どうしてこちらを見てくれないの、なんて。
愚問すぎて、涙が出た。
− 黄色い薔薇の花束を。
今日もひっそり、その姿を盗み見る。
澄んだ青色の眼球。精悍な顔つき。丁寧にまとめられ、後ろに流された金髪。太い首。無駄など
一切ない引き締まった体躯。
会議中、手元の資料を読むフリをしながら、ルートヴィッヒの姿を見る事が楽しみだった。
今日は。
今日は、少し疲れてるように見える。顔色がいつもより少し悪い。あ、目元をこすった。今日で五
回目だ。寝不足だろうか。夜遅くまで資料をまとめていたのかも知れない。いや、もしかしたら読書
だろうか。読書だとしたら、何の本を読んだのだろう。気になる。うちの人間が書いた本だったら、
嬉しい。
ヴァルガスが、声をかける。唇の動きを読む。「だいじょうぶ?」同じ事を思っていたらしい。答え
る。「あぁ、すこしねぶそくでな」「しぇすたしたの?」「じかんがない」会話が続く。
「―――会議中だ、私語は慎め」
云えばヴァルガスはピッと肩を跳ね上げて黙り、ルートヴィッヒは「すまん」と謝罪した。
会議はつつがなく進む。議題が議題なので、アメリカのアホがアホな案を出す事もなく、それに自
分が反対を口にする事もなく、フランスの馬鹿が乗ってくる事もなく、殴り合いもいがみ合いもなく、
会議は粛々と終わった。
今日は。
叱ってもらえなかったと、小さくため息。アルフレッドが真面目に会議なんてするからだ。
叱って欲しい。
ヴァルガス兄弟やギルベルトやエーデルシュタイン相手の時のように。
張りのある真っ直ぐな声で叱って欲しい。
なんで俺はヴァルガス兄弟やギルベルトやエーデルシュタインじゃないんだろうと考えながら、会
議室を出た。
次の会議では、俺を見てくれるだろうか。
*** ***
ぱらぱらと参加国が立ち上がっていく中、微妙な表情をした菊とフランシスだけは座ったままだった。
なんとなしに、顔をあわせ、小さくため息。
「……私は、自分の空気が読める長所を呪います……」
「……お兄さんも自分の恋愛センサーを呪ってるところだよ……」
うふふふ、と菊は怪しげな笑い声を上げる。
「あんだけ「好き好き大好き超愛してる俺だけを見てー!」オーラをぶつけられているのに気付かな
いルートヴィッヒさんって、天然記念物級に珍しい鈍感だと思います…」
「見てるこっちが居た堪れないんだよなぁ……。菊、何で鈍感って罪にならないのかな……?」
「私が知りたいですよ……」
はーぁと、二人そろって大きなため息を着く。
「会議中は私語を慎めだぁ? あんな空気をギリギリ震わせるか震わせないかのひそひそ話に注意
するなんて、嫉妬根性丸出しじゃねぇか。見てたお兄さんの方が恥ずかしかったよ」
「他の皆さん、キョトンとしてましたよね。誰が私語してたの? って感じで。そもそも、フェリシアーノ
君とルートヴィッヒさんの仲に嫉妬するなんて、今更過ぎる気もしますが」
「菊ちゃん、お兄さんね、ルッツって後ろから刺されるタイプの主人公だと思うんだ……」
「……手のかかる幼馴染的な子、委員長タイプの眼鏡ドジッ子、甘えさせてくれるお姉さん的な人、
果ては元ヤンなツンデレですか……」
「そこにお兄さん、隠しキャラのツン怖ヒッキーを入れたい……」
「どこのギャルゲですか。むしろエロゲ? 主人公隠れドエスって辺りがシュールですね……」
遠い目で淡々と語り合うオタク大国二人。
そんな彼らに何国かが話しかけようとしているが、一種独特な雰囲気をかもし出す二人に、誰もが
声をかけられず遠巻きにしてしまう。
「あ、フランシスさん、聞いてください。私また造語作っちゃいました」
「えー……。なんか厭な予感するけど、一応聞いとくわ。……どんな?」
「アーサーさんの属性なんですが」
にこり。どこか白々しい笑みを浮かべ、菊は云う。
「ツンヤンデレなんてどうでしょう?」
「……えーっと。元ヤンのツンデレって事?」
「いいえ。ツンの上に病んでるデレッ子です」
「それ怖くない? なんか怖くない?」
「そう言えばヤンデレの定義って難しいですよね。紙一重でストーカーですし」
「そもそもヤンデレって男に適用されるの?」
「女の子がやるとヤンデレなのに、男がやるとストーカーって感じですからねぇ……」
軽く肩を竦め、菊は云う。
「とりあえず、ルートさんが後ろから刺される前に」
「……刺される前に?」
「アーサーさんにヤンデレの美学を仕込もうと思います」
「違くない?! なんかそれ違くない?! 対処法間違ってない?!」
「オタクとして正しい姿ですよ! ヤンデレ萌! ヤンデレ万歳! 私はオタク大国本田菊としてヤン
デレ愛好家たちのために、清く正く美しいヤンデレを仕込んで参ります! では御免!」
「しまった! 菊ちゃんが萌優先してルッツの身を顧みなくなりやがった! 誰かー! サディクを呼
べー! 菊ちゃんを止めろー! このままじゃルッツが自分で内臓引きずり出したアーサーに馬乗り
されるか、雪の夜に後ろから刺されるか鉈で滅多打ちにされるー!」
*** ***
それから数日後。
鉈を持ち歩くようになったアーサーを目にしたフランシスが、叫ぶような声で菊の名を呼んだと云う。
了
本田様とフラ兄ちゃんのコンビっていいな、と思いました。CPの場合、攻は本田様でお願いします。←
自分の気持ちを理解しすぎてて、逆に暴走してると云うのがアーサーの基本形です。
独←英なのに頑張るのは仏兄ちゃんってのが味噌です。(…)
加筆修正 09/05/27
