事の始まりは、そう、いつもの事。六年生の先輩方の”じゃれ合い”だった。
 武器を使った実戦さながらのお遊び。危険だと分かっているので下級生は避難させ、僕ら上級生は
勉強になるからと攻撃有効範囲外から眺めるんだ。
 僕も三郎たち同級生と屋根の上に並んで座って、先輩達の戦う様を眺めて、あの武器は有効だとか、
死角を狙うのが上手いとか、自分ならこうするとか、論議……いや、雑談をしてた。
 いつもの事。だけど、そのいつもは、些細な事で崩壊してしまう物なんだ。
 それを知っていたのに、僕たちは油断した。
「……騒がしいな」
「何だろうねぇ?」
 子供とは思えないような平坦な声と、聞きなれた少し高い声。
 驚きと共に声の方を見てみれば――親しい後輩の乱太郎と、見慣れない子がトイペを抱えながら、
こちらへと歩いて来ていた。
 何と云う最悪の頃合いで来るのか!
 呆けてしまった一瞬が命取り。乱太郎が抱えていたトイペが一つ落ちた。それを自ら蹴り飛ばしてし
まい、トイペは外へと転がり落ちる。慌てて追いかけた彼の目の前に、
 火の付いた焙烙火矢が投げ込まれた。
 六年生が叫ぶ。僕らも叫んだ。導火線はもう短い。乱太郎は突然の事に硬直している。
 屋根から飛び降りて駆けつけても間に合わない。苦無で弾き飛ばした所で、爆発の余波は確実に受
けてしまう。そうやっていつものように迷ってしまったから――僕は、最悪なんだ。
 何でもいいから飛び出せば良いのに。余波で済むなら苦無を投げれば良かったのに。迷ったまま何
も出来ず、事態を見守る事しか出来ない。
 大事な子が大怪我を――下手をしたら命を落とす最悪な状況。自分の愚かさに絶望する隙すらない、
長い長い一瞬。
 そこへ、水色の影が躍り出た。乱太郎と一緒にトイペを運んでいた子だった。
 乱太郎の前へ、まるで庇うように飛び出したその子に、またもや血の気が引いた。だけど、僕らが叫
ぶより先に、その子は残像を見せる速さで真横に手刀を振るい―――

