鬼灯の約束。 序、「絶対唯一の。」



 それは、純粋な願いだったのか、それとも、歪な祈りだったのか。
 誰にも分かりはしないし、分かって欲しくもないのだろう。
 何故なら彼は、ただひたすらに満足していて――
 同時に、奈落よりも深く、後悔していたのだから。


 *** ***


 ――お守り致します。全てのものから、お守り致します。
 ――全てです。そう、全てからですよ。

 ――貴方を泣かせようとする者が居たら、百倍は泣かせ返してやります。
 ――貴方を傷付けようとする者が居たら、半殺し以上全殺し未満にしましょう。

 ――人間からだけではありません。
 ――貴方が病に罹ったならば、どんな手を使ってでも治療します。
 ――どんな災害が襲いかかろうと、その御身、守り抜いて見せます。
 ――貴方に逆らう獣は許しません。処分しましょう。

 ――お守り致します。
 ――全てのものから、貴方を傷付ける全てのものから、守ります。

 ――絶対です。必ずです。違える事など有り得ません。貴方を守る事は、必然です。当たり前です。
 ――だから、何の心配も不安もありません。
 ――俺が守るのですから、大丈夫です。

 ――え? もし守り切れなかったら?
 ――そんな事は有り得ませんよ。俺が守ると云ったら守るのですから。

 ――絶対なんてあり得ない? 何を仰います。
 ――世界の常識も世の道理も摂理も理(ことわり)も関係ありません。
 ――そんな物に縛られるような”物”に俺が見えますか?

 ――貴方の為ならば、全てを捻じ曲げて見せましょう。
 ――世界の常識も世の道理も摂理も理(ことわり)さえも壊します。
 ――そんなもの、貴方を守るためならばどうでもよい事です。
 ――神も仏も、切り捨てて、全てが全て、貴方の為に。

 ――貴方を守る、為だけに。
 ――貴方だけは、絶対に、守り抜いて御覧に入れます。

 ――だから、信じて居て下さいね。
 ――俺を、棄てないで下さいね。
 ――尽くしますから、守りますから、全てを差し出しますから。


 ――俺を側に、置き続けて下さい。


 *** ***


 誓いを。誓いを。ただひたすらに、誓いを。
 守ると。守り抜くと。何を犠牲にしても、この体と魂の全てを掛けて守り続けると。
 誓いを、ただひたすらに、誓いを立てた。
 立て続けた。
 ただひたすらに。
 それだけを。
 それだけを――ただ、ひたすらに。