のために忘れてください!
……、ふー。あっしたー、木田さん! 危なく黒川に友達の縁切られるとこでしたよー。
えっと、まぁ晴華ちゃんって思った事そのまま云っちゃうじゃないスか。バカとかアホとか変態とか犬と
か。他に云いにくーい本当の事とかサラっと言っちゃうしー。他人の目に対して無頓着すぎッスよね。
え? お前が云うなって? 酷い! 俺は晴華ちゃんみたいに無神経じゃないッスよー! そりゃちょっ
と口は軽いし、黒川には「もっとよく考えて言葉を発せ」とか郭には「天真爛漫は悪い事じゃないけど、
厚顔無恥は結構痛いよ?」とか云われてますけど!
ちょ……なんで木田さん泣いてんスか?! やっぱ保健室行きます?!
*** ***
・回答その8「ダメ王子」
あれ、木田さん? どうしたんですか、随分やつれて……。は? ようやくマトモそうなのに会えたって……。
――この選抜、マトモな奴の方が少なくないですか?
いえ、あの……。俺もまぁ、そこは嘆きたいところなんですけど。桜上水が妙に懐かしくなりますしね……
ははは。
え? 俺に聞きたい事が? えぇ、俺で答えられる事でよかったら。
……。……は?
えーっと、もう一度云って頂けますか?
……。
――鳴瀧をどう思ってるかぁぁぁ?
んなもん、ライバルに決まってる! あの雌雄同体野郎、俺の目の前で風祭掻っ攫いやがって……!
昔っからそうなんだよアイツ! 人の気に入ってるもん目の前で盗って行きやがって! あの時もあの
時も、それからあの時も……!
がー! 思い出したら腹立ってきたぁッ!
風祭はあんなののどこがいいって云うんだ?! ガサツで乱暴で粗野で暴君で無神経な奴なのに!
いいところって云ったら顔と仕事が早いってだけじゃないか!
木田さんもそう思うだろう?! 思うよな?! 思うなやっぱり!
ちょ……、待て木田さん! 話を振っておいて逃げるって言うのはどう云う事だ! 戻って来い!
*** ***
・回答その9「猪突猛進FW」
おー、木田じゃねぇか。全力疾走してどうした? 何かやらかしたかぁ? うひゃひゃひゃ。
は? 普段大人しい奴が切れると怖いって?
まー、そりゃぁなあ。水野辺りとかヤバそうだよな! って、何目ぇ逸らしてんのお前?
あん? 丁度いいってなんだよ。は? 俺に聞きたい事がある? お前が俺にねぇ……。まぁ云って
みろよ。
はー、晴華をどう思ってるかって? そりゃぁまぁ……。
……おっかねぇよなぁ、正直。
だってよぉ、普通初対面の人間の顔面に飛び蹴りかますかぁ? 下手すりゃ死ぬぞ。アイツは「龍女
に手ぇだす野郎に容赦はしねぇ!」とか云ってっけど。
……容赦無さすぎだろ。もう少しヤサシサってのがあってもバチあたんねぇと思うぜ、俺。あ、木田も
思うか?! だよなぁ。
別によぉ、龍女が大事だっつーのは悪い事じゃねぇけど、龍女に近づく奴は問答無用でぶっ潰すっ
てのはどう何だよホント……。……そう考えると小岩って偉大だな。
しっかし、あの時の俺、よく前歯も鼻も折れなかったよなぁ……。褒めろよ。称えろよ丈夫な俺を。い
や、頭撫でろなんて云ってねぇから。
ま、おっかねぇけど、悪い奴じゃねぇとは思ってるぜ。なんだかんだ云って気ぃ合うしな。
え? あぁ、俺こう見えても晴華と仲いいんだぜぇ。ほら、設楽と同じガッコじゃん俺。それもあんの
か? 設楽と晴華って幼馴染らしいから。
今でも龍女とチビに近づくと睨みつけてくんのは心臓に悪ぃけどな……。あれ、やめるように木田か
ら云っといてくんねぇ?