 焙烙火矢の導火線を、叩き斬った。

「は?」
 その場に居た誰もが、異口同音に口にした。
 そんな、まさか。
 確かに、鋭く振るわれた手刀は、時に本物の刃に近い切れ味を持つと聞いた事はあるけれど。それ
を、一年生がやるだなんて! 信じられない。でも、事実、導火線は切断され、爆発は未遂に終わって
いる。
 爆発するはずだった焙烙火矢は、そのまま地面に落ち、幾度か跳ねて、まるで己の役目を果たせな
かった事をいじけるかのようころころと静かに転がって、停止した。
 切断された導火線はぢぢぢ……と小さな音を立てながら、今燃え尽きようとしている。
 静まり返る場に対し、何の感慨も興味も無いのか。その子は死んだ魚のように虚ろな目をしたまま、
綺麗な顔に曖昧な笑みを浮かべて乱太郎の側へとしゃがみ込んだ。
「乱太郎、怪我は?」
「ない、よ。……は、はるかは?! はるかは、けがない?!」
「私も無いよ」
 導火線を叩き斬った手が、優しく乱太郎の頭を撫でた。
 それから、悲痛な顔付になり、ぎゅぅと乱太郎を抱きしめる。
「……乱太郎が無事で、良かった……」
 心底安堵したような声に、ずきりと胸が痛んだ。あの子の事は、よく知らない。けれど乱太郎と親し
い間柄の子なのだと、見れば分かった。
 どれだけ怖かっただろう。友達の前に焙烙火矢を投げ込まれたなんて。普通なら、恐怖に固まり、
身動きが取れなくなってしまうだろうに。
 その子は、我が身を呈して友達を救ったのだ。
 それを思うと、自分はなんと不甲斐ない存在なのか。迷うだけで何も出来ず、後輩が傷付く様をた
だ眺めていただけの、役立たず。
 乱太郎の耳元でその子は何事かを囁く。困ったような顔になった乱太郎は、それでも一つはっきり
頷いた。その子が乱太郎に背を向けてしゃがみ込み、少し遠慮しながらも乱太郎はその子の背に乗っ
た。
 外傷はなくとも、心は恐怖に傷付けられたに違いない。大人であっても腰を抜かして当然の状況に
居たのだ。それを分かっての行動にその子の優しさを見て、僕はまた胸が痛んだ。
 無言で立ち上がったその子は、虚ろな目を六年生へと向けた。一年生の視線に、先輩方が怯んだ。
けれど僕は、それを馬鹿にする気にはなれなかった。いや、この状況であの子から目を向けられた
ら――無条件で土下座して謝っていたかも知れない。
「先輩方。私は乱太郎と医務室に戻りますので」
「あ、は、はい……」
「……申し訳ないのですが、そこのトイペを拾い集めておいて頂けますか? 補充は後で私がやりま
す。まとめて廊下の隅にでも置いて下さい」
 乱太郎を助ける為に、トイペを投げ捨てて飛び出したのだろう。その程度ならば、当然の要求だ。
 それからふいに、その子の目が、鋭くなった。細く、鋭く――まるで、刃のような、冷酷さすらも感じ
る目付き。虚ろな目に光が差した。青い色と相まって、まるで、氷のようだ。
 青い目――嗚呼、晴次と同じ色だなどと考えた僕の耳に、幼子とは思えない、冷え冷えとした声が
届いた。
「それと――仲が宜しいのは分かりますが、視野は広げて下さい。もしまたこのような事があって、乱
太郎を傷付けでもしたら」
 口元に、笑みが浮かんだ。いや、あれは、笑みなんてものじゃない。嘲笑と呼べる物でもない。
 ただ、口の両端が吊りあがっただけの物。無機質な洞(うろ)そのものの動きに、背筋を怖気が走
り抜けた。
「――決して、許しませんから」
 がくがくと震えながら、六年生が頷く。嗚呼、此処で普段の三郎なら「一年生如きに何を怯えている
のやら」と野次の一つでも飛ばすだろうに、今の彼は僕と同じく硬直している。
 声と共に滲み出るのは、確かな殺気。呼吸する事すら痛い、鋭く、重たい感情が、小さな体から迸っ
ている。
 信じられない現実が、目の前にあった。
 鋭い眼差しで今一度六年生を睨み回した後、その子はぱちりと瞬きを一つ。開いた時には、先ほ
どまでの鋭さは消え失せ、元の虚ろな目に戻っていた。
 ぺこりと一度頭を下げて、その子は静かな足取りで去って行く。完全に姿が見えなくなって、気配
も遠くなってから、僕らは一斉に詰めていた息を吐いた。
「なん、だ、ありゃ……」
「本当に、一年か……?!」
「信じられん……! 何、なんだ、あいつ……!」
 八も兵助も、三郎も、思い思いの言葉を吐く。三郎は頭まで抱えていた。そう云えば三郎は、あの
編入生に興味を持っていたっけ。名前、知ってる、かな?
「ねぇ、三郎。あの子って……」
「ん? 一年は組の転入生だよ。名前は鳴瀧晴佳。晴次の親戚っつー話だけど、詳しい事は分から
ん」
 流石三郎。僕の知りたい事を一通り教えてくれた。でも……三郎すら詳しく知らないなんて、どう云
う子なんだろう。
 なるたき、はるか。
 僕はその名前を、胸に深く刻んだ。



