・本人達だけが知らない。


 本人達だけが知らないのです。
 少年は早い段階から青年に愛情を抱き、恋心を抱き、それを大切に育てていた事も。
 青年は大分遅く、つい最近から、少年に対して淡い恋慕の情を持ち始めた事も。
 本人達だけが知らないのです。


 ある黒ずくめの女性が云います。
「あれだよねー、社会人×高校生とか萌えって云うか、むしろ滾る! 美形×可愛いとかもうBL小
説で使いつくされてる感があるけど、リアルだとまた違った萌えがあっていいよねー。これで受けッ
子が暴れん坊攻めの手綱握っちゃったらもう云う事ないかな! とりあえずさっさとくっ付け写真撮
らせろR−18希望ー」
「狩沢、少し黙っとけ」

 ある糸目の青年が云います。
「色んな意味でパーフェクトっすよ! 片や暴れん坊の孤高の強者、片や黒髪清純素朴ッ子! こ
れで帝人君がおにゃのこだったらパーフェクトを越えて神だったんすけど、三次元でそこまで望むの
は贅沢の極みと云うもの……! ここは妄想スキルで補完するしかないっす! とりあえず静雄さん
はさっさと告るべきっすね!」
「遊馬崎、お前も黙っとけ」

 ある色男が云います。
「ん、んんー、あり? ありなのか……?! 男同士はありなのか……?! 男なんてちゅーしても
エッチしても超つまらなそうなんだけど、静雄がそう云う趣味ならまぁ俺が口出しすんのも、なぁ? まぁ
平平凡凡なあの子には荷が重そうだとは思うけど、そこら辺は愛の力でカバーとか、ドラマみたくて
いんじゃね? とりあえず静雄はさっさと認めて押し倒せ」
「ろっちー、最初と最後で云ってる事違うよ」
「ちょ、ノン、名前出しちゃ駄目だって! また静雄に殴られて怪我しちゃうだろ?! いや、そうなっ
たらノンが手当てしてくれるよな、何それ美味しいちょっと静雄に殴られて来る! って、あれ、ノン?
ちょ、また耳引っ張っていたたたたたた御免なさい嘘ですちょっと願望が駄々漏れしただけなんだっ
てお願いだから放していたいいたたたたた、ちょっ、許してノン! ノンちゃーん!」

 ある眼鏡の少女が云います。
「えっと……帝人君はとっても優しいですし、静雄さんも良い人ですから……きっと幸せになれると思
うんです。でも……帝人君、何だか……えっと、その、悩み事があるみたいで……その、私には云え
なくても、静雄さんには云ってくれたらな、って思います。少しさびしいですけど、それは、私の我が侭
……ですから。だから……早く想いが伝わって、それで、帝人君の気持ちに、静雄さんも応えて下さっ
たなら……とても嬉しいです」

 ある童顔の少年が云います。
「えぇ? そうですねぇ、帝人先輩はかーなーり好きみたいですね、あの化け物の事。流石帝人先輩っ
て感じですよね。実は情報通だったり意外な知り合いが沢山いたり化け物愛してたり。それでこそ帝
人先輩って感じです。側にいて本当に飽きなくて良いですよね! でもあの化け物は僕らの帝人先輩
に手を出す前に濃硫酸飲んで死ねばいいと思います」
「青葉ー、笑顔がこえーぞー」「ヒヒッ」「おめーが飲ませろよー」

 ある上司が云います。
「あー、まぁ……相思相愛、までは行ってないけど、まぁ……好きなんじゃないかねぇ、静雄の奴はさ。
ほら、珍しいし、あぁ云うタイプが静雄に近寄んのって。俺が云うのもアレだけどねぇ……静雄自身が
ほら、非日常の権化だってのに、周りに集まる人間もまた揃いも揃ってねぇ……。俺はこんな職に就
いた時点で、限りなくグレーゾーンに近い一般人だから、帝人君? だっけ? あの子みたいに癒し
にはなんないよ。ま、お兄さんは応援してますよって事で」

 あるドタチンが云います。
「あるドタチンって何だよ……身元モロバレだろ……。……まぁいいけどよ。あー、何だ……まぁ、好
きあっちゃぁいるだろ、どう見ても。男同士ってのは、まぁ……個人の自由だと思うぜ? そこに関し
ては口出しはしねぇが……。静雄は色んな奴らから恨み買ってるからな。それに帝人が巻き込まれ
やしねぇかって心配はあるぜ。それを考えると単純に頑張れ、なんて云えねぇが、まぁ……静雄の奴
が守ってやりゃいいだろ。俺らもそれくらいなら協力してやるしよ」
「つまり応援って事よねー。やったね、ドタチンったらBLもいける口だったんだ。腐男子萌えー」
「反対する風に見せかけて置いて実は応援とは……! ツンデレっすか門田さん! 男のツンデレな
んて腐女子しか喜べないっすよ! 美味しくないっす!」
「何よぉ、ツンデレ男いいじゃない。ツンデレおじさんなんて称号があるゲームだって出てんだから、ツ
ンデレは女の子の物だけじゃないわよぅ。男だってありだよぅ」
「だっていかつい門田さんがツンデレた所でサブか薔薇族にしかならないっすよ!」
「よーしお前ら黙れ殴らせろ!」

 ある首無しライダーが云います。
『個人的には応援したいんだ。凄く応援したい。でも帝人って静雄が関わると変になるし、静雄も最近
帝人の名前に過剰反応して挙動不審だしで、何か色々と心配になるんだ……。いや、恋をする事自
体や人を愛するって云うのは良い事だと思うんだ。行きすぎたりすると被害を被ったりするけど、嫌悪
すべき物じゃないし。でも、その……何だろうな。二人がお互いを意識し合う度、好きになって行く度
に……私は不安になるんだ。でも、邪魔しようとか、破局すればいいとも思えないんだ。本当……ど
うしたらいいんだろうなぁ……』
「僕はセルティが居ればそれでいいし他がどうなろうと関係ないけど?」
『あぁうん、今お前の話はしてないな。黙ってて新羅』
「冷たいセルティも素敵だ!」

 ある情報屋の青年が云います。
「そうだねぇ……。色々云いたい事は沢山あるし、チクってあげたい事も沢山あるんだけどね。今此
処でそれを云うのはとても宜しく無いんだ。面白くない楽しくない! それは憎むべき事だ! なので
俺は沈黙を貫くよ。……うーん、そうだね……一言だけ云ってもいいかな。そうだね、これだけは云っ
ておこう。とりあえずシズちゃん死ね。地獄に落ちろ! そして帝人君は俺を好きになるべきだよね?!
そろそろ優しくして下さいお願いします!」
「必死すぎると見苦しいわよ」


 本人達だけが知らないのです。
 少年は早い段階から青年に愛情を抱き、恋心を抱き、それを大切に育てていた事も。
 青年は大分遅く、つい最近から、少年に対して淡い恋慕の情を持ち始めた事も。

 本人達だけが知らないのです。
 周りの人間にばればれだと云う事も。
 あるいは応援され、あるいは反対され、こっそり密かに見守られていると云う事も。
 本人達だけが知らないのです。


 そして二人の恋の行方も、結末も――
 まだ誰も、だぁれも、知らないのでした。



 ベタな恋愛ネタで10のお題 了


 執筆 〜2010/04/03


 【配布元:Abandon】