え、だってお前の云う事は結構きくじゃねぇか、晴華の奴。渋沢の云う事は全然きかねぇのになぁ。
ひゃっひゃっひゃっ。
――お前、相当気に入られてんじゃねぇ?
*** ***
・回答その10「クラッシャー」
木田。どうした。木のように立ち尽くして。
何? 信じられない話を聞いた? ふむ。そうなのか。じゃぁその話を忘れればいいのではないか?
信じられないなら信じなければいいのだから、いつまでも拘っていても無駄だろう。
……むぅ。よくわからんな。まぁ、悩むのは悪い事ではないだろう。思う存分気が済むまで悩み考え
るといい。
それじゃあな。……何だ? 俺に聞きたい事がある?
ほう。珍しい事もあるのだな。統計的に見て、お前が俺に聞きたい事があるなどと云う確立はほぼ
ゼロパーセントだ。興味深いな。なんだ。云ってみろ。
晴華をどう思っているか?
アレは俺の生涯初めての親友だ。それだけだな。
何? ……しかしそれ以上云いようがないのだが。
あいつが犯罪を犯そうと、性転換をしようと、死のうとも、俺と晴華は親友だ。それだけだ。
……もういいか? そうか。それじゃあ俺は行くとしよう。
何、先ほどから杉原が理解できない行動を起こしていてな。それを検証しに行くのだ。ん、行くな?
そうは行かない。
知的好奇心を無くしては、俺は俺で無くなってしまうからな。
*** ***
・回答その11「東京選抜の良心」
よ、木田! ぼんやりしてどうしたんだ?
あ、不破? いや……、俺もあいつはよく分かんないけど。鳴瀧と仲いいのかって? いいんじゃねぇ
かな? よく喋ってるとこ見かけるぜ。
つーか、さっきから何してんだお前。え、そりゃ見てたって。つか目立ってた。他のヤツより半歩下がっ
て他人を立てるお前が珍しいなーってさ。……え、俺にはそう見えるけど。違ったか?
ふーん……、鳴瀧をどう思ってるか、なぁ……。
俺? いや、俺は特には……。あんまり喋らないしさ。
あ、でも、あいつの作るドリンク美味いよな。ダッシュしてばてばての時に飲むと、まだまだやれる! っ
て思えるし。後洗濯も上手い。いつもタオルふっくらだし。
あぁ見えて家事とか得意なのかもな。渋沢辺りから、料理もいけるって聞いたし。
礼儀とか縦社会の常識とか真っ向から無視してるけど、有能だよな。
見てて面白いし。あ、そう考えると……俺って結構、鳴瀧の事好きかも。別に変な意味じゃなくて。だっ
て俺ホモじゃないし。
……あ、鳴瀧って女だったっけ……。
うわ、悪い、ごめんって! いや、まぁ、俺が悪いけど。鳴瀧の生活態度も悪くねぇ? 俺、今みたい
にマジで性別忘れる時あるぜ?
でもアイツの場合……。男らしいとかそう云うんじゃなくて、性別ないっぽく感じるよなぁ……。そうそう、
無性ってやつ。
――ま、そんな訳ないけど。
*** ***
・回答その12「サイドスナイパー」
……。
ん、あれ、あ、木田かぁ。よっす。へ? 何ぼうっとしてたって? あー……。
別に何でもないって。気にすんなよ。……心配性だなぁお前も。なんかあったら相談するってほんと
に。オレ、自分だけで悶悶と悩むのって好きじゃねーし。
で、どうしたよ。いや、お前が。なんかさっきから忙しそうにしてんじゃん?
へぇー。ふんふん……。晴華なぁ……。
タイプ的には苦手。遠慮なしでズバズバ云ってくるのって、結構さぁ、云われる側はキッツイじゃん?
