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 - 忠誠の在り処。


「――それで?」
 シンの返答はこの素っ気無い一言だけだった。
”わからず屋”の騎士たちに向かって鼻息も荒く、
「本物のルークは此処に居ます」
「そこに居るルークは偽者のレプリカです」
「ですから、貴方達が仕え、守るべきなのは此処に居るルーク……アッシュなのですよ!」
 そう声高に語った自国の王女、ナタリアへの返答としては不敬もいい所であった。
「な……! 無礼な! シン! わ、私に向かってそのような態度! 許されませんわ!」
「別に貴公に許しを乞う必要などないが」
「……おい、貴様。何のつもりだ?」
「それはこっちの台詞だよ、六神将『鮮血のアッシュ』」
 そう云ったのは、シン同様レプリカルークの側に控えていたサクラバだった。
 シンとは違いアッシュたち一行に目を向けていたサクラバだったが、その視線にはありありと敵意
が浮いている。
「どの口で自分が「本物」のルーク様であるなどとほざくんだ?」
「何……?!」
「サクラバ! 何です、主人に向かってその口のききようは!」
「それは誤解ですナタリア様。俺の主君もシンの主君も」
 優雅な動きで、サクラバは寝台に眠るルークを示した。勿論、指でさすなどと云う下品な方法では
なく、右手全体を使い最大限の敬意を払って、である。
「こちらにいらっしゃるルーク様です」
「ですから、本物は……」
「その証拠がどこにある?」
「え?」
 虚を突かれたのだろう。シンの言葉に、ナタリアやアッシュだけでなく、後ろで面白くなさそうに眺
めていたアニス、ジェイド、ティア、ガイ、それから不安げに見ていたイオンとその後ろに控えている
ウンスイ、アゴンまでもが目を見開いた。
「本物のルーク様だと云う証拠がどこにあると云っているのだが?」
「見ればわかるでしょう! この赤い髪と翠の眸が……!」
「こちらで休まれていらっしゃるルーク様もご同様だ」
 何を馬鹿な事を、と侮蔑の表情でシンはナタリアを見た。失望さえしている目だ。しかしその目も
すぐにそらされ、ルークの方へと戻される。勿論ルークを見る目は、慈しみに満ちているが。
「う、そ、その……ですから!」
「と云うか。『鮮血のアッシュ』が仮に、万が一、本物のルーク様だったら凄く困るんですけど」
 仮に、万が一を思い切り強調してサクラバが口を挟む。反論しようとしたアッシュを無視して、サ
クラバはそのまま淡々と述べた。
「『鮮血のアッシュ』がやった事と云えば、キムラスカへ和平へ向かうタルタロスを襲撃して乗組員皆
殺し、カイツールで王族を襲撃、仲間を使ってカイツール軍港を襲撃の上王族を誘拐もしましたし、
導師イオンも誘拐してますよね。そのお身体の弱いイオン様を連れまわして無理矢理、無許可でユ
リア式の封印解除もしてます。
 あ、ついでに云えば、もし本当に、仮に、万が一! 王族で第三位王位継承者だとしたら、ダアトへ
亡命の罪も問われますね。見た所好き好んで六神将なんてやってるみたいですし。これ、キムラスカ
王国への反逆と見なされても可笑しくないですよ。下手したらダアトと戦争ですし。あ、タルタロス襲っ
た時点でマルクトにも喧嘩売ってますね。導師イオンを取り返す……って云い訳はありかも知れませ
んけど、流石に乗組員皆殺しでタルタロス乗っ取りじゃぁやりすぎですし。……ほんと此れ、下手した
らダアト・キムラスカ・マルクト三国、全て敵に回しますよね。……不味いですよね、万が一にも、有り
得ないですけど、王族がこんな犯罪行為を繰り返していたら。
 ――最悪ですね」
 にっこり。
 タカミ仕込みの語りと笑顔を、サクラバは優雅に披露して見せた。
 アッシュとナタリアの両名から血の気が引いている。事の重大さに今さら気付くか。
 逆にウンスイ、アゴンは感心しているようだった。戦いが本業の騎士でも口は回るのだな、と。
「ついでに云うなら、自分は本物のルーク様だと戯言まで云っている」
「あ、身分詐称追加かぁ。うわぁ、此れよくて追放、最悪死刑だね」
 あははははと笑いながら、恐ろしい事をさらりと云う。
 その笑顔に、ティア、イオン、アニスからも血の気が引いた。……穏やかな騎士だと思っていたが、
本当はこの中で一番怖い人なのかも知れない。
「だから君がルーク様だ、なんて云うのは困るんだ。そんな犯罪に手を染めた身勝手な王族は困るよ、
仕える身としてもね」
「な、な、なっ……!」
 ナタリアが拳を握り、ぶるぶると震えている。
「ちょ、ちょっと待ってよ! じゃぁソイツの罪はどうなるっての?!」
「ソイツ? 貴様、誰に向かってその下品な言葉を向けている?」
「だから、そこのレプリカルークだよ!」
 アニスの言葉に、騎士二人はそろって大きなため息をついた。
 ジェイドにはわかった。たった今、アッシュが本物では困る理由を述べたと云うのに、この小娘は何
一つ理解出来ていない、と云う失望のため息だと。
「不愉快な子供だな。レプリカなどと云う名称をつける事も不愉快だが、ルーク様に何の罪があると
云うのだ?」
「何って……、アクゼリュス滅ぼしたじゃん! 沢山の人殺したじゃんか!」
「そ、そうですわ! 本物のルークがそのような大罪を犯すわけがありません! 偽者はそこに居る
レプリカです!」
「そうね……。それなら納得行くわよね。オリジナルならそんな事、絶対にしないもの」
 女性陣の言葉に剣を抜きそうになったガイだが、騎士二人を見て踵を返した。
 ――ヤバい。
 其れを悟ったガイは、ウンスイに「逃げとけ」と云う視線を投げるとすぐさま部屋から逃げ出した。
ガイに続き、ウンスイもアゴンとイオンを連れ、周りに気付かれないように部屋から出る。
 イオンを労わりながら歩くアゴンは、女たちの事をどうしようもねぇカス馬鹿だな、と思った。
 彼女らの言動にこそ、なんの説得力も根拠もない。レプリカは確かにオリジナルに比べれば劣化
しているかもしれない。作られた命かも知れない。
 だがそれがどうした。
 オリジナルは女の胎から生まれたからその行いは全て正しいのか。レプリカは試験管で生まれた
命だから、全て間違っているのか。そんな馬鹿な理屈はない。そんな馬鹿な事をさも正論であるか
のように云った女たちの方が、人でなしの塵でカスだ。
 あぁヤバイなぁと、アゴンは笑う。
 ――何がヤバいかって、それは勿論。
 騎士、二人が。
 王国最強の、槍と城壁が。
「ほう――?」
 びりびりと、地を這う低音が響く。ジリジリと皮膚を焼くような――殺意とともに。
 ひくりと、その場に残された面々の顔が引き攣った。アニスが助けを求めるようにイオンが居た方
を見るが、勿論そこには誰もいない。
「サクラバ。どうやらこいつらは――人間の言葉が通じないようだ」
「あぁ、全くだね。こんな奴ら相手に真剣に語っていたのかと思うと、俺、自分が恥ずかしいよ」
「何、お前が恥じる事はない。恥じるべきはこれらの方だろう」
 遂にはこれ呼び。
 女性陣が喚いたが――ジェイドとアッシュは悟った。今、この瞬間、自分たちは騎士二人から完全
に見限られたのだと。