 − 切れ味抜群。



 今日も今日とてトイペ補充! 正直、保健室に居るよりトイペ補充してる時のが多いよ私! なる
べく悪臭には近づきたくないんだけどね……! 当番表見ると、明らかに保健室待機よりトイペ補
充のが多いんだよ。一目で分かるレベルで多いんだって! 何だ此れ嫌がらせ?! みたいな。
 何でだよクソウと疑問に思って伊作君に聞いてみたら、
「え、だって晴佳さん、落とし穴にも落ちないし、小平太にも轢かれないし、罠にも掛からない
し……
凄く円滑にトイペ補充してくれるから……」
 との返答が来た。
 そりゃまぁ君らに比べたら、スムーズにトイペ補充出来てるけどさ。君ら一歩歩く度に何かしら不
運を巻き起こしてるもんね!
 しかし、何で伊作君は私をさん付けで呼ぶんだろう……。私も心の中じゃ君付けにしているが、
口に出す時は先輩って呼んでるし、敬語使ってるのに。何か私には遠慮した態度取るよなあの子……。
まさか本能で私の正体悟ってるんじゃないだろうな……?!
 ……まさかね! 乱きりしんとご先祖様の前以外じゃぁ、年齢感じさせる言動しないようにしてる
し。下手に子供っぽく振る舞うより、大人である事を隠す方が上手く行くんだよ、うん。後肉体が若
いから咄嗟の行動は我ながら子供っぽいと思うしね!
 しかし、あの後縋るような顔で人の顔を覗き込み、「い、厭だった……?」なんて聞いて来るとは。
そこで「厭だよ」なんて云えるのは人でなしだろう?! 「厭じゃないですよ」と笑顔で答えた私は
正常だ。乱太郎から「よく云う……」と云いたげな視線を貰ったが、私は間違ってないとも。うん。
 確かに悪臭が死亡フラグの私としては、あんまりトイレに近づきたくはない。だが、伊作君を悲
しませるのも厭なんだよ……!
 私みたいなのを馬鹿って云うんだよね。うん、知ってる!
 まぁそんな訳で、乱太郎を巻き込んでトイペ補充です。え、そんな訳でなんで乱太郎巻き込んで
るのかって? はっはっは――悟ってくれ。受けなかったギャグを説明してる気分になるから。
「後は校庭側のトイレだっけ?」
「うん。そこで終わり」
 何だかんだ云って、乱太郎は本当に良い奴だ……。最初は「えぇー」なんて云ってたのに、途中
からは積極的になって手伝ってくれるし。だから貧乏くじ引くんだぞ、と思いつつ、そこが乱太郎の
良い所だ。
 大丈夫だ。乱太郎が貧乏くじを引いたら、私が手を貸してやっかんな……!
 そんな決意をしている所へ、何やら騒がしい音と声が聞こえて来た。
「……騒がしいな」
「何だろうねぇ?」
 本当にこの学園は毎日騒がしいなぁ。
 元気なのは良い事だが、あんまり怪我すると伊作君とご先祖様が怖いぞ。いや、保健委員全
員怖い事になるぞ。
私もあんまり、子供が怪我するのってみたくないしね。訓練や鍛錬なら仕方な
いとして……喧嘩で怪我とかしやがった日には、「薬の無駄遣いさせんじゃねぇ!」と唐辛子を
擦り込んでやりたくなる!

 何? 喧嘩っ早いお前が云うなって? 私はいつも怪我した時は自己治癒任せだよ! 薬塗っ
た事なんて数えるほどしかないよ! いや本当に自己治癒力が並みじゃないから。リ■ェネが常
に掛かってる状態だから! 腹斬られて内臓傷付いても、自力で縫えるくらいだぞ!

