・実は親兄弟姉妹オチ。


 とあるCD・DVD販売店にて。
 静雄が見た事もない穏やかな顔で、一枚のDVDを手にしていた。
 それを目撃した帝人は、まずは夢である事を疑い頬をつねった。痛い。夢ではない。では幻覚かと
目をこするが、視界に変化はない。ならば現実だ。
 そろそろと近寄り、壁の陰に隠れ下から覗き込む。丁度静雄が表面を下に向けていたため、タイト
ルを盗み見る事が出来た。
 タイトルは――『吸血忍者カーミラ才蔵』。
 ――え、えぇー……?
 あまりにも静雄に似合わない映画タイトルは元より、何故そんなぶっ飛んだ映画のDVDを見て穏
やかな顔をしているのか理解出来ず、帝人は心の中で、同じ文字を連続で三回呟いた。
 確かに、主演の俳優の演技が神がかっており、ある種の高い評価を受けている映画ではある。「面
白そう」だとか「何だこりゃ」だとかそう云う表情で持つならば、納得のDVDだ。
 だが、穏やかな顔で持つのは、変だと云わざるを得ない。
 ――いや、待て待て、待てよ僕。もしかして、静雄さんは羽島幽平さんのファンなんじゃ? だから
穏やかな顔を……え、静雄さんがアイドルのファン? 美味しいのか美味しくないのか、一体どっち
なのか!
 誰も答えてくれないだろう疑問を、頭の中でぐだぐだと考えてしまう。
 だから帝人は気付かない。壁の陰にしゃがみ込んでいた帝人を発見した静雄が、気軽に近付い
て来ていた事に。
 蛍光灯の灯りから帝人を覆い隠すように、静雄は身体を曲げ、小さな物体を覗き込んだ。
「……何やってんだ、竜ヶ峰? 気分でも悪」
「ぎゃぁ?!」
「……」
 化け物でも前にしたような悲鳴を上げられ、静雄は若干傷付いた。見知らぬ相手からならば幾ら
叫ばれても気にしないが、それなりに付き合いのある人間にされると傷付くようだ。
 自分の一声が池袋最強の心に傷を負わせた事に気付かず、帝人は慌てて笑みを取り繕った。
「こ、こんにちは、静雄さん。すみません、いきなりで驚いてしまって……」
「……そうか」
 少しばかり安堵した声を静雄は出したが、帝人は気付かない。立ち上がり、埃がついた膝をぱた
ぱたと叩き落とす。
「あー……」
「えっと……」
 会話が途切れてしまい、お互いに気まずい気持ちになる。
 帝人は、今し方見た物について問いかけていいものなのか迷い。
 静雄は、具合でも悪いのかと声を掛けてみれば、己の勘違いであった事が気恥かしくて口を噤ん
でしまう。
 結局二人は――
「あの、それでは、また」
「……おう、またな」
 お互いにすっきりしない気分を抱えたまま、別れてしまった。
 この時どちらかが誘い文句でも口にしていれば、もうしばしの間互いの時間を共有できただろうに。
 こう云う様を、「不器用な恋」と人は呼ぶのである。
 そうして結局帝人は――俳優羽島幽平の本名が平和島幽(かすか)である事も、静雄の実弟であ
る事も知らぬままになったのだった。


(い、色々とチャンスだったのに……僕の馬鹿……!)

(あー……。何っかもやもやすんなー……)


 【配布元:Abandon】