 見限られた自分たちは、即ち、騎士にとって―――

「お心もお体も深く傷付き休まれていらっしゃるルーク様のお側に、これ以上この醜悪なもの達を放
置しておくわけにはいかんな」
「つくづく、其の通りだよシン。白騎士(ホワイトナイト)最強の名を持ってして――」
 ジャキン―――
「排除しよう」
「同意だ」

 ―――敵に他ならない!

 二人に剣を向けられ、悲鳴が上がる。女性陣の悲鳴だ。
「な、何を考えていますの! こ、この私に武器を向けるなど!」
「ちょ、ど、どういうつもりよー?! 正気?!」
「あ、貴方達、自分たちが何をしているかわかってるの?!」
 なんともまぁ、見当違いな言葉だ。
 ジェイドは素早く身を翻して外に出た。
 アッシュはいざとなればナタリアだけでもと、剣に手をかける。
「何度も云っているはずだ」
「俺たちが忠誠を誓い、お仕えし、お守りするのはルーク様ただ一人」
「我らが主君に害なす輩は即刻処分する」
「幸い周りは瘴気の海だから、放り込めば死体も残らない。だから――」
 にっこり。
 サクラバは、最上級の笑みを浮かべ、
「安心して殺されてね?」

 *** ***

「……ど修羅場だなぁ。旦那はちゃっかり逃げてるし」
「……助けに行かないのか、ガイ殿」
「え? なんで? 俺の主人はただ今眠り姫のルーク・フォン・ファブレ様。あの連中を助けてやる義
理なんて一欠けらもないだろ?」
「ハッ。てめぇも大概黒いじゃねぇかよ、カス下僕」
「あっはっは。いやぁほんと、騎士のお二人であいつら皆殺しにしてくんないかなぁマジで。瘴気の海
に棄てるくらいなら俺も手伝うし」
「あの連中もしぶといからな。逃げ切るんじゃないか?」
「おー、本当だ。大慌てで逃げて来てやがるぜ、カス共が」
「あ、あの……」
「いかがなさいましたか、イオン様?」
「いえ、いいのでしょうか……放っておいて……」
「イオン様のご命令とあらば、助けに参りますが……」
「あぁ? おいこらウンスイ! イオンを唆してんじゃねぇぞ! んなカスな命令冗談じゃねぇ。あいつ
らの自業自得なんだしよ!」
「――と、アゴンは申しておりますが」
「……えぇっと、その……―――傍観してましょう、か……」
「お、さり気にイオンも黒い?」
「いえ……、あの言葉には正直、僕もカチンときましたから。反省くらいはして欲しいですし」
「全面的に同意致します」
「反省の前に絶命しそうだけどなー」
「あっはっは。あ、そうだ。アッシュ殺す権利は俺が欲しいなー。今から行ったら譲ってくれると思うか
い?」
「さぁ……?」



 了


 加筆修正 2009/08/20