 まぁ実際、自分で自分の腹縫ってたらしこたま怒られたりするんだけど。はははは。
 そんな呑気な事を考えていたら、乱太郎がトイペを落とした。普段、私の手が片方でも空いてい
たら空中でキャッチ出来るんだけど……生憎、私の両手も塞がっている。
 結果、乱太郎は落としたトイペを蹴飛ばしてしまった。……不運!
「あ、待って! ……はるかゴメン! ちょっと持ってて!」
「え? あ、おい、乱太郎!」
 ちょ、この量持つのは今のちっこい身体じゃ無理だって! これ床に置いてもいいよな?!
 そんな事を考えながら腰を降ろそうとした所で、聞こえて来たのは、耳を劈く悲鳴。驚いてそちら
を見れば――
 乱太郎の目前へと迫る、火の付いた焙烙火矢。
 ばッッ―――馬鹿か誰だこの野郎おおおおおおおおおおおおおッッ! いくらこの世界の基本
設定がギャグ漫画
だからって、一年生に向かって焙烙火矢投げるアホ様がどこにいやがるって
あぁ私の目の前にいらっしゃいますかくたばれコラ糞ったれがああああああああああ!
 思い付く限りの悪態を心の中で付きながら、トイペを放り投げて飛び出した。走りながら、対処方
法を考える。
 投げた相手に向かって蹴り返す―― 一番すっきりするが乱太郎が怒る。却下。
 明後日の方向へ向けて蹴り飛ばす――蹴り飛ばした先に人が居たら大惨事。却下。
 自分を盾に乱太郎を庇う――自分が怪我するのは余裕だが、やっぱり乱太郎が怒る。却下。
 乱太郎を抱えて避難――出来るけど、効果範囲が分からんから爆発させるのは拙い。
 それじゃ、水――持ってねぇし!
 風圧――火縄じゃ無理!
 導火線を切断――此 れ だ !
 丁度良かった! 昔隠し芸用に、手刀でビール瓶を叩き斬るってのやったんだよ! あの時
は五本同時に出来たんだから、導火線くらい軽く斬れるはず!
 しゃぁと小声で気合を入れて、あの時と同じ要領で手刀を横に振るう。狙いは火の付いている部
分と付いてない部分の丁度中間。動体視力は並外れて良いからな私は! 宙に浮いてるのだって
余裕で狙いを定められる!
 そして自信をもってやってみれば――狙い通りに切断する事が出来た。よし。よくやった私!
 あの時は私何やってんだ、無駄な特技過ぎるだろとか思ってたけど、やはり何事も後々何らか
の役に立つんだな! 良かった!
 ふぃーと小さく息を吐く。あぁ良かった。爆発させずに済んだし、乱太郎も私も無事! って、あぁ
そうだ乱太郎! あれ、しゃがみ込んで……あ、コケたのか?!
 転んだ拍子に足に怪我して、それで動けなかったのかも知れないと慌ててしゃがみ込む。
「乱太郎、怪我は?」
「ない、よ」
 少しばかり震えながら、乱太郎が云った。……そりゃ、目の前に焙烙火矢来たら怖いわな。いくら
天下の主人公様とは云ってもさ……。
 宥めようと思ったら、乱太郎がハっとした顔になって私を見た。え、何、何? 私何か怒られるよ
うな事したかな?!

「は、はるかは?! はるかは、けがない?!」
 何と云う不意打ち……! ふ、普段は私に対してツンツンツンデレなのに! 「たまには病気
になったらいいのに」とか云うくらいなのに!

 くっそ、根がずんどこ優しいから、私は乱太郎が大好きなんだ!
「私も無いよ」
 乱太郎はこけたかも知らんが、私は導火線斬っただけだし。火が付いてた部分には触ってない
から火傷もなし!
 私の返答を聞いた乱太郎が、ホッとした顔になった。ああああああ、可愛い可愛い超可愛い!
前から思ってたんだけど、乱太郎は私のツボを押さえ過ぎだと思うんだ! 君の一挙一動にお
ばちゃん踊らされっぱなしなんだぜ……?
 うん、とりあえず無事を記念して抱きしめよう。今なら許されるに違いない!
「……乱太郎が無事で、良かった……!」
「えへへ、はるかが助けてくれたから……。……でも、いいの?」
「へ?」
「……目立っちゃってるよ、はるか」
 なんと?! 目立ってる?!
 し、しまったぁ! また上級生に目を付けられるような真似をしてしまうとは……! ど、どうする
私?! 今度は「その隠し芸面白いね! もっと見せろ」とか云われて付き纏われたら……うざ
い事この上ないじゃないか!
 下級生のおねだりは可愛いが、上級生のおねだりは強制イベントに近くて可愛くないから厭
だ!

