・すれ違い様に落し物。


「待てコラ死ね臨也あああああああああッッ!」
「あっはっはっはっはっ! 静ちゃんこっちらぁ手の鳴る方ええええええええ!」
 見慣れたくはないが見慣れた光景。自動販売機を担いだ『喧嘩人形』さんが、「うざい」が服を着
て走り回ってるような人を追いかけている。あの自動販売機、投げるつもりなんだろうか。
 一陣の風のように前を過ぎ去って行った二人を目で追いながら、足元に転がった缶ジュースを拾
い上げた。静雄が担いでいた自動販売機から零れ落ちた物だ。
 炭酸飲料だから、今プルトップを上げれば中身が勢いよく噴き出るに違いない。それを悟った帝
人はうむ、と頷きを一つ。今までの行動パターンから云って、あの二人はこちらへUターンしてくる
に違いないと云う確信の元、缶ジュースを前方へ向けて構えた。
 思った通り、腹の底から鬱陶しい笑い声と、清々しい怒声が近付いて来る。先を走る黒いジャケッ
トの人が、帝人へ向かってウィンクを一つ。それに笑顔を返した帝人は、タイミングを計り――
 プルトップを上げた。
「ぎゃぁっ?!」
 シェイクされた炭酸飲料は解放された瞬間勢いよく噴き出し、狙った相手を甘い汁びたしにする。
 普段からは想像も出来ない素っ頓狂な声を上げて、担いでいた自動販売機をずるりと落とし、静
雄は停止した。
「あははははははははっ! 静ちゃんったら水も滴るいい男ー!」
 けらけらと笑う人に向かって、「さっさと消え……逃げて下さい」と云って手を振る。最後まで鬱陶
しい笑顔と笑い声を上げながら、走り去って行く黒ジャケットに興味も無く。帝人は硬直したままの
静雄へと目を向けた。
「静雄さん」
 油を差し忘れたブリキ人形のような動きで、静雄は首を動かし、帝人へと目を向ける。相当驚い
たのか、顔が青ざめていた。
 帝人は。
 純朴で純粋で無害で善良で愛らしく慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「落し物ですよ」
 そう云ってほぼ空になった缶ジュースを傾ければ、静雄の顔がひくりと引き攣った。



 【配布元:Abandon】