晴華も悪いヤツじゃないけど、遠慮しないって云うか、労わる言葉少ないって云うか。
あ、苦手だけど嫌いじゃないって。むしろ好きな部類かも。
いや、何つーかさぁ……。うーん? あ、そうそう。やっぱノリいいから喋ってて面白いし、過激な事
やらかしてくれるから見てる分には楽しい。
ま、上原と一緒に居る時は、晴華と居ても別に平気だし。一対一だったら? あー……、どうだろう
なぁ。なった事ないし。ま、そんな変わんないとは思うけど。
ただやっぱ、普段は上原のお陰で楽しんでられるっつーのはあるかも。オレ一人で晴華の横暴見て
たら恐慌状態に陥る自信があるね。あ、胸張って云う事じゃないな、わはは。
上原……。そうだよなぁ、上原のお陰、なんだよなぁ……。
……はぁ。
あ、うんうん。なんでもねーよ? そだ。木田、上原見てね? あ、そう……。じゃぁちょっと探して来
るわ。
え、何? ……ああ、オレが晴華って呼ぶ理由? あー。ま、いいじゃん。気にすんなって。大した
理由じゃないし。
上原見かけたら、サクちゃんが探してたって伝えといてくれよ。じゃな。
*** ***
・回答その13「感知者」
はー……。茶が美味い……。
……。
あ、木田か。どうしたんだよ。何? 縁側の老人みたいだって? ソレ失礼だよお前……。まぁいい
か。木田もどうだ。黒川がくれたんだけど、美味いぜこの茶。ん、玉露だってさ。あいつ、さり気にいい
もん持ってくるよな。どんな家に住んでるか気になる。
で、どうしたんだよ。改まって。
鳴瀧をどう思うかって? そうだなぁ……。
初めて接するタイプだな。女で。
あ、男でもああ云うタイプいなかったけど。こう、過激って云うか、派手って云うか。そのくせ細かい
ところ気が付くし。
あっちも明け透けな態度で接してくれるから、こっちも接しやすいよな。風祭があんなに懐くのも頷け
るかも。
え? ああ、だってそうだろ? なんかあの二人、付き合ってるって云うより、風祭が懐いて、それを
鳴瀧が守ってるって感じだぜ。保護者と被保護者? いや、対等っちゃぁ対等なんだけど。
なんか、ズレを感じるんだよなぁ……。いや、俺の勘違いって事もあるけど。ただな。うん。鳴瀧って
さ、明け透けで裏表ないんだけど、一線引いてるよな。
完全な拒絶じゃねぇの。姿は見えてんのに、近づけないって云うか。ほら、イエローテープでキープ
アウト、みたいな。触れそうな位置なのに、一歩届かないっつーか。解りづらい? そっか。悪いな、
説明ベタでさ。
ま、悪いヤツじゃないし、友達としては文句ないぜ。
俺に言えるのはそんだけ。
*** ***
・回答その14「素黒帝王」
あっれー、木田じゃーんっ! へへへー、こんなところできぐーきぐー!
え、俺を探してたのー? え、え、嬉しいー。何々、俺に何か用ー?
ん? 鳴瀧ちゃんの事どう思ってるかってー? え、どうしたの木田……。そんな事聞いてどうすん
のさー?
……ふんふん、風祭がねー。あいつもけっこー心配性だなー。ま、そう云う事ならお喋りしちゃうか
なー。
俺はねー、鳴瀧ちゃんの事大好きだよー。友達友達。友達は大事にしなきゃなー。何かさー、鳴瀧
ちゃんに会うまで男女の友情って有り得ないよなーとか思ってたんだけどー、鳴瀧ちゃんとなら友情
築けそうな気がするんだよねー。
ほら、鳴瀧ちゃんってあけっぴろじゃーん? だから話やすいし面白いし楽しいし! なんかもう、
男だろうと女だろうと関係ないって感じー? 鳴瀧ちゃんは鳴瀧ちゃんだしー。
ほんっと見てると面白いよなー。郭の事ぼっこぼこにしてる時とかー。マジうけるー。え、笑っ
てないで助けろってー? だってあれが二人のスキンシップだろー。部外者の俺が邪魔しちゃだ
めじゃんなー?
