・思ったよりも料理が……。
今日は天気も良いし、近くの公園で昼食を摂ろうと突然思い立った。休みの日だからと云って部屋
にこもっているより、太陽の下で食事した方が気持ちいいだろうと考えての事だった。
安物の小さな冷蔵庫から、卵とウィンナーを取り出す。卵は昨日の余りである味噌汁を加えて、偽
出汁巻き卵にし、ウィンナーは子供心からタコの形にして炒めてみた。
後は紫蘇を混ぜ込んだ米を三つのおにぎりにして、タッパーへと適当へ詰め込んでおしまい。弁当
と呼ぶには簡単すぎるし彩りも無いが、一人で食べるには充分であろう。
目当ての公園にて、呑気に弁当(仮)をもふもふと食べていた時だった。帝人の元へ、友人である
セルティ・ストゥルルソンがやってきたのは。
『帝人は料理が出来るんだな』
PDAに打ち込まれた文字を見て、帝人はぷるると首を左右に振った。
「適当に炒めただけですよ。此れを料理って呼んだらコックさんに悪い気がします」
『でも、ちゃんと食べられる物なんだろう?』
「はい?」
提示された言葉の意味が理解出来ず、帝人は首を傾げた。
セルティは少し悩むような仕草をした後、素早くPDAに文字を叩き込んだ。
『ほら……私は首が無いから、味見が出来なくてな……。塩と砂糖を間違える、なんて事もあって』
「あぁ……なるほど」
『新羅は何を出しても美味い美味いと云って食べるのだが……。練習してても中々上達しないし……』
そう提示して、セルティはしょんぼりとして見せた。首から上が存在しないので、当然表情は分から
ないのだが、仕草で大体の感情は把握できる。
首無し故の苦悩をどう解消しようかと帝人は頭を悩ませる。まさか自分がセルティ宅へ向かい、代
行で味見をする訳にも行くまい。それならばいっそ新羅が――と思った所で、おにぎりを持ったまま
の左手に違和感を感じた。
その違和感に誘われるまま、視線を落とせば――
そこには、おにぎりに噛り付いた『喧嘩人形』が居た。
あまりにも現実離れした光景に、帝人の脳みそが凍りつく。叫ぶなり何なり出来れば良かったのだ
ろうが――自分の手から静雄がおにぎりを食べている、と云う現実は余りにも、余りにも、在り得な
い非日常であったから、硬直しか出来ない。
ベンチに組んだ腕を乗せ、まるで主人の手から餌を貰う犬のように、もふもふとおにぎりを食べて
いる。
これが立ったまま、軽く腰を折り、帝人の腕を掴み自分の口元まで寄せて食べていたならば、まる
で少女漫画のワンシーンのようになったろうに。
何とも云えぬ空気が流れる中、当事者の帝人より衝撃が少なかったのか、セルティが復活してく
れた。素早くPDAに文字を打ち込み、ぐいと静雄の眼前へと押し出した。
帝人からは見えなかったが、そこにはこう示されている。
『な、何をしているんだ静雄?! それは帝人のおにぎりだぞ?!』
本題から若干ずれている感があるセルティの言葉に、静雄はぼそりと答えた。
「腹減ったんだ」
『見れば分かる、分かるけど静雄! いきなり食べちゃ駄目だろ?!』
「お、お腹空いてるんですか……?」
セルティの言葉は見えなかったが、静雄の声を聞く事は出来た帝人は、戸惑い気味にそう問いか
けた。
こくりと頷く静雄に、慌ててもう一つおにぎりを差し出せば、またもそもそと食べ始める。
当然のように、帝人の手から。
――あ、あれ……? 何だろう……?
右にはおろおろしているセルティ、左には帝人の手からおにぎりを食べる静雄。二人の非日常に
挟まれた帝人は、
――なんか、変な感じに楽しいぞ……?
余計な思考を一切放棄して、その非日常を楽しむ事にしたのだった。
その後静雄はお茶も全て飲みほして、一言礼を云うとどこか覚束ない足取りで公園から去って行っ
た。
ちなみに。
その日の静雄は不運に不運が重なり、昨晩から飲まず食わず眠らずの状態であったため、あの
ような奇行に出たのだが。
それを帝人は知り得ない。
公園を去って自宅に戻り仮眠をとった静雄が、目覚めた後自分の行動を振り返り――顔を真っ赤
にして悶絶したと云う事も、帝人は、知らない。
【配布元:Abandon】
