・人間椅子の話(女体化帝人様→女帝様と高身長(ヨシキリ)くん)



 ブルースクウェアが集まる場所は、廃工場や適当なマンションの屋上である。”居心地”と云うな
ら、虫さえ気にしなければ鬱陶しい他者の視線も無いのでまぁいい。だが”座り心地”と云う物理的
な視点から行くと、最悪一歩手前と云えるだろう。
 特に、帝人のような女子からすれば。


「クッション持ってこようかなぁ……」
 ぽつりと呟かれた言葉は、確実に独り言だった。それはとても小さい声で、注意して耳を傾けて
いなければ到底聞こえなかっただろう音量だったからだ。
 青葉ほどでは無いにしろ、この新しいリーダーに対して気を配っていたヨシキリには、その声は
届いていた。ヨシキリに聞こえていたと云う事は、当然青葉にも聞こえていた。まるで「チャンス!」
と云わんばかりに、青葉が嬉々として帝人へと駆け寄る。
「どうしました帝人先輩? クッションがどうとかって聞こえたんですけど」
「ん? あぁ、あのね、ほら、此処って椅子とかないじゃない? だから、その……」
 少し頬を赤くして、照れ臭そうな顔になって、
「おしり、痛くって……」
 年齢よりも随分と幼く見える困り顔と共に、帝人はそう云った。
 本当に恥ずかしそうに云う物だから、見ていたヨシキリの方が照れてしまった。
 そして思う。
 今の笑顔や言動を見ていると、青葉の手をボールペンで刺し貫いたのは本当にこの女(ひと)な
のだろうかと。
 青葉の側に立っていたので、他の仲間達より間近でその光景を見ていたと云うのに、ヨシキリは
未だに実感がわかない。
 普通の女の子だ。どこにでも居そうな、普通の女の子。
 なのに。
 あの小さくて白い華奢な手が、青葉の手を貫いた。柔らかそうな厚めの唇からは、冷酷とも云える
粛清命令が下される。
 大きな丸い目は――あの時、世界の全てを否定していた。
 穏やかな印象しか与えない容姿で、想像もつかない事を行う。そんな女(ひと)だからこそ――青
葉は新しいリーダーに選んだのだろうか。
「――でも持ち歩く訳にもねー」
「僕でよかったらお持ちしますよ!」
「やだよ。青葉君に渡したら何に使われるかわかんないもん」
「そんな! ただ帝人先輩のお尻に敷かれていたクッションに頬ずりして帝人先輩のお尻の柔らか
さを想像するだけですよ!」
「キモイ死んで」
 ヨシキリが考え事をしている間にも話は進んでいたらしい。またもや青葉が、自分たち相手の時と
は違った気持ち悪いキャラクターで馬鹿な事を云い、帝人が柔らかな笑顔で辛辣な言葉を吐き棄て
て居る。
 だが、酷い言葉を云いながらも――帝人はどこか楽しそうに見える。遠慮せずに物事をずばずば
と云えると云うのは、確かに楽しくはあるが。
 どうしてか帝人は、ヨシキリ達ブルースクウェアに対しては未だに遠慮の色を見せると云うのに、青
葉に対しては全くと云っていいほどない。「死んで」だの「黙れ」だの「屑」だの云いたい放題だ。
 別にヨシキリは被虐趣味の人間では無いので、帝人から蔑まれたい訳でも辛辣な言葉を貰いたい
訳でもない。だが、青葉にだけ気を許しているような帝人の態度が、少しばかり気に喰わない。それ
と同時に、帝人に気を使われない青葉を”羨ましい”とも感じている。
 繰り返すが。ヨシキリは決して被虐趣味者などではない。女から虐められたいなんて一度も思った
事などない。ブルースクウェアなんぞに所属しているが、恋愛観などは真っ当である。
 だが、二人の関係を羨ましいと感じている自分も居る訳で――
「あ、そうだ」
 弾んだ帝人の声に、錯綜する思考が中断された。
 何事だろうと顔を上げれば、優しく微笑んだ帝人がヨシキリを見ていて、

「ここ、座るとお尻が痛いんだ。ねぇ、椅子になって?」

 そう柔らかな声音で云った後、にっこりと笑った。
 普段のたおやかな微笑とは違い、年相応で、どこか意地悪気な笑顔に、ヨシキリは一瞬見惚れた後。

「お、おれでよければ……?」

 動揺しつつ、了承していた。
 恐らく、普段のヨシキリなら断っていた。「椅子になれって人に向かって云う事じゃねぇだろ!」
と心の中で突っ込みつつ、自分に出来うる限り丁寧に断って青葉にパスしていた。
 云うなれば、笑顔に惑わされた。初めて見る笑顔に動揺を誘われ、操られたかのように頷いていた。
 帝人は笑顔一つで、被虐趣味でも何でも無い男を、家具にしてしまったのだ。
 ヨシキリが正気に戻ったのは、
「――てんめぇヨシキリイイイイイイイイイイイイイイイッッッッッ!」
 十割がた本気の怒りが入った青葉の怒声に、鼓膜をぶったたかれた後であった。


 某月某日、ブルースクウェア喧嘩担当のヨシキリ。
 リーダー竜ヶ峰帝人の椅子に任命されました。





・おまけ

「帝人先輩の安産型のエロカワヒップがお前の背中や太ももに乗るとかマジ許さん頼む今此処で死
んでくれヨシキリッッッ!」
「そんな理由で死ねるかアホッッ!」
「ちょっと青葉君安産型ってどう云う意味? でかいって云いたいの? でかいって云いたいの?」
「帝人先輩はバストもヒップも張っててちょっとウェストに肉が余ってるのがエロくって最高に素晴らし
いと思います!」
「お願い死んで」
「総長! 帝人サンッ! ボールペンで眼球刺すのはヤバイっす! ヤバイっすからァッ!」


「……あいつら何してんの?」「じゃれあってんの?」「いちゃいちゃしてんの?」「にゃんにゃんしてん
の?」「何それあいつら二人死ねばいいのに!」「おれも総長とべたべたしたい!」「総長マジえろい
よな」「馬鹿。んな事云ってっと青葉みてーに刺されんぞ」「あ、刺された」「マジでか」「眉間にボール
ペン刺されて笑ってられる青葉ヤベェ」「歪みねぇな青葉」「てーか何でヨシキリの奴リーダーを後ろ
から抱きしめてんの?」「セクハラだ!」「抜け駆けだ!」「……おれらも混ざるか!」「賛成!」「異議
なし!」「おらーヨシキリ死ねえええええ!」
「てめぇらまで来るんじゃねぇ! 余計ややこしくなるだろがッッ!」
「帝人先輩……! もっと刺して下さい……!」
「キモイ死んで」



 了


 執筆 2010/11/06