・曲がり角でごっつんこ。


 運が悪かったとしか云いようがない。不幸な事故だった。
 帝人が一人でのこのこ歩いていた事も。トムと二人連れ立って歩いていた静雄が、軽くつんのめっ
てしまった事も。
 丁度そこが曲がり角で、二人の頭が衝突してしまった事も。
 不幸な、事故だったのだ。
「りゅ、竜ヶ峰えええええええええええッッ!」
「おい。今、人体から出ちゃいかん音がしたぞ……」
 ごきゃん、と云う、鉄骨同士がぶつかったような音を出すような衝突現場を目撃したトムは、顔色
を青くしつつ帝人の様子を窺った。
 静雄に肩を抱かれ支えられている彼は、全身をぐったりと弛緩させて気絶していた。髪が短いお
陰でよく見える額には赤黒い痣が出来ており、そこから洒落にならない量の血が流れている。
 これが漫画だったら、ついでにしゅうしゅうと煙まで出ているだろう、そんな怪我だった。
「竜ヶ峰! しっかりしろおいコラ死んだら殺すぞ!」
「静雄、無茶を云っちゃいかん」
 彼なりの動揺なのだろうとは分かるのだが、怪我人に対してその言葉はあるまい。意識の有無を
確かめるならば、もっとソフトな言葉を掛けるべきだ。
「う、うぅ……」
「! 竜ヶ峰! 大丈夫か?!」
 十割方大丈夫ではないが、今云うとキレられそうなのでトムは沈黙を選んだ。とりあえず、119番
でもしようか。
「し、静雄、さん……?」
「しっかりしろ! これ! この指何本に見える?!」
 そう云って静雄は三本立てた指を、帝人の顔へと付き付けた。ちょっと近すぎではないだろうか、
と云うくらい間近へ。それでは逆に見辛いのではないだろうかと思ったが、やはりトムは沈黙を選ん
だ。
 指を突き付けられた帝人は――ふ、と慈愛に満ちた笑みを浮かべ、
「焦った静雄さんの可愛らしいお顔が見えます……」
 最後にハートマークでも付きそうな甘い声で、そう答えた。
「意識混濁しすぎだろ! しっかりしろ!」
「いや、限りなく正常に近いんじゃ……」
 がくがくと帝人の体をゆすり出した静雄を止めるよりも先に、トムは極自然に突っ込みの言葉を入
れていた。頭を打っているのだから、揺するのは拙いだろうと思いつつも。
「待ってろ! 今新羅の所に連れてってやるからな!」
「静雄さんの腕の中で死ねるなら本望です……」
「諦めんな! 怪我治ったら詫びに飯奢ってやっから!」
「うう、気合で蘇生します……!」
「よし、その意気だ! 行くぞ!」
「あ、おい、静雄!」
 止める間も無く、静雄は俗に云う「お姫様だっこ」で帝人を抱えると駆け出してしまった。それを見
送って、トムは頭をぽりぽりと掻く。
「……仕事中だぞー」
 もう届かない先輩としての苦言を、口にしながら。



 【配布元:Abandon】