あ、そーだ。桜庭に会ってない? ……え、あ、そう……。桜庭、俺、探してるんだ。
ふーん……。
あ、なんでもないよー。うーん、ちょっとはあったけどー、そんな大事じゃないしー。どうにもならな
かったら木田に相談するからー。うん、じゃぁまた後でなー。
…………勝手な事云ってんじゃねぇよ、馬鹿サク。
*** ***
・回答その15「黒魔術師」
(※管理人による規制が入りました。音声遮断します)
――――。――――。――――。
(※音声再開)
……。ん、あれ? 木田さん? ふふっ、こんにちは。いいお天気ですね。
え? 何やってるのかって? ふふふ、……きっと、知らない方が長生きできますよぉ? はい、
そうです。木田さん、賢い選択なさいましたよ、ふふふ。
それで、ぼくに何か御用ですか? 木田さんのお願いでしたら寿命三年くらいで手を……。え、
そう云う事じゃない? なんだ、早く云ってくださいよ。つい儀式の準備を……げふん。
で、僕に何をお求めですか? 聞きたい事……ですか。ええ、僕に答えられる範囲でよかったら、
何でも聞いてください。
はい、はいはい、はい……。はぁ、なるほど。鳴瀧さん、ですか……。
そうですね……。まぁ恋敵には違いないんですけど、嫌いと云う訳ではないですよ。面白い人です
しね、ふふふふふ。ああ云う愉快な人が周囲にいるのって、運がいいですよね。
ええ、嫌いじゃないですよ。本当です。まぁ確かに、カザ君の事を思うと少し、ね? でも、それだけ
でその人の人格全てを否定するって愚かしいじゃないですか。
せっかくあんなに愉快な人なのに。
何よりも、あの郭相手に殴る蹴るの暴行をしてくれるのは鳴瀧さんくらいですし? あぁ、本当に
愉快ですよふふふふふ! あの郭が! あのいけ好かない郭英士が! あんな無様な姿をさ
らしてくれるんですからね! ふふふふふふふふっ! 鳴瀧さんにはいくら感謝してもしたりないで
すよ本当に!
まぁそれに。龍女ちゃんを今まで守ってくれた事にも感謝してますし。鳴瀧さんがいなかったら、
今の龍女ちゃんはないと思いますから。これからは、ぼくと小岩君が龍女ちゃんを守りますけど。
そう云うわけです。嫌いじゃないですよ、本当に。
本当に、ね――
―――ふふふ……。
*** ***
・回答その16「ヘタレ姫」
あれ……。木田さん、真っ青な顔してどうしたんだ?
悪魔を見たって……。あ、うん、深くは聞かない。つか聞きたくない。云わないでくれ。だって、
絶対ろくでもない事だし。
それじゃぁな木田さん。……え、俺に聞きたい事? う、うん、まぁ、いいけど。
晴華? いきなり何、木田さん……。ま、まぁいいけど。
いいやつだと思う。人の事からかってくるし、よく足出るし、やる事過激だけど……。でも何だか
んだ云って、面倒見いいんだよな。親戚に小さい子が多いからだと思うけど。
……え、ああ、そうだよ。木田さん知らなかった? まぁ俺も本人から聞いたわけじゃないけど。
えと、…………はるねぇから聞いたから……。……なんだよっ、その微笑ましいそうな顔! 頭
撫でるな!
ったく……。え、あぁまぁ。はるねぇともそうだけど、晴華とも幼馴染だし。いや、そんな驚くなよ。
知らなかった? そりゃぁ、別に大声で吹聴する事じゃないから。うん、だけどまぁ、そう云う事だ
から。付き合いなら俺が選抜で一番長いかも。あ、龍女除いて。
昔の晴華? え、話題それてないか木田さん。まぁいいけど……。
今とそんな変わらないかなぁ……。でも、昔の方が過激だったかも。悪戯とか、洒落にならない
ヤツの方が多かった……。
え、気に入らない大人に豚の■■ぶちまけたり、通り道に落とし穴掘って吸血蛭入りの泥
流し込んで置いたり、靴の中に腐った■■■詰め込んだり……。
あ、ごめん。いや、でも、ほんと、そんなヤツばっか。俺は手伝うの凄い嫌だったけど……、笠
井とか設楽は率先してやってたなぁ……。
今の方が大人しいって、絶対。気に入らないヤツでも蹴っ飛ばすだけだし、大人相手に悪戯
もしなくなったし。
まぁ本質は変わってないと思うけど。うん? だから。懐に入れたやつにはとことん甘いけど、
敵認定したヤツにはエゲつないってところ。
*** ***
・回答その17「弾丸ウィング」
あ、木田さんちーっす。もうすぐ練習再開するって監督が……。
は? 俺に聞きたい事がある? 俺でよかったらバシバシ聞いてくれよ!