 よ、よーし。この場は誤魔化して逃げよう! まだ仕事残ってるのに付き纏われるとかうざくて堪
らん! ほとぼり冷めた頃狙って作業再開すればいいじゃん。よし、これで行こう!
「と、とりあえず乱太郎。おんぶさせて。乱太郎を保健室に連れて行くって事でこの場は乗り切る!」
「うん、いいけど……」
 根本的な解決になってないよ、と目が語っていたが、そこは今は考えないようにする! とにか
く、何故か上級生が密集してるこの地域を抜け出す事を優先だ!
「先輩方。私は乱太郎と医務室に戻りますので」
「あ、は、はい……」
 あれ、なんで敬語調? あ、そっか。危なく乱太郎に怪我させる所だったんだもんな。下手にもな
るかぁ。えー、それじゃぁちょっと調子乗っちゃおっかなー。
「……申し訳ないのですが、そこのトイペを拾い集めておいて頂けますか? 補充は後で私がやり
ます。まとめて廊下の隅にでも置いて下さい」
 あ、背中で乱太郎が呆れた気配……。いいじゃん、これくらい頼んだってさー。
 ……ん? 待てよ。私、一言くらい注意した方がいいのかなぁ。友達に怪我させられそうになった
んだし、このまま無言で立ち去ったら、「あいつ、友達が怪我しかけたのに何も云わなかったんだぜ。
冷たい奴」と云うレッテルを貼られてしまうかも知れない!
 それは断固阻止! いや、私だって怒ってはいるんだけど、怒り100%とかにはならない性質(たち)
なんだ! 変に冷静になっちゃうんだよ私の脳みそって……!
 こんな私の性質のせいで、乱太郎との間にある友情を疑われるなど許せん。よーし、ちょっと
注意してから行こう! そうしよう!
 えーっと、私は一年生だから、丁寧に、失礼にならないように……でも友達怪我させたら怒るぞ!
的なニュアンスで……
「それと――仲が宜しいのは分かりますが、視野は広げて下さい。もしまたこのような事があって、
乱太郎を傷付けでもしたら――決して、許しませんから」
 こんな感じ?! こんな感じか?! 外見年齢が幼いと言葉一つにも気を使うぜ、ふぃー。
 ……よし、「一年生が生意気だ」とか云い返してこないし、大丈夫そうだ! うん。目にちょっと怒
りを見せたのも効果あったかな? ここでの私って「怒らない大人しい子」だし、そう云う人間が怒
るとびっくりするもんだし、「あの子を怒らせるくらいの事をしてしまった……」って思ってくれるだろ
うし! 上手く行ったな!
 乱太郎をおぶったまま頭を一度下げて、元来た道を戻る。残りトイレは一か所だけだし、乱太郎
はそのまま保健室に戻って貰おう。元々私の我が侭で連れて来ちゃった訳だし……って。
 あれ? そう考えると、この騒ぎの原因って私? ……いやーん、変な所に気付いてしまったよ!
くそう、気付かなければ六年生のせいって思い込めたのにぃ。
 まぁ、気付いてしまったのならば仕方が無い。今さら戻って撤回なんて事はしないが、今度あの子
らに会ったら少し優しくする事にしよう。うん。
「はるか、重くない?」
 遠慮がちな声が、耳元でした。変な所に気を使うんだからと小さく笑う。
「凄く軽い。もっと太った方がよくないか乱太郎?」
「えー? そんなに軽い?」
「今度私のおやつあげるよ。お詫びも兼ねて」
「おわび?」
「私のせいで怖い目にあわせちゃったしさ。……ごめんね、乱太郎」
 六年生には撤回しないが、乱太郎にはちゃんと謝るよ。友達だし。
「何であやまるの? はるかは悪くないよ?」
「私が一緒にトイペ補充して、なんて頼んだから……怖い思い、させちゃったし」
「それはそうだけど……。トイペを落としたのはわたしだし、焙烙火矢を投げたのは先輩でしょ。そ
れに、はるかはちゃんとわたしのこと助けてくれたじゃない」
 ぐりぐりと、乱太郎が頬ずりをしてくる。お、おお? 何だ、どうした乱太郎?!
「それに、はるかが居たから怖くなかったよ。ぜったい助けてくれる、って思ってたし!」
 えへへ、と乱太郎が笑う。それから、「あ、これって甘えかな?」なんて云っていたが、気にする
事はない! 乱太郎は幾らでも私に甘えてOKだとも!
 あぁ顔が熱い。まったく乱太郎ときたら、私の事を信用しすぎじゃないか?
 でも、嬉しいなぁ。信じて貰えるって。
 嬉しいなぁ。
「うん。私、絶対に乱太郎を守るよ」
 それが此処に居る意味だと、思うんだ。



 了


 晴佳と乱太郎は仲良しこよし!←
 相変わらず誤解を振りまいているな晴佳さんよ……。晴佳的には「ちょっと怒った」でも、プロ暗
殺者歴云々年の人の怒りは学生にとっては身の毛もよだつ殺気に等しいですよ!

 アンケートで予想外に見てる人が多かった晴佳落乱……。え、ホントに? と思うレベルで票
が入っておりました……。

 だって感想なんてオンオフ合わせて二回しか貰った事ないのに!← え、本当に読んでいただ
けて……と云うか、読んでる方は何が目的なのでしょうか?!(おい)
 凄い俺得なのに!(自覚ありか)


 執筆 10/03/11