*性描写があります。十八歳未満閲覧禁止です!














【夜終[よすがら]の惑い】


 身体が熱い──どちらの体温かなんて、わからない。
 身体が重い──のしかかる重みのせいなのか、内側から滲む疲労感な
のか。
 くちゃり ぬちゃ  ぐちゃ ──── ぐちゅ
 擬音にするなら、多分これが一番近いのだろう、粘く重い音が部屋に
こもる。嬌声よりはるかに生々しい。吐き出し吐き出された白い汚れは
お互いの下肢をこれでもかというほどに濡らして、切れていないのが
いっそ不思議なほどにまで拡げられたソコは赤黒い怒張に蹂躙[じゅう
りん]され続けて痙攣[けいれん]じみた動きで迎え入れている。
 意識が飛びそうなのに、ひどい酩酊感の中でもまだ沈まない理性を自
覚して、金吾は何故か笑いそうになった。
「……せ  ぱ、い……」
 呼べば口を吸われる。年の差は、体格の差で、当然のように口の大き
さも違うから、まるで喰われるような錯覚を覚える。唇全部を覆うよう
に、呼吸も何もかも奪うように、角度を変えて、舌を絡め取る。差し込
まれるそれに応えることを覚えたのはいつだっただろうと、ぼんやり思
う。何もかも、覚えさせたのはこの人だ。
 金吾の、幼いが故に細くやわらかな腰に回された小平太の腕は、年相
応とは思えないほどに筋肉がついていて、堅い。自他共に認める人間離
れした体力なのだからそれも当然なのか。
「……っふ、!」
 ぼんやりと、とりとめもないことを考えているのを察したのか、口を
吸いながらいきなり突き上げられて呼吸が止まった。
 ほんの一瞬ではあったが、苦しいことに変わりない。
 思わず焦って唇から逃れれば、その瞬間を狙ったかのように奥を抉ら
れて悲鳴じみた嬌声があふれた。抑えなど効かない。突かれ、こすら
れ、抉られて、そのたびに唇はわななきながら喘ぐ。甘ったるい声。あ
られもなく淫らに濡れた金吾のそれを愉しそうに聞く小平太の動きに容
赦はない。
 あぁ、これでいったい何度目になるだろう。休みの前日は本気で手加
減なんてしてくれない。普段から、そんなものとは無縁の人ではあるけ
れど、常に全力全開のような人だけれど。
 金吾は知らないことだが、小平太は以前に伊作にこっぴどく怒られて
いる。いわく、
「まだ身体も出来上がってない子供に無体強いておいて回数制限もしな
いってどういう了見なんだ!! 君はこの子を殺したいのか!? 僕た
ち六年どころか学園の中でも群を抜いて体力有り余ってる自覚あるだろ
うが!! 自制もできないっていうなら去勢してやったっていいんだ
よ!!」
 羅刹とはこのことか。殴られ蹴られなかったのが不思議なくらい、本
気で鬼と化していた。普段温厚な人間が怒ると怖いというイイ見本であ
る。そして伊作はやるといったらやる。留三郎や文次郎だったならば即
座に平身低頭土下座していただろう。仙蔵と長次は表面上はともかく内
心で焦りまくって挙動不審になりそうだ。小平太もかなりびびった。食
堂のおばちゃんと保健室の主に逆らうな。前者はともかく後者はあまり
知られていなかったりするのだが、忍術学園の暗黙の了解である。
 それ以来、一応、自制するようになったという顛末[てんまつ]が
あったりする。
 ──閑話休題。
 爆ぜる熱。奥に注がれる粘い白濁は、許容量を超えて隙間から溢れ落
ちる。
 下肢が重い。麻痺しているのかもしれない。あぁ、でも熱い。どろり
と、内も外も。
 息の荒さに連動して薄く上下する胸の上、ぽたりぽたりと落ちる汗の
感覚。縫いつけるように、指を絡めて握られた左手。涙でかすむ視界は
いつものことで。
 頬、咽喉、鎖骨を喰[は]まれて舐[ねぶ]られる。ねっとりとした
あたたかさは、けれど火照りすぎた身体にはむしろひんやりと感じる。
 獣のような人だ。では自分は獲物なのか。
 縫い止められた左手はそのままに、金吾は右手を持ち上げて、なんと
なく、小平太の髪を撫でる。情事の後は、何故かいつもそうしていた。
他意なんてない。手慰み、でもないと思う。
 ──思う、思う、思う。そればかりだ。確証がひとつとしてない。そ
れは自分が幼いからなのだろうか。
 髪を撫でていた手を取って、小平太は自分の頬をそれにすり寄せる。
掌に、指先に、唇を落として。それを見遣った金吾は、ゆるゆるとまた
小平太の頬を撫でる。何度かそれを繰り返し、合間にお互いの唇をつい
ばんで、ゆっくりと小平太が身を起こしながら金吾の内に収めたまま
だったものを引き抜いた。



 小平太の腕の中、眠りの淵で金吾は最初に囚われた頃を思う。
 嫌だとわめいても、やめてと泣いても、許してくださいと縋っても、
すべて無視して身体の内も外も奥もかき乱されて奪われた。何度も何度
も与えられる熱は凶暴で、それなのに触れてくるその手はいっそ残酷な
ほどにやさしかった。
 嫌うにも憎むにも十分すぎる理由ができたのに、嫌うことも憎むこと
もできない。かといって好きかと問われても困る。己を捕らえる腕を拒
まないのか、拒めないのか。甘受しているのか、諦めているのか。抱か
れ続ける現状に問うても、答えが出たことがない。そんな簡単なもので
はないのかもしれない。もしかしたら単純なことなのかもしれないけれ
ど。
 金吾が寝付くまで、行為の際にほどかれた髪を撫でられるのはいつも
のこと。大きくて優しい感触に、うとうとと意識が揺れる。まぶたはと
うに落ちていて、己を包み囲うあたたかさに心地よさを覚えつつ、ふ
と、気づく。
 小平太が与えるいろんなことを『好きじゃない、嫌いじゃない』と曖
昧に思うのに、このときに撫でてくれる手は、好きだな、と。


 眠りに落ちた金吾を見つめる小平太の目がどれほどの感情をのせてい
るのか、金吾はまだ知らない。



  〜 了 〜

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香雅竜月


 こへ金エロハァハァ!(キモ)
 竜月さんからの頂き物、第二談です! 素敵作品を有難うございます!
 嫌う事も憎む事もせず、かと云って好きとも断言できない、そんな金吾に胸キュンです。
怒っていいんだよ金吾……?! キレても誰も責めないよ……?! と思いつつ、そんな優しい金吾に萌。(おい)
 最強善法寺様なら七松をボコれそうだと思いつつ、そうしなかったご慈悲に頭が下がります。
 七松、お前、仏の慈悲に感謝なさいよ……?! でも仏の顔も三度までとも云うからな。油断できませんね!(笑)
 素敵エロ小説有難うございました……!(身勝手ながら、18禁指定にさせていただきました。)