……鳴瀧をどう思ってるか? なんで鳴瀧の素行調査なんかしてんだよ、木田さん。そう云うん
じゃなくて? ……。ま、別にいっか! 木田さんなら鳴瀧に悪い事しないしな、絶対!
そうだなぁー。……俺は鳴瀧の事、ダチだと思ってるけどな。鳴瀧はどう思ってるか知らないけ
ど。
ほら、俺さぁ……。…………龍女を鳴瀧から取り上げたわけだし……。
いや、俺も龍女もそんなつもり、全然ないぜ? 龍女は鳴瀧の物じゃないんだし、龍女は龍女の
もんだしさ。でも、鳴瀧にとってはどうかなーって。
今でも龍女とはたまに話すぜ。それでも、俺は龍女とつ、付き合う事、全ッ然後悔してないけど。
鳴瀧はさー……なんつーか、視野狭いよな、多分。器はデカいと思うんだけど、懐は狭そう。
ダチも広く浅くじゃなくて、狭く深くだろうしなー。
ん? ああ、龍女に聞いたんだけど、鳴瀧友だち少ねぇらしいから。
学校だと男からは怖がられて、女からは敬遠されちまって、平然と近くに居られるやつ、少ない
んだってさ。
俺は怖くないけどな、別に。すぐ足出たり、龍女や風祭のためなら鬼みたいになるけど、基本
的にいいやつじゃん? 学校の奴ら勿体無いよなー。
あんないいヤツが同じ学校にいんのに、仲良くなんないなんてさ。
……どしたんだ木田さん。え、涙もろくなった? ちょ、年なのか木田さん!
*** ***
「木田さーん」
「風祭」
片手ふりふり、軽い足取りで風祭は木田へと駆け寄ってくる。その顔は満開の笑顔で、我知らず
木田も口の端に笑みを浮かべていた。
色色な意味で疲れていたが、風祭の笑顔を見ると不思議と心が安らいだ。
しかし次の風祭の言葉で、
「皆、晴華さんの事どう思ってました?!」
安らいだ心がすぐさま疲労した。
(ああ……今まで聞いた話を、今度は俺が風祭に聞かせるのか……)
遠くを見る目と同じく、心も遠くへ行ってしまいそうだった。だが目の前に、ちょこりと首を傾げて此
方を見上げる風祭が居るので現実逃避も出来やしない。
「木田さん?」
「……」
木田は無言で、黙秘は無理だと早々に白旗を挙げた。
惚れた相手でなくとも、下心なくとも、風祭の笑顔に勝てる人間は滅多に居ないだろう。
居たとしたら。そいつはどっかがおかしいか、よっぽど惚れた相手がいるかのどっちかに違いない
と木田は勝手に決め付けて、訥々(とつとつ)と語りだした。
話を聞いた順番に、全てではなく、要所を掻い摘んで話した。
「――そう云うわけでな。鳴瀧を風祭と同じ意味で好いているのは郭だけで、後はまぁ……友人だと
思っているようだぞ」
要所とは云ったものの、さすがに杉原あたりの過激――と云うか、危ういと云うか――な発言は伏
せておいた。云ったところでどうなるものでもないだろうし、何より、木田の身が危ないからだ。
「そうですか……」
風祭はホッとした顔になって、それからほんわりと柔らかな笑みを浮かべた。
恋人に横恋慕している相手がいないと分かれば――郭は論外なのだろう。色色な意味で――、心
底安心した笑みも浮かべたくなるだろう。
そもそも、鳴瀧相手に横恋慕をするような猛者がいるとも思えないのだが、懸命な木田は黙ってい
た。
「……――ところで、木田さん」
「……何だ?」
突然、風祭の声が硬くなった。
いつものほんわかした陽だまりのような声ではなく、ピンと張った糸のような。
そんな声に、木田の元から硬い表情がさらに硬くなる。
「黒川くんは……何か云ってましたか?」
「黒川?」
何故そこで黒川なのか。木田には理解出来なかったが、風祭はやけに真剣な顔をしている。
首を傾げつつ、風祭の問に答えるために黒川の言葉を脳内で反復した。
「確か……鳴瀧の事を好きと云っていたが――」
ピクリと、風祭のこめかみが痙攣したが、木田は気付かない。
「何やら、やけに周囲を警戒していたし」
「……それから?」
「それから……」
――あいつが天使だなんて誰が言い出したんだ、詐欺だ、クソッ……!
