・相手はすでに恋人持ち。


 ふとした拍子に、静雄は気付いた。
 ――あれ、こいつ……彼女居んのかな?
 今時の高校生なのだし、顔だって悪くない。いや、むしろ良い方だ。童顔ではあるが。可愛いと
形容出来るタイプの顔だ。
 インターネットが趣味だとは云うが、根暗とかオタクとかそう云った類でもない。ノリは良くないが、
空気が読めない訳ではない。素直で裏表も無く、浮気など絶対にしないだろう誠実な性格だ。
 難点と云えば、仕事面ではパッとしなさそうと云う所だろうか。エリートタイプでは無く、社会の小
さな歯車系だ。だが、与えられた仕事は着実にこなすだろうし、スリルや冒険を求めないで安らぎ
を欲するならば最適な人材と云えよう。
 世の中、エリートだけでは成り立たない。会社にはこう云った人材も必要だ。
 そう考えると、結構なお買い得物件ではなかろうか。
 ――……考えれば考えるほど、彼女いそうじゃね? いや、居たって構やしないんだが……。
 隣でちびちびと缶入りココアを啜る小さな高校生を見下ろし、静雄は思った。
 ――面白くない。
 と。
 それは妬みと云うには、弱い思いだった。自分にさえ居ないのに、何でこんなチビに、と云うよう
な醜い感情ではない。
 ただ、面白くないのだ。
 竜ヶ峰が自分には向けないだろう、安心しきった愛おしい者へ向ける特別な笑みを、恋人と云う
存在に与える事が、面白くない。
 出来る事ならば、その笑みは自分に向けて欲しい。そう考えて、静雄は脱力した。
 ――これじゃぁ、俺がこいつに惚れてるみたいじゃねぇか。
 事実、静雄の心の中には恋に似た感情が芽生え始めていた。だが彼は常軌を逸した肉体を持
ち、とてつもなく低い沸点をしては居るが――基本は常識人なのである。常識人で根ッこには穏や
かな人格を持つ彼は、”年下の男の子に恋する自分”が許容出来ない。そんな自分が存在する事
を、夢にも思わない。
 だから、もやもやとした掴みどころのない感情を、”面白くない”としか表現出来なかった。
 隣でちびちびと缶入りココアを啜る小さな高校生が、自分に恋をしているなどと、露とも思わず。
彼は染められた金髪をぐしゃりと掻き混ぜて、ため息と一緒にたばこの煙を吐き出した。


 【配布元:Abandon】