「あいつが天使だなんて誰が言い出したんだとか、詐欺だとか云っていたような…」
そこまで云って、木田ははっと正気に戻った。その言葉は忘れてくれと、黒川に云われていたのに、
つい云ってしまった。
(まぁ、風祭にならば云って、も……)
心の中で呟いていた言葉が、徐々に消えて行く。
ゾワゾワと鳥肌が立ち、不自然に体が震えた。云い知れぬ悪寒と腹の底から感じる恐怖に、木田は
戦慄した。
そろりそろりと、悪寒の発信源に目を向けると。
「へぇ……、そうなんですかぁ〜、黒川君ってばそんな事を……」
ニッコリと大きな笑みを浮かべている風祭が居た。
その笑顔は普段の愛らしくも爽やかな物では無く、見た者の心に多大なトラウマを植えつけそうな、
酷薄な笑みだった。
*** ***
「それじゃぁ木田さん、また後で!」
清々しい笑みで風祭は去っていく。先ほどの壮絶な笑みとは打って変わって、皐月、薫風のような笑
顔だった。
のんびりした足取りの風祭の背中を見ながら、木田はそっと冷や汗を拭う。
ひょっとして――多分――いや、間違いなく。
この選抜で一番怖いのは、椎名でも、渋沢でも、郭でも、杉原でも、西園寺監督でも、鳴瀧でも、上
原でもなく。
この小さな小さな『切り札』ではないのかと。
木田は悟った。
「あ、そうだ木田さん!」
突然その『切り札』が、くるりと此方を振り向いた。ギシリと木田は静止したが、風祭は気にした風
でもなく、笑顔のままで云う。
「木田さんは、晴華さんの事どう思ってるんですか?」
その質問に、木田はしばしキョトリとした。
そう云えば自分は、鳴瀧をどう思っているのだろう。
口も悪ければ手も早い。手だけならばまだしも足も出る。目つきが悪ければ態度も悪く、斜に構え
てはいないが、真っ直ぐでもない。好きなものは好きだと大声で云って、嫌いなものは嫌いだと視界
にさえ入れない。
さて。そんなマネージャーを、自分はどう思っているのか。
首を傾げて十秒後、ふと思いついた言葉を、木田はそのまま口にした。
「手のかかる――妹、だな」
男ではないから弟ではない。後輩と云うには他人行事過ぎ、マネージャーだと云うには手が掛かり
すぎる。
ならば。
妹。
なのだろう。
木田の返答に風祭は満足げに微笑むと、足取り軽く、少しばかりスキップ交じりで今度こそ去って
行った。
*** ***
それから数日後。
「木田さんの嘘つき! もう木田さんには菓子作ってきてやんねぇからな!」
痛々しく腫れあがった左頬をガーゼで保護した黒川が、七割方泣きの入った顔で木田に縋って
そう叫んだ。
木田はとにかく黒川を宥めたが――原因は自分にあると、きちんと反省していたりする。
何故ならば黒川の遥か後方にて、”天使”がにっこりと――
……壮絶な笑みを浮かべていたのだから。
了
加筆修正